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沖縄を見つめたスイス人監督の作品、「カタブイ KATABUI ~沖縄に生きる〜」

祖父の100歳の誕生日を祝う家族のシーン。左は赤いチョッキを着て誕生会を待つ一家の主 Daniel Lopez

沖縄で2月4日に初公開される映画「カタブイ KATABUI 〜沖縄に生きる〜」が昨年の秋、スイスのジュネーブで上映され大きな反響を呼んだ。旧盆や祖父の100歳の誕生日を祝う家族、空手や琉球舞踊を継承する人々、ラップをにぎやかな市場で歌う中年の女性。こうした祖先や共同体を大切にしながら伝統の中に淡々と生きる人々を描いていくスイスのダニエル・ロペス監督の映画は、スイス人にもスイスに住む日本人にも、驚きと発見の連続だった。「外国人に、沖縄の人の自然な生き方、無意識の抵抗の仕方を伝えたかった」と語る監督にスイスでインタビューした。

 「この映画の日本での初公開を、那覇の桜坂劇場で2月4日にします。その日はたまたま息子の誕生日。ラップのコンサートもあってすごく盛り上がると思う。楽しみ」と監督。それは上映会が中心?それともコンサートが中心?などと問うのは野暮なことだ。沖縄ではジャンルなどという細かいことには関係なくこうした盛り上がりが日常的に起こるようだから。

 それは、映画の初めのあるレストランでのシーンとオーバーラップして納得できることだ。カメラが暖簾をくぐるや、一段高い座敷のようなところに食事をする客がずらりと並んでいる。その前に三線(さんしん)を弾く男性がいて、その演奏に合わせて客は歌ったり箸で拍子をとったりしている。「レストランでこんなに自然に盛り上がるなんて、いいな」と観客は思うし、またそれを支える共同体の存在や伝統・慣習を感じうらやましくなる。

沖縄の人の精神性

ダニエル・ロペス監督 Daniel Lopez

 13年前たまたま観光に行った沖縄で2日目に、「ああ、ここなら住める」と思ったのだとロペス監督はいう。沖縄の人の寛容性、それは故郷のスイス・ジュラ州の人の寛容性に通じるものだった。同時に悲惨な沖縄戦の過去や米軍基地を持ちながら、皆はどうやって生活しているのだろうか?ということに興味を持った。

 沖縄に腰をすえて少しずつ見えてきたこと、あるいは4年間の撮影で見えてきたことは、例えば米軍基地の存在に対する抵抗の仕方が直接的なものでなく、「無意識の抵抗だ」ということだった。「無意識の抵抗」とはあまり聞きなれない言葉だが、それは何なのだろうか?

 「沖縄の人たちは、自分たちの文化・伝統を守る。つまり自分たちのアイデンティティーを守っている。沖縄の人の伝統・アイデンティティーとは、一言で言えば仏壇の前で手を合わせるようなこと。先祖を大切にして先祖に守られているという確信があれば、個人として完全な自由を獲得する。だから、アメリカが沖縄にもたらすグローバリゼーションによる社会の急激な変化や米軍基地のような負の遺産があろうと何も恐れることはないし、直接的に戦う必要はない」との答えがロペス監督から返ってきた。

 「でも沖縄の人たちは、すごいことをやっているという外からの視点・分析をぜんぜん理解していない。すべてが普通だと思っている。そのことも僕にはすごいことだった」

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 「ヨーロッパでの上映会後、たくさんの人がヨーロッパの人は直接的に抵抗するし、ときには暴力を使うと言った。でも沖縄では、自分たちの生活を守りながら生きていくことで抵抗している。それがいわば『無意識の抵抗』と僕が呼ぶもの。ヌチヌスージサビラ(命のお祝いをしましょう)という沖縄の言葉があるが、これは沖縄戦の直後に『生き残った者が命を大切にして、生きていこう』というので、有名なオナハブーテンという芸人が踊り、歌い、人々を励ましたという話があるが、まさにそのことに通じる」と、監督は説明する。

カメラと対象との距離感はゼロ

 映画には、100歳の誕生日で楽しそうに歌っていた老人のお葬式の場面がある。火葬場で家族が骨を拾うシーンなど、カメラはまるで「家族の一員の目」のようにしてその場を詳細に撮影していく。

 お葬式をあそこまで写した映画はあまりないのでは?と質問すると「やり過ぎかもしれない。でも家族との信頼関係があったからね」との答えが返ってきた。

  確かに、ロペス監督が築いた信頼関係でこの映画はできたといっても過言ではないくらい、カメラとの距離感がまったくないシーンが多くある。ある人物が、「ダニエルさんの考えは正しいかもしれないけれど、僕はね…」と、カメラを持つ監督に話しかける場面もあれば、60歳を過ぎてラッパーとして活躍するカメさんが、市場のある店の前に座って監督と普通に話しているような場面もある。一度、通行人がカメラの前を通ろうとすると、カメさんは「あっ、どうぞ」と手で合図しながら、会話は途切れることなくそのまま続いていく。

ラップをにぎやかな市場で歌うカメさん(左) Daniel Lopez

「スーパーおば」

 ところでこのカメさんの本名は新城利枝子(しんじょう・りえこ)さん。彼女が市場で黒の丸めがねをかけラップを歌う場面は圧巻だ。ロペス監督に言わせれば、彼女は「スーパーおば」。以前働いていた老人ホームで退職後もときどき手伝っている。旧盆をたくさんの孫と一緒に祝っているのも彼女だ。「沖縄の人という感じが、彼女の中に全部ある。登場人物は男性が多いけれど、女性は彼女一人だけ。カメさんだけで沖縄の女性を全部代表しているので、他の女性はいらないと思った。力があるからね」

 こう話すロペス監督の表情は、カメさんに対する優しさに満ち溢れている。「これは、大好きな沖縄を外国の人に伝えたいと思った作品。ラブレターの一般公開みたいなものかな。でも、視点はしっかりとあって、あくまで僕というスイス人が見た沖縄であることは確か。タイトルもはじめは、『ダニエルが見た沖縄』にしようと思っていた」

 「人類学者はある社会や共同体を『観察』するとき、あくまで客観的だけど、僕の場合は社会を見つめるとき心が入る。そこが違う」とロペス監督は言う。そして次の作品の構想をこう話した。「何かもっと深く、沖縄の生活感を描きたい。1年間、沖縄のどこかの小さな村で生活して、みんなと仲良くなって、じっくり撮影するとか…そんなことを考えている」

ダニエル・ロペス(Daniel Lopez)監督略歴

1970年、スイスのジュラ州に生まれる。両親はスペイン人。

2003年に沖縄に移住し、以来13年住んでいる。沖縄のテレビにレギュラー出演していたので、「沖縄でダニエルさんを知らない人はいない」といわれる。

沖縄芸術大学大学院で写真やビデオを学んだ。そのとき会った芸術仲間をジュラ州・ポラントリュイのギャラリーに招き、第1回アート展「ジュラ・沖縄」を2010年に企画。スイスと日本の芸術交流を行った。第2回アート展は今年春に開催される。

「カタブイ KATABUI ~沖縄に生きる〜」は、監督の初の長編ドキュメンタリー映画。写真家としても活躍している。

なお、カタブイとは沖縄の言葉で「片降い」と書き、監督によれば「晴れている片方で降る雨のこと」。このタイトルをつけた理由は、米軍基地問題などがある一方で、沖縄の人々が先祖に守られ精神的に自由な生活を送っているという対照性・共存性を表現しようとしたからだという。







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