カダフィ大佐死亡、苦い経験を持つスイスの反応
スイスはこの数年間、リビアの元最高指導者ムアンマル・カダフィ大佐に苦汁をなめさせられてきた。彼の死亡で両国間の関係改善は早まりそうだ。
スイスはしかし、まず紛争両派に対し自制を求める。
スイスとリビアの関係悪化の発端は、カダフィ大佐の息子ハンニバル・カダフィ氏が2008年7月にジュネーブで起こした暴力事件だった。ハンニバル氏はジュネーブで逮捕されたが、保釈金を支払い釈放された。
その後リビアは、自国に滞在していたスイス人ビジネスマン2人を約2年間拘束するなどの報復措置を取った。
これを受け、当時スイス連邦大統領を務めていたハンス・ルドルフ・メルツ氏はリビアの首都トリポリへ飛び、ハンニバル氏逮捕について謝罪。同時にスイス人2人の釈放を求めたが、その実現にはヨーロッパ各国の協力と長い時間を要した。
トリポリに拘束されていたスイス人の1人、ラヒド・ハムダニ氏はカダフィ大佐死亡のニュースに安堵した様子を見せ、マスコミに対し次のように述べた。「この最期は彼にふさわしい。彼の死に安堵した」。しかし、「裁判での独裁者の顔を見たかった」とも言う。
晴れ間が見える
今年2月にリビアで革命が始まり、8月にカダフィ政権が倒れて以来、スイスとリビアの関係は徐々に好転した。スイスは革命初期にカダフィ大佐の資産およそ6億5000万フラン(約562億円)を凍結し、カダフィ政権の関連企業や関連組織に制裁措置を加えた。
一方で反体制派の拠点ベンガジに連絡事務所を設けるとともに、国民評議会を唯一の合法的パートナーとして承認。また、ハンニバル氏逮捕の件で国際仲裁裁判所に判定を求める意向だったが、2月にその準備も中止した。
ジュネーブ州立病院では現在、内戦で重傷を負った人々の手当ても行っている。この動きはローザンヌ大学病院やベルンのインセル(Insel)病院にも拡大されそうだ。10月15日には約8カ月ぶりにトリポリの大使館も業務を再開した。
連邦外務省(EDA/DFAE)はカダフィ大佐の死亡が発表された後、紛争両派に対して自制や報復措置の放棄、人権と国際人道法の遵守を求めている。
期待と残念
スイスの専門家たちもリビアの未来に期待を寄せる。国際連合(UN)の元特別報告官ジャン・ジーグラー氏は、過去に数回カダフィ大佐に面会した経験を持つ。その彼は、ドイツ語圏の大衆紙「ブリック(Blick)」で「今は許しのときだ」と語る。
また、中東専門家のアルノルト・ホッティンガー氏もベルンの日刊紙「ベルナー・ツァイトゥング(Berner Zeitung)」のインタビューで、「カダフィ大佐が死んだことで、彼の一族はこれまでの償いができなくなった」と語った。
カダフィ大佐が落命せず、ハーグの国際司法裁判所などの法廷で裁かれる方がよかったという点でもこの両者の見方は一致する。ジーグラー氏は「それは、シリアのバッシャール・アル・アサド大統領などほかの独裁者に対する最適なメッセージとなったはずだ」と指摘した。
(独語・英語からの翻訳、小山千早)
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