美しいスイスアルプスでも、生物多様性は危ない?
増え続ける人類が求めるものは、しばしば自然の需要と衝突する。これは、スイスで定期的に政治的な議論を引き起こしている。
スイスでは230種類の生息環境のほぼ半分、特に湿原、農地、淡水の生態系が脅かされている。これら生息空間の抱える問題が野生生物へのプレッシャーとなり、国内4万5千種の動植物の約3分の1が脅かされている。もう1つの問題は、動植物が病気に抵抗し、また気候変動に適応するのに必要な遺伝的多様性が失われることだ。
スイスやそのアルプスは温暖化している。標高の高いところでは、気温の上昇が動植物のバランスを狂わせている。これまで標高が高く生育できなかった植物でも十分繁殖できるようになり、高山植物と場所や栄養を奪い合っている。これらに食べ物やねぐらを依存している動物にも影響を及ぼす。
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スイス南部にあるボッレ・ディ・マガディーノ保護区は、渡り鳥にとって重要な休憩所となっている。国際的に重要な湿地帯で、スイスでも数少ない生物多様性保護地域だ。その様子をルポで紹介する。
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羊を飼っている山岳農家の多くは、オオカミやオオヤマネコのような捕食者の駆除を望んでいる。オオカミやオオヤマネコは、19世紀と20世紀初頭、国内では局所的な絶滅に追いやられた。オオカミは約180頭が国内で暮らしている。
現行法では、オオカミは一定数の動物を襲った後にのみ射殺が認められている。2022年12月、連邦国会はオオカミを予防的に射殺できるよう狩猟法を改正した。施行後は、狩猟監視員が人里を脅かす形で接近するオオカミを射殺できるようになる。
オオヤマネコの個体数を増やす政府の取り組みは成功し、現在は約250頭が生息する。
スイスでは、生物多様性を高めるための活動が定期的に行われている。
今後予定されている国民投票では、憲法改正を含む2つのイニシアチブ(国民発議)の是非が問われる。1つは生物多様性の保護に特化したもので、もう1つは市街地の拡大防止を求めている。
これらのイニシアチブを提起したプロ・ナトゥーラ、バードライフ・スイス、スイス景観保護開発財団などの自然保護団体は2020年9月、イニシアチブ成立と国民投票に必要な署名を集めて政府に提出。「多様な景観、活気に満ちた小川、肥沃な土壌、豊かな建築物。スイスを象徴するものの多くは、大きなプレッシャーにさらされてきた。それにもかかわらず、政治家や当局は、将来に向けてこの富と私たちの生活を守るためにほとんど何もしていない」と批判している。
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連邦環境局は2017年の報告書外部リンクの中で、生物多様性は「食物を生産し、気候を調整し、空気と水の質を保ち、土壌形成に関わり、人間にレクリエーションの場とインスピレーションの源を提供する」ため、不可欠であると指摘した。
確かに、新鮮なリンゴをかじるのは、収穫期の楽しみの1つだろう。だが、花粉の媒介者が不足すれば、リンゴやその他の果物の収穫量が減る。皮肉なことに、単一栽培、除草剤、殺虫剤が生産に関わると、人々に食物を提供するという努力自体が問題の一部になりかねない。輸入動物飼料を数に含めると、国内5万の小規模農家の生産量は、国全体の食料需要の約半分にしかならない。
しかし、多種多様な種を持つことにはデメリットもある。外来種は時として、生活空間や食物の奪い合いを引き起こし、地域固有の動植物にとって脅威となりえる。
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JTI基準に準拠