国連改革の焦点 人権理事会の創設
国連改革の焦点の一つである、人権理事会創設に向けての交渉がニューヨークの国連本部で11日から始まった。スイスはこれまで毎年春、6週間に渡り開催されていた国連人権委員会に続いて、ジュネーブに新しい人権理事会を設置することに必死だ。
スイス国連代表のピーター・マウラー大使はスイスの提案である、人権理事会創設も、その所在地がジュネーブになることに関しても「楽観的」と見ている。
2005年の12月、ニューヨークでアナン事務総長は「ジュネーブで国連人権委員会が開催される2006年の3月までに理事会の設置を目指す」と発表した。現在、53カ国で構成される国連人権委員会が人権侵害に有効に対処できていないとの長年の批判に応えるものだ。
これまでにも、人権委員会のメンバーに人権侵害国として名高いリビア、ジンバブエ、キューバといった国を加えたため、その有効性を疑われていた。それだけではない。国際的な圧力を加える、一国に対する非難決議案に関しても、人権侵害国同士がお互いに肩を持ちあって票を入れずに乗り切るといった政治工作が度々、行なわれてきたからだ。
交渉の焦点
こういった状況を打開するために新しく創設する人権理事会のメンバーの選考方式は大変重要な問題である。現在、ニューヨークでは人権理事会のメンバーの選考方式から理事会の規模(参加国数)、会期の回数などを細かく検討中だ。
スイスのマウラー大使は「まだ、交渉は霧の中ですが、人権を守るために新しい道具とアプローチが必要だという点では多くの国の考えがはっきりしてきたようです」とみる。
長年、人権委員会で人権問題を追ってきたNGO「人権のためのジュネーブ」のアドリアン・クロード・ゾラー所長は人権理事会が人権委員会から引き継げるものとして、「特別報告官制度」をあげている。これは国連から任命された報告官が現地調査に乗り出す制度だが、ある程度の効果を発揮しているばかりか、国連にとっての唯一の情報源だったりする。一方、一国に対する非難決議案はなくなるかもしれない。しかし、この決議案には法的拘束力や制裁がないため、その効力については賛否が分かれていた。
米国の常任理事国案
なお、1月上旬に米国のボルトン国連大使は人権理事会に関して、安全保障理事会常任理事国の5カ国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)が自動的にメンバーになるべきだという考えを提案した。
スイスはこの考えに明確に反対しており、メンバーとなる国は国連の総会で選出されるべきであり、地域的な分配を反映するべきとの立場だ。
マウラー大使の意見では理事会のメンバーが世界の地域を幅広く反映していることが重要で、これがエリートの「良い子ちゃんクラブ」になってはいけない。それでも、「人権侵害のひどい国はメンバーに選出されないこと」も強調している。「交渉に重要なのは基本的にはオープンでありながら、人権侵害国を含まないような選考方法を保証するといったバランスです」
他に、国連加盟国は人権理事会からの人権侵害の調査を受け入れなければならないという考えもある。これまで、人権委員会が批判されていた大きな理由に人権侵害があった場合の行動が限られていたからだ。特別報告官でさえ、当事国の招待がない限り訪問することはできない。
さらに「我々が最も重視するのは、人権理事会が年に1回のみ6週間の会合で開かれるのではなく、1年中、深刻な人権侵害が行なわれた場合に即刻、招集できる可能性が与えれることです」とマウラー大使。
NGOの「ヒューマン・ライト・ウォッチ」の事務局長のペギー・ヒックス氏も同じ考えだ。現在、提案されている人権理事会の4回という会期も少ないという。「この会議の頻度によって理事会の効力が確定されるでしょう」。同氏は人権理事会創設に関しては見通しが明るいが、今年3月という期日は早いかもしれないとみる。
ジュネーブかそれともニューヨーク?
2005年の10月にジュネーブを訪問中のアナン事務総長は記者団の質問に「将来、人権理事会はジュネーブに新設する予定」と答えた。しかし、正式な答えはまだ出ていない。
これに対して「人権のためのジュネーブ」のゾラー氏は「初期の段階ではジュネーブになるでしょう。なぜなら、ジュネーブにはすでに多くの人権保護団体があるからです」。それでも、4、5年経った後はニューヨークに引っ越すということもありうるという。「それは人権理事会の今後の重要性によるでしょう。安全保障理事会や総会などと同様に国連の心臓機関になるのなら、ニューヨークに移動ということも考えられるでしょう」と語る。
swissinfo、フレデリック・ビュルナン、アダム・ボーモント、屋山明乃(ややまあけの)
– 今年の国連人権委員会 (Human Rights Commission) はジュネーブで3月14日から4月22日まで開催予定だ。
– 国連のアナン事務総長は人権委員会開催までに人権理事会(Human Rights Council)の設置を目指している。
– 新しく創設される人権理事会は1年間に6週間しか会期のない人権委員会に変わって、年中開かれる常設の理事会に格上げする内容で、人権侵害のあった国に速やかに対処できるようにする。
– 国連の改革には人権理事会創設のほかに事務局改革や安保理改革がある。
– 人権理事会の創設案はスイスが提案したもので、スイスの人権法学者、ヴォルター・ケーリン教授のアイデアだ。
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