ガザ攻撃 「赤ん坊のように泣くしかない」
1月8日、国連安全保障理事会はようやくガザでの即時停戦を求める決議を採択し、また国連人権理事会特別会合は1月12日、イスラエルを非難する決議を採択した。しかしイスラエル側の攻撃は続き、12日までにパレスチナ側の犠牲者はおよそ900人に上り、うち3分の1が子どもという悲惨な状況が続いている。
悲劇的なこの戦争に「赤ん坊のように泣くしかない。解決策のないまま、アメリカやヨーロッパから見放され、パレスチナ人は孤独に戦っている」と語るイスラエル生まれのパレスチナ人、サミ・ダヘル氏にインタビューした。。
swissinfo : ガザで起こっていることを聞いたり、見たりしてどう感じますか。
ダヘル : 体中がぞっとして絶望的な気分になり、また気分が動転して、まるで赤ん坊のように泣く以外なにもできない状態です。もう報道写真や映像を見ないようにして自分を守るようにしなければ、ダメになってしまいそうです。
しかし、これはイスラエルの初めての攻撃ではないのです。ガザの学校や家々が破壊されるのは何も新しいことではなく、60年間イスラエルがパレスチナ人に対して行なってきたことなのです。
swissinfo : あなたの家族と連絡を取っていますか。
ダヘル : 1週間前イスラエル北部のナザレから何人か来ました。イスラエルに住む120万人のパレスチナ人たちも怒りと深い悲しみに沈んでいます。各地で( イスラエル軍に反対する ) 大きなデモが起きています。
2000年にパレスチナの反イスラエル抵抗闘争(第2次インティファーダ)が起きたときと状況が似ています。当時イスラエル側は平和にデモを行なっている13人のパレスチナ人に銃を向け殺害しました。しかし、われわれもイスラエルの市民であるにもかかわらず、警察側からは何の反応もありませんでした。
swissinfo : イスラエル側は、イスラム原理主義組織ハマスが停戦協定を破り、ロケット弾攻撃をガザから続けるから、防衛手段として攻撃をしていると言っていますが。
ダヘル : それは単なる弁解に過ぎません。ガザの150万人のパレスチナ人が狭い地域に押し込まれ何年にもわたり低い水準の生活を強いられていることは、誰の目にも明らかです。60年前、住み慣れた村から無理やり追い出されガザに詰め込まれたのです。
さらにイスラエルは2年前からガザをさらに包囲し、ゲットーにしてしまい、ガザでは普通の生活は送れなくなっています。食べ物でさえ充分に供給されない状態にしておきながら、戦争の原因はガザ側だというのですか?
もちろん私はハマスのロケット弾攻撃をばかげた行為だととらえていますが。
swissinfo : パレスチナ自治政府のアッバス議長の任期が終わりに近づいていますが、パレスチナ内部のハマスとパレスチナ解放機構 ( PLO ) 主流派ファタハとの内部対立に解決はあると考えますか。
ダヘル : 私は非常に悲観的です。またこうした絶望的な状況の中で解決策があるとも思えません。アッバス議長は、彼の属する政党とは関係なく、個人的に自分を売ってしまった。彼はパレスチナ人の代表ではなく、一部の、いわゆる「イスラエルとの平和交渉」と呼ばれるものから得られる経済的、個人的な利益を享受しながら汚職を行なう少数派の人たちを代表しているにすぎません。
swissinfo : では、今この危機から脱出する手段はないと見ているのですか。
ダヘル : 手段はない。残念ながら手段はないと思います。そしてこの出口なしの状況から、ヨーロッパと特にアメリカを非難したい気持ちです。アメリカはいつもイスラエルを支持し、ワシントンはイスラエルを非難する国連決議をすべて拒否してきました。
そしてヨーロッパは、パレスチナを攻撃するイスラエルに対し、はっきりとその有罪性を宣言し、攻撃をやめさせる勇気を持っていない。パレスチナ人はいつも独力で戦うしかないのです。
swissinfo : ガザ攻撃に対するスイス人の反応をどう受けとめますか。
ダヘル : スイスのほとんどの人がパレスチナ人を支持してくれていると思います。多くのスイス人がわれわれの側に立ち、イスラエル側の攻撃の過度の暴力性に抗議してくれているのを知っています。
しかし、スイスのメディアは同じではない。メディアはイスラエル側に多くのスペースを割いています。
swissinfo、聞き手 ジャン・ミッシェル・ベルトゥ 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 訳
1959年、イスラエル北部のナザレで生まれる。心理医療師として1980年まで、ナザレに住む。その後スイスに移住。
1986年、ソロトゥルン州で、中東料理の専門レストランを開く。
彼の家族のほとんどがナザレに住んでいる。イスラエルのパスポートを持つパレスチナ人だが、自分をイスラエル人とは見なしていない。現在はスイスのパスポートも持っている。
1月10日首都ベルンでは、7000人を越えるスイス人が、イスラエル側の過度の攻撃に対し抗議デモを行なった。特に、パレスチナ側の犠牲者の約半数が一般市民や子供である事実に対し、「スイス政府はイスラエル政府に対し働きかけを行なうべきだ」と緑の党 ( GPS/PES ) 党首、ウリ・ロイエンベルガー氏は訴えた。
一方、1月9日からジュネーブで臨時に開催された「国連人権理事会 ( UNHRC ) 」で、スイスは47のメンバー国中、ブラジル、チリなど32カ国が支持したアラブ諸国の提案を基本的には支持した。これに対し在スイス・イスラエル大使館のイラン・ベルガー大使は、「スイスは非常に問題だ。アラブ諸国の提案を支持することでイスラエルに反対するヨーロッパで唯一の国になった」と、ドイツ語圏の日曜紙「ゾンタークス・ツァイトゥング ( Sontags Zeitunng) 」で語った。最終的には12日、イスラエルを非難する決議はロシア、中国など賛成33カ国で採決されたが、スイスはほかのEU諸国と同様棄権した。
また、1月11日ドイツ語圏の日曜紙「ゾンタークス・ブリック ( SontagsBlick ) 」に掲載されたアンケートによると、スイス国民の53%がイスラエルの自己防衛としての攻撃に理解を示している。さらに90%の人が、イスラエルとパレスチナ双方が独立国として、共存できるはずだと考えている。
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