外出自粛で家庭内暴力が悪化?新型コロナ
二重にロックされたドアの向こうでは、何が起こっているのかー。新型コロナウイルスの感染封じ込めのため、スイスでは外出自粛が続いている。しかし配偶者間暴力(DV)の被害者支援団体は、「自宅隔離」によって被害者がさらなる暴力の危険にさらされると懸念する。
「自宅で過ごしてください」―。国民が守るべき最も重要な感染防止策として、政府は強く外出自粛を呼び掛けてきた。世界の約30億人が、自分自身や他の人を守るため、不要な外出を控えるよう指示されている。
ただこの措置は、自宅が基本的に安全で居心地の良い場所だということを前提としている。忘れてならないのは、暴力はこのような自宅で頻繁に起こるということだ。特に女性が被害者になりやすい。移動の自由を制限されるのは、そうした女性たちにとって悪夢となりえる。
ベルン州ビール(ビエンヌ)のDV被害者支援団体「Solidarité Femmes(女性の連帯)」の代表で、被害者を受け入れるシェルターの責任者でもあるミリアム・ジュフュレさんは「私たちは矛盾した状況にいる。国民は家にいるよう指示されているが、DV被害者にとって、家にいるのは外出するより危険」と訴える。
「DV被害者にとって、家にいるのは外出するより危険」 ミリアム・ジュフュレ
政府が国民の移動の自由に広範な制限を課したため、同団体にかかってくる電話も減った。だが、ジュフュレさんはそれを喜ばしいこととは思っていない。「いま加害者と一緒に自宅に閉じ込められた女性たちは、助けを求めるのに必要な自由さえもないと感じているに違いない」。
支援センターは現在も開いている。だが被害者が連絡を取ろうと思ったら、まず加害者であるパートナーの目の届かない場所に行かないといけない。「外出自粛中でも買い物や通院、散歩は認められている。そのすきに連絡してほしい」とジュフュレさんはアドバイスする。通報先は警察だ(電話117)。
目撃したら行動を
隔離も重要だが、有事の際だからこそ「連帯」にも目を向けるべきだ。友人、隣人、知人がこうした問題に注意を払う必要がある。
「被害者が自分で助けを呼べなくなったら、頼みの綱は目撃者だ。暴力的な口論を耳にしたら警察に通報を。そうすれば警察が現場に急行し、調べてくれる」とジュフュレさんは話す。
現時点で、同団体の業務は通常通りだ。ただソーシャルディスタンシング(社会的距離)などの感染防止策は講じなければならなかった。可能であれば相談は電話で行っている。シェルターの収容規模も一部縮小した。
しかしジュフュレさんは「他の機関、ホステル、ホテルと協力し、全ての要望に応えられるようにしている。リソースはある。業務は停止しない。そのことは心に留めておいてほしい」と呼び掛ける。
ただし、政府の外出自粛令が長期間続いた場合、スタッフ不足に陥る心配はあるという。「ある従業員が病気になった場合、ほかのスタッフが(休校中の)子供の世話で出勤できないケースも考えられる」
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スイスでDV対策強化
ジュフュレさんは、フランスのような「外出禁止令」がスイスでも出たら困る、と話す。「そうなったら、我々の仕事はさらに困難になる」
自己隔離は暴力につながるか?
自宅で自主隔離の生活を続けると、暴力が増える可能性はあるのだろうか。その懸念について、ジュフュレさんは「隔離はすべての家族にとって試練だ。家族生活への圧力が高まり、今までの不満が悪化する可能性がある」と話す。
新型コロナウイルスによって、家族が不安になり、家計も危うくなる可能性もある。それがストレスを増やし、不協和音を高める。
最悪の事態を避けるためには、最適なタイミングで助けを求めることが必要だという。ジュフュレさんは、あらゆる人がそれを自覚してほしいと訴える。「加害者になりそうだという人でも助けを求めることができる。そういう人たち向けの団体がある」
一般的に、状況が緊迫してきた場合には、外に出てスポーツをしたり、新鮮な空気を吸うよう、ジュフュレさんはアドバイスするという。
家庭内暴力の件数
国レベルでは、家庭内暴力の件数は増加していない。ビールでは相談件数は減少傾向にあるが、他地域では増えている。
「しかし、最も危険が大きいのは子供が多い家族、狭い住宅、安定した雇用のない親のところにある」 ピア・アレマン
その1つが、チューリヒのピア・アレマンさんが共同運営する相談センターだ。アレマンさんはオンラインメディアwatson外部リンクに「すべての人が当事者になりうる。しかし、最も危険が大きいのは子供が多い家族、狭い住宅、安定した雇用のない親のところにある」と語った。
連邦政府もこの問題を認識しており、連邦男女共同参画局(EBG)をトップとしたタスクフォースを立ち上げた。
タスクフォースは状況を定期的に調べ、家庭内暴力が増加した場合に取るべき措置を検討する。EBGは声明で、被害者支援専門のセンターが各州で稼働していると付け加えた。
被害者保護は、警察の最優先事項だ。「暴力事件が発生した場合、警察は加害者を自宅から遠ざけ、子供への危険に関し関係機関に報告することができる。接触・接近禁止命令も出せる。州当局はリスクの高い状況への対応を継続する」という。
中国からの悪いニュース
外出禁止令の間の家庭内暴力に関しては、中国に先例がある。外出禁止の解除後も、状況は芳しくない。
フランス語圏の日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブによると、隔離で問題が悪化した。「中国のメディアでは、暴力を受けた、虐待された、誘拐された、という女性の証言が数多く取り上げられている」という。
家庭内暴力の増加は、政府が厳格な外出禁止令を出したイタリアでも見られる。隔離は人の一番醜い部分をさらけ出すこともあるようだ。
あなたの身に危険が迫ったら
暴力の被害を受けている人:
緊急時:
警察(電話117)、www.polizei.ch外部リンク
医療支援、電話144、www.erstehilfe.ch外部リンク
無料相談窓口の情報(匿名、秘密厳守)
https://www.opferhilfe-schweiz.ch/de/外部リンク
保護シェルター
https://opferhilfe-schweiz.ch/de/wo-finde-ich-hilfe/外部リンク
https://opferhilfe-schweiz.ch/de/was-ist-opferhilfe/schutz/外部リンク
https://frauenhaus-schweiz.ch/外部リンク
https://www.violencequefaire.ch/languages/de/de-dispute外部リンク
暴力の加害者:
相談とプログラム
(独語からの翻訳。宇田薫)
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