今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。
このコンテンツが公開されたのは、
※こちらの記事は、2日に配信したものに、フロリアン・ヴィレ氏の釈放の一報を追記し更新しました。
内閣は28日付の声明外部リンクで、「このカプセルを明確に法律で特別に禁止するのは適切とは考えられない」と述べた。たとえそうしたとしても、現在の形でのサルコ使用を妨げるに過ぎず、自殺を支援・誘発するために使用できるその他の考えられる手段や手順は規制の対象とはならないとした。
この声明は、サルコのスイスでの使用を禁止する法的規定の検討を求める国民党(SVP/UDC)のニーナ・フェール・デュセル議員の動議に対する態度表明として答えた。
サルコの運営団体は9月23日、シャフハウゼン州の森林で初めてサルコが使われ、米国人女性(64)が死亡したと発表。だが地元警察は自殺教唆などの容疑で、自殺をほう助したサルコの運営団体ラスト・リゾートのフロリアン・ヴィレ氏と、女性の死亡後に現場に来た弁護士2人とオランダ人カメラマンを逮捕した。
内閣は、シャフハウゼン州司法当局の捜査がまだ続いていることに言及し、「法的規制が必要かどうかを判断するためには、捜査結果を待つ必要がある」とした。
サルコの規制をめぐってはエリザベット・ボーム・シュナイダー内相が奇しくも同じ9月23日、閣僚としては初めて公の場でサルコに言及。「サルコは製品安全法の要件を満たしておらず、(自死を目的とした)窒素の使用も化学品法の目的条文に適合していない」ため、カプセルはスイス国内で使用できないと明言していた。
おすすめの記事
おすすめの記事
自殺ほう助カプセル「サルコ」スイスで初の死者、複数人を逮捕
このコンテンツが公開されたのは、
物議を醸す自殺カプセル「サルコ」の利用に、スイス連邦政府がついにノーを突きつけた。しかし奇しくも同じ日に、サルコによる第1号の死者が出た。
もっと読む 自殺ほう助カプセル「サルコ」スイスで初の死者、複数人を逮捕
ヴィレ氏は70日間身柄を拘束
サルコはオーストラリアの医師で安楽死擁護者のフィリップ・ニチケ氏とオランダ人技師のアレックス・バニンク氏が考案。カプセル内に窒素を大量に放出し、室内を急激に低酸素状態にして中にいる人を死に至らしめる。スイスなど自殺ほう助が合法化されている国では通常、医師の処方する致死量のペントバルビタールナトリウムが使われるが、窒素は安価で購入でき、医師の処方せんも要らない。
▼2024年7月にチューリヒで公開されたサルコ
サルコで自死したのは、健康問題を抱える米国人女性。9月23日午後、シャフハウゼン州の森林にある森小屋のそばでカプセルの中に入り自死した。自殺ほう助の現場にはヴィレ氏1人が立ち会った。
弁護士2人とオランダ人カメラマンは48時間後に釈放されたが、ヴィレ氏は70日身柄を拘束された。
ニチケ氏が住むオランダの日刊紙デ・フォルクスクラントは、シャフハウゼン州当局が故意の殺人容疑を視野に捜査を進めていると報道。女性の首に重度の損傷が見つかり、サルコによる自死とは矛盾する疑念が生じたためとしている。同紙のカメラマンは女性の自殺ほう助に随行していた。
同紙によると、カプセル内に入った女性が窒素を室内に放出するボタンを押してから6分半後、カプセル内で大きな警報が鳴った。ヴィレ氏はニチケ氏に電話で「彼女はまだ生きている、フィリップ」と叫んだ。30分後、ヴィレ氏は「彼女は本当に亡くなったようだ」とニチケ氏に伝えた。
ニチケ氏は7月にチューリヒで行われた会見で、カプセル内の人は窒素放出後、通常2回の呼吸で意識を失い、痛みなく約5分で死に至ると説明していた。
検察「意図的殺人の容疑では今後捜査されない」
ヴィレ氏が釈放されたことについて、ニチケ氏は2日付の声明で「歓迎する。シャフハウゼン州という小さな州の法の支配がようやく勝利したことを喜ばしく思う」と述べた。
ヴィレ氏は今後「意図的殺人」の容疑で捜査されることはないとし、「故意の殺人の疑いをかけられたことは馬鹿げている」と一蹴した。
ラスト・リゾート側は当初から、他殺の可能性は全くないとコメントしていた。ニチケ氏は独語圏の日刊紙NZZのインタビュー外部リンクで「女性がカプセルに入ってから(検視のため)警察が到着するまで、誰もカプセルの蓋を開けていない」とし、女性の死に外部から手を加えられた可能性はないと語った。
ニチケ氏はまた、首に絞めたような跡があったという報道について「馬鹿げている。検視時の電話メモに基づくもののようだが、私たちは50日以上経ってもなお、検視報告書を目にしていない。理解できない」とした。
スイスでは、自殺ほう助により人が死亡した場合、立ち会った人間が警察に通報し、検視を行う。自殺ほう助団体は合法性を証明するため自殺ほう助の一部始終を撮影し、警察に提出する。
ラスト・リゾートは、女性の死の一部始終はカプセルの内部カメラと外部に設置したカメラの2台で撮影され、女性の死に疑わしい点はなかったと主張している。
シャフハウゼン州当局は捜査について公にコメントしていない。
独語からの翻訳・追記:宇田薫、校正:大野瑠衣子
おすすめの記事
医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
このコンテンツが公開されたのは、
大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。
もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
おすすめの記事
スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。
もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
おすすめの記事
世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。
もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
おすすめの記事
スイスのドライバー、2割が飲酒運転
このコンテンツが公開されたのは、
欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。
もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
おすすめの記事
狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
このコンテンツが公開されたのは、
先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。
もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
おすすめの記事
スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。
もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
おすすめの記事
スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。
もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査
おすすめの記事
スイス国鉄、夜間列車を増発
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦鉄道(SBB/CFF)は27日、新ダイヤを発表した。長距離・地域間の夜行列車が増える。12月15日に発効する。
もっと読む スイス国鉄、夜間列車を増発
おすすめの記事
スイスの男女賃金格差、1.8ポイント縮小 「説明できない差」は拡大
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局が26日発表した2022年の賃金差調査によると、女性の平均賃金は男性より16.2%低かった。男女差は20年の18%から1.8ポイント縮小した。
もっと読む スイスの男女賃金格差、1.8ポイント縮小 「説明できない差」は拡大
おすすめの記事
2025年の高級品市場、米国が牽引役に UBSレポート
このコンテンツが公開されたのは、
高級品市場は中国での需要減退により、2025年は米国が成長のエンジンとなる――スイスの銀行UBSが25日発表したレポートでこんな見通しを示した。
もっと読む 2025年の高級品市場、米国が牽引役に UBSレポート
続きを読む
おすすめの記事
スイスで「世界デビュー」狙う自殺カプセル「サルコ」にスイスが反発する理由
このコンテンツが公開されたのは、
オーストラリアの医師が開発した自殺カプセル「サルコ(Sarco)」が、世界で初めてスイスで使われるーー少なくとも運営団体はそう望んでいる。しかし医師が介入するスイスの自殺ほう助モデルとは理念が大きく異なるため、スイスの州当局や自殺ほう助団体が強い拒否反応を示している。
もっと読む スイスで「世界デビュー」狙う自殺カプセル「サルコ」にスイスが反発する理由
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。