「アメリカの関心の中心はもはやヨーロッパではない」
バラク・オバマがアメリカ大統領としてヨーロッパ諸国を初訪問している間、元駐米スイス大使がアメリカとヨーロッパの脆弱な関係について語った。
5月にドイツ語で出版予定の『アメリカ、バラク・オバマ、そしてアメリカン・ドリーム』の著者アルフレッド・デファゴ氏は、新世界秩序におけるスイスの役割も説明する。
ウィスコンシン大学で国際関係論を教授するデファゴ氏は、小論から成る著書の中でオバマ大統領にとっての好機と危険を説明し、どのような国際関係と誤解が新たに生まれるかについて考察している。
デファゴ氏は、ホロコーストで犠牲になった人たちがスイスの銀行に預けていた資金が、半世紀以上経ってもまだ遺族に返却されなかった問題が発覚し、スイスとアメリカの関係が緊張した1990年代後半にスイスの大使として駐米した。
swissinfo : なぜこの本を書いたのですか?
デファゴ : アメリカとヨーロッパ間にはまだたくさんの誤解が見られます。オバマ政権に代わってから、ヨーロッパ人は突然アメリカに対してオープンになりました。彼らはオバマがほとんどすべてを変えることができると思っています。そして時折オバマを無批判で称賛し、アメリカの将来に対しても楽観視しすぎています。
矛盾していますが、私は時々このオバマに対する熱狂は、ブッシュともう1つのアメリカに対する憎しみの裏返しではないかという印象を持っています。しかしどちらのケースにおいても、ヨーロッパ人のアメリカに対する見方は、現実からかけ離れており、決してバランスがとれているとは言えません。
swissinfo : 著書はドイツ語で書かれていますが、翻訳をする予定はありますか?
デファゴ : ありません。この本はヨーロッパの読者にとっては納得がいく内容です。アメリカ人向けには、しばしば扱いにくい態度をとるヨーロッパ人に対して、アメリカ人がどのように考えているかを説明するための、全く違う本を書かなければなりません。
swissinfo : オバマ大統領は非常に高い支持率を得ていますが、ここ数週間難しい状況にありました。最大の難関は何でしょうか?
デファゴ : それは間違いなく選挙運動中の公約です。彼は希望と約束の星で、民衆の期待が非常に高まりました。その結果、今それらに応えなくてはならないという問題があります。
そのうちわかるようになるでしょう。まだ希望はありますし、それが感じられますが、永遠には続きません。オバマに対する忍耐を必要とする日がくると思います。しかし初冬までに、経済面、そして心理的、知的な面ではっきりと感じとることのできる変化が起きなければ、彼にとって深刻な問題になるかもしれません。そして人々は解決方法をほかに探すようになるでしょう。2010年の11月には中間選挙があり、それが民主党にとって敗北になりかねません。
swissinfo : アメリカ合衆国建国の父はアメリカン・ドリームを「人生、自由、そして幸福の追求」と定義しました。これは今でも正確な定義でしょうか?
デファゴ : ほかのすべての夢と同様、今も漠然とした定義です。しかし、これは、物質的な繁栄の達成を願うすべての人間にとって、それを達成するためのチャンスを持つという夢です。またこれは精神的なものも意味しています。この定義のあいまいさはおそらく弱点であると同時に、時として強みにもなります。
幾度も失望を経験してきた多くの人々にとって、夢とは達成できないものだと、このコンセプトはアメリカで常に論議の的となってきました。しかし、アメリカン・ドリームはまだ生きており、オバマの大統領就任はその再生に貢献しました。
swissinfo : 著書では外交政策についても取り上げていますが、それはどの程度までグローバル・ドリームと呼べるものなのでしょうか?
デファゴ : 私はヨーロッパ・アメリカの関係に焦点を当て、アメリカン・ドリームはある程度アメリカ合衆国独自のものであることを述べています。ヨーロッパ人はおそらく長い歴史の経験から、政治や夢に対してより現実的な、ときにはシニカルで自虐的なアプローチをします。ヨーロッパ人は、オバマの経歴に魅了されたのだと思います。なぜならほとんどのヨーロッパ諸国でこれはありえないからです。
( アメリカは ) 基本的に楽観的な国です。変革を起こして、2、3年ですべてまたうまくいくようにできるとアメリカ人は本気で考えています。
swissinfo : あなたは楽観的ですか?
デファゴ : 私はオバマの経済プランについて少々懐疑的です。問題解決に向けた彼の取り組みは包括的すぎるかもしれません。
彼が打ち出した巨額の景気刺激策に対するヨーロッパの反応を見ると、以前と同様の緊張があることがわかります。例えば ( 3月26日に ) チェコのミレク・トポラーネク首相は、世界的な不況にアメリカの救済手段を使用するのは「地獄への道」だと発言しました。
swissinfo : 地獄篇はさておき、ヨーロッパとアメリカの関係をどう考えていますか?
デファゴ : 関係は改善すると予測しましたが、もちろんブッシュ政権の後では当然です。しかし関係が改善しても昔からの問題はまだ残っています。そのうちの1つは、アメリカにとってヨーロッパはもはやその関心の中心にはないということをヨーロッパ人が理解しているという事実です。
オバマが最初にコンタクトをとった国がアジアと中東諸国だったことは偶然ではありません。( 国務長官の ) ヒラリー・クリントンの最初の訪問先は東アジアでした。彼女はヨーロッパも訪問しましたが、世界的な問題に関して、アメリカの眼は太平洋に向いていることは確かです。ヨーロッパが務められるのがせいぜい端役程度だとしても、それは驚くべきことではありません。
swissinfo : スイス・アメリカ関係は現在緊張しているといえます。アメリカ政府がスイスの銀行守秘義務を強く攻撃していることについて驚きを感じますか?
デファゴ : いいえ、あまり驚いていません。もしアメリカとほかのヨーロッパ諸国が銀行守秘義務の解除を要求するために協力を開始したら、スイスにとって好ましい状況ではなくなると、私はオバマが政権に就く前の1月に予想しました。
そしてそれは実際に起きています。これはアメリカが単独でこの問題を押しつけているのではなく、スイスの国際経済関係の要 ( かなめ ) である銀行守秘義務を廃止させようとする非常に不当な同盟とスイスが対立をしているからなのです。
swissinfo : アメリカではスイスはどう見られているのでしょうか?
デファゴ : 全体的な関係は非常に良好です。しかしアメリカ人は、相互関係を考慮せずに、国際関係を分割して考えるという政治的分析を行います。彼らは「われわれの関係は10個の箱の中に分けて入れられている。そのうち8個は非常に良好で、9個目も良好だ。しかし、10個目の箱の中には、解決しなければならない銀行守秘義務という深刻な問題が入っている」と言う感じです。
一方、スイスは非常に総合的な目で国際関係を見ており、もし何か問題が1つあれば、関係全体が危うくなってしまうと考えます。われわれスイス人は、国際関係をたくさんの箱が収まっている容器のようなものと捉え、箱単位で問題を個別に解決していくことを学ぶべきです。
swissinfo、聞き手 トーマス・ステファンズ 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳
1942年スイス東部のクール ( Chur ) 市生まれ。ベルン大学で歴史とドイツ文学の博士号を取得。
公務員としての経歴は、1971年にスイスインフォの親会社、「スイス公共放送 ( SBC ) 」 勤務から始まる。1984~1986年はSBCの国営ラジオ部門の編集長を務める。
ウィーン大学、ローマのドイツ研究所 、バチカン図書館でも学び、1983年にはカリフォルニアのバークレー大学で研究休暇を過ごす。
最近の著書『アメリカ、バラク・オバマ、そしてアメリカン・ドリーム』は、オバマの指揮のもとアメリカはどこへ行くのかを問う。オバマはアメリカを現在の経済危機から救うことができるのか、大量の期待に応えることができるのか、オバマの政治はヨーロッパにどのように影響するのか、などの問題を考察する。
1986~1993年:連邦内務省文化局 ( BAK/OFC ) 、1993~1994年:スイス外務省事務次官、1994~1997年:ニューヨークのスイス領事館勤務、1997~2001年:駐米スイス大使。2001年からウィスコンシン大学で国際関係論を教授。
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