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チューリヒ空港CEO「拡大する航空需要に応えるのが我々の使命」

チューリヒ空港を離陸したスイス・インターナショナル・エアラインズのエアバスA320
チューリヒ空港を離陸したスイス・インターナショナル・エアラインズのエアバスA320 KEYSTONE/©-2024 Markus A. Jegerlehner

スイスの空の要衝チューリヒ空港は、旅客数の長期的な伸びを年2%と予測する。同空港のルーカス・ブローシ最高経営責任者(CEO)は、便数やカーボンニュートラルの目標を維持したままで対応可能と話す。

チューリヒ空港株式会社のルーカス・ブローシ最高経営責任者(CEO)は昨冬、気忙しい日々を過ごした。同空港が進める滑走路2本の延長計画の是非を問う住民投票を控えていたからだ。今年3月の住民投票の結果、同計画は61.7%の賛成で可決された。

同社は、株式市場に上場しながら株式の3分の1をチューリヒ州が、5%をチューリヒ市が所有する変則的な企業だ。

チューリヒ(クローテン)空港の所有・運営だけではなく、空港周辺の主な不動産・事業活動への出資も行う。

従業員数はチューリヒで約1700人、国外で約475人。昨年の売上高は12億フラン(約2千9億円)で金利・税金・償却前利益は6億7700万フランだった。同年の旅客数は2890万人に達した。

swissinfo.chは同社本社でブローシ氏にインタビューした。

swissinfo.ch :あなたがチューリヒ空港のトップに就任して約1年が経ちました。この間、進めた新構想はありますか?

ルーカス・ブローシ:その必要はありませんでした。私はこの空港で15年間働いています。このうち7年間は最高財務責任者(CFO)を務めました。

当社は長期的方針に従って活動しているため、私の役割も継続的色合いが濃い。一方で、政治や住民と接触を持つのは自分にとっては新しい仕事です。

最近は、当空港の滑走路延長計画が住民投票に付された関係で、時間の2割ほどをそれに割いていました。投票ではありがたいことにチューリヒ州住民の承認を得ることができました。

ルーカス・ブローシ氏。1979年スイス生まれ。北西スイス応用科学芸術大学で経営学を学び、銀行大手UBSに入行。同行のバーゼル及びチューリヒ拠点で9年間勤務した。2009年、チューリヒ空港株式会社に入社。17年、同社最高財務責任者(CFO)に、23年5月に最高経営責任者(CEO)に就任した
ルーカス・ブローシ氏。1979年スイス生まれ。北西スイス応用科学芸術大学で経営学を学び、銀行大手UBSに入行。同行のバーゼル及びチューリヒ拠点で9年間勤務した。2009年、チューリヒ空港株式会社に入社。17年、同社最高財務責任者(CFO)に、23年5月に最高経営責任者(CEO)に就任した ldd

チューリヒ空港の長所と短所を教えてください。

当空港はチューリヒ市内からとても近く、公共交通機関でのアクセスが楽です。利用者にとっては施設がコンパクトな点も大変便利です。サービスの質も高い評価を得ており数々の賞を受賞しています。

一方、最大の短所は朝6時から夜11時30分までという営業時間です。これは他の多くの欧州の空港に比べ制限が厳しいことが理由です。

旅客サービス向上のために最近行った主な改善は?

1つ挙げるならば保安検査場に導入した手荷物用高速スキャナーでしょう。イースター連休中に試運転を無事済ませ、今月中に運用を開始する予定です。

世界で最も優れた空港はどこですか?

最も優れているのは新設された空港です。一から新しく建設されるというのはアドバンテージですから。

特に思い浮かぶのはカタール、アブダビ、ドバイといった中東の空港、それにイスタンブール空港ですね。

では、チューリヒ空港の競合相手は?

フランクフルト、ミュンヘン、ウィーンの各空港と私たちは、直接の競合関係にあるというよりも同じ土俵にいると言った方が良いかもしれません。

ジュネーブ空港やバーゼル空港とは集客エリアもビジネスモデルも異なるので競合関係にはありません。両空港が「ポイント・トゥ・ポイント」型の路線に重点を置くのに対し、私たちは大陸間を結ぶハブ空港ですから。

1996年に長距離便がジュネーブからチューリヒに移された件で仏語圏スイスには長く不満がくすぶっていました。そうした不協和音は解消済みですか?

もちろんです!

チューリヒ空港のウェブサイトは、公式の「スイスの空の中心」ですが、独語と英語しかありません。スイスの他の公用語(フランス語やイタリア語)に対応していないのはなぜですか?

当社のウェブサイトやソーシャルメディア・アカウントへのアクセスの3分の2は独語圏から、25%は英語圏から、という状況があるからです。なお、ゲートのアナウンスについては、人工知能(AI)を使って目的地の言語で行う計画があります。

チューリヒ空港は上場企業です。これは自治権を持つ公営企業のジュネーブ空港に対し有利になりますか?

チューリヒの有権者が2000年に承認した当社の民営化とスイス証券取引所への上場は、重要な決断でした。これにより企業としての柔軟性が高まり、機関投資家の期待により迅速に対応できるようになったのです。

もちろん、地域住民や市民社会、議員らとも関わっていかねばなりません。

2000年以降の投資は、全てキャピタルマーケットと空港使用料から上げた民間資金で賄われてきました。国や自治体にとってこれは大きなメリットです。

つまり、当社は公的補助金を一切受けていない。それどころか、過去20年間で13億フランを税金や配当金という形で公共部門(州や市町村)に還元してきました。

最も収益性が高いのはどの顧客層ですか?また、そういった顧客層を広げるためにどんな取り組みをしていますか?

私たちの使命は需要を総合的に満たすことであり、また、旅客はみな同額の空港使用料を支払っています。つまり私たちは航空会社とは異なり、この点で収益性を最適化する選択肢を持っていません。

ただし、ビジネス出張客に比べ観光客や家族連れは空港での滞在時間が長いため、ショップやレストランで使う金額も多いということは判明しています。

空港の写真
KEYSTONE/imagebroker.com

もっと便数を増やすことはできますか?

それは現在のインフラでも可能です。人気の低い時間帯ですが、午後3時などオフピークの時間帯にまだ余裕があります。

なお、住民投票で可決された滑走路延長は安全性と定時性に関わるもので、それ自体が増便への道を開くものではない、という点は重要なので指摘しておきます。

旅客数の見通しはどうですか?

便数が過去20年間比較的安定しているのに対し、航空機の大型化と利用率の向上で旅客数は大きく上昇しています。

私たちは年間2%の旅客増を見込んでいます。ただし、これは人口や経済の成長率に大きく左右されます。

地球温暖化対策を効果的に推進する上で、飛行機の利用削減は大前提では?

私はそうは思いません。世界的に拡大を続ける航空需要を満たすことが私たちの使命ですから。

航空業界の脱炭素化努力は、化石燃料の持続可能な代替燃料への置き換えを通じて示していくべきだ、というのが私の考えです。

こうした代替手段が占める割合は現状2~3%に過ぎませんが、肝心なのは何にせよ取り組みを始めること。2050年までにカーボンニュートラルを達成することが目標ですが、連邦政府の報告書外部リンクによれば、それは実現可能です。

空港インフラに関しては、2040年までにカーボンニュートラルを実現するため数億フランを投入しています。

チューリヒ空港は発展途上国の空港8カ所に出資しています。株主である自治体はこれをどう受け止めていますか?

海外の空港の所有や運営、建設は、当社の企業としての中核能力に基づく多角化戦略の一環です。

リスクを最小限にするために投資先を限定しています。現地政府の政治的方向性にかかわりなく高い需要が存在し、それを満たすのに民間投資を必要とするようなインフラが対象です。

加えて、ブラジルやインドなど民営化の前例がある国々で特に積極的に事業を展開しています。

当社には、世界最大の空港運営企業を目指すといった野心はありません。むしろ日和見主義的アプローチを追求しています。自治体株主(チューリヒ州とチューリヒ市)は、当社の戦略を全面的に支持してくれています。

編集:Samuel Jaberg、独語からの翻訳:フュレマン直美、校正:宇田薫

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