2022年9月25日の国民投票
今年3度目の国民投票で、スイス有権者は年金改革、集約畜産の禁止、源泉徴収税の廃止案を巡り審判を下した。
9月25日日曜日、老齢・遺族年金(AHV/AVS、日本の国民年金にあたる)の新たな改革案が投票にかけられた。「年金改革21」は付加価値税(VAT)の0.4%引き上げと、年金制度に関する連邦法改正の2本立てだ。
年金法改正案は女性の定年年齢を64歳から65歳に引き上げる内容。実現には、国民投票で二重の賛成を勝ち取る必要がある。有権者全体の過半数の賛成に加え、過半数の州の賛成を得なければならない。
投票の結果、定年引き上げは賛成50.6%の僅差で、VAT引き上げは賛成55.1%でともに可決された。
2本立ての年金改革を巡っては激しい舌戦が繰り広げられた。ここ数年の国民投票でも最重要案件とみなされているテーマだ。連邦議会は2021年3月、スイス年金制度の第1の柱であるAHV/AVSの財政運営を安定させるため年金改革21を可決した。
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人口高齢化、特にベビーブーム世代の定年・年金受給開始で、2030年にも公的年金財政が赤字化すると懸念されている。
女性の定年引き上げ案に対してレファレンダム(国民表決)を提起した左派や労働組合は、改革案に激しく反対。女性や収入の少ない人々に背を向ける内容だと批判した。
2023年秋の総選挙を控え、社会民主党や緑の党にとっては今回の国民投票は議席獲得数を占う試金石でもある。このテーマに対しては左派と右派の間で賛否がはっきりと分かれているためだ。
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AHV/AVSは政治生命にとって中核となる意義を持つ。制度創設以来の70年超で年金を巡る国民投票は今回が24回目となる。
AHV/AVS改革が最初に国民投票にかけられたのは1995年に遡る。女性の定年を62歳から64歳に引き上げ、年金の前倒し受給を可能にする第10回AHV/AVS改定に対し、有権者の6割が賛意を示した。
制度を担当する歴代の内務相はこの10年、長年の課題である年金改革に骨を折ってきたが、次々と提案を国民投票で否決された。
アラン・ベルセ現内務相は、所属する社会民主党の強い抵抗を浴びている。9月25日の国民投票で可決されたことは、同氏個人にとって大きな政治的功績となるだろう。
年金はスイス以外の国々にとっても難しいテーマだ。先進国の多くが激しい抵抗を受けながら、年金制度の財政を安定させるための改革を断行してきた。
スイスの定年は今、経済開発協力機構(OECD)加盟国の平均に位置する。2018年時点のOECD平均は女性が63.5歳、男性が64.2歳だった。
持続可能な農業が再び議題に
2つ目の案件は集約畜産の禁止だ。種差別反対団体や動物愛護団体が立ち上げたイニシアチブ(国民発議)だ。
スイス政府の説明によると、集約畜産は現行法で既に禁止されている。飼育できる家畜の個体数は種ごとに上限がある。だがイニシアチブの発起人委員会は、こうした基準では動物の福祉を確保するのに不十分だと指摘している。
農薬禁止など農業のあり方を巡る最近の国民投票はいずれも、有権者・州の二重の過半数を得ることができず、否決されている。集約畜産も反対票が62.9%を占め、大多数の州で反対が賛成を上回り否決された。
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大企業への法人税
3つ目の案件は、大企業に課されている2つの法人税を巡り左派が提起したレファレンダムだ。
証券の売買にかかる売上税と、社債にかかる源泉徴収税を廃止する同案は、経済・金融の中心地としてのスイスの競争力を強化するものとして、右派政党と財界の支持を得ている。
左派や労働組合は、2税の廃止は多国籍企業への白紙委任を与えることになると批判する。スイス経済の屋台骨である中小企業が社債発行で資金繰りすることは稀で、減税の恩恵を受けないためだ。
反対派の主張は、有権者の過半数の共感を得る可能性が高い。今年2月の国民投票では、株式売買にかかる印紙税の廃止案が反対62%で否決されている。今回は賛否が最後まで拮抗していたが、反対52%で否決となった。
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独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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