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フィリピン、中国領海、槇文彦…スイスのメディアが報じた日本のニュース

ラインハルト・エルンスト美術館のファサード
2024年6月に開館したラインハルト・エルンスト美術館(ヘッセン州ヴィースバーデン)は、同月亡くなった槇文彦氏が設計した KEYSTONE/DPA/Helmut Fricke

スイスの主要報道機関が先週(7月8日〜14日)伝えた日本関連のニュースから、①防衛協力を深める日・フィリピン②海自護衛艦が中国領海に侵入③槇文彦の遺作 独ラインハルト・エルンスト美術館――の3件を要約して紹介します。

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防衛協力を深める日・フィリピン

日本とフィリピン両政府が8日、自衛隊とフィリピン軍が共同訓練をしやすくするための「円滑化協定」に署名しました。ドイツ語圏の日刊紙NZZのパトリック・ツォル台北特派員は、協定は「中国政府に向けたシグナルだ」と解説しました。

インド太平洋の地政学に詳しいツォル記者は、「日本とフィリピンが接近している主な理由は、両国とも中国からの圧力を感じているからだ」と説明。中国政府が「九段線」と呼ぶ境界線をもとに南シナ海ほぼ全域の領有権を主張し、中国当局・民兵船舶が補給任務中のフィリピン船舶に対し繰り返し嫌がらせしていると伝えました。

日本に対しては東シナ海の尖閣諸島を「釣魚島」と称して島周辺に日々侵入していると指摘しました。中国は日本とフィリピンに対し歴史的な領有権を主張していますが、「これらは法的に受け入れがたい」と位置付けました。

記事は2つの島国が米国の重要な同盟国であることも解説しました。「台湾をめぐる緊張が高まるにつれ、ワシントンの戦略家にとって両国の重要性が高まっている」。しかしこのために両国の接近は「中国が包囲されているという強い感覚を同国政府に与える」こととなり、中国は「軍事ブロック」への警鐘を鳴らしていると報じました。

ただ日本が第二次大戦中にフィリピンなど東南アジアに残虐行為を行った、と訴える中国の戦略は「マニラにはまったく通用していない」。フィリピンのフェルディナンド・マルコス大統領政府にとって「現在の危険は民主主義の日本ではなく、独裁的な中華自民共和国にある」からです。

記事はマルコス大統領と岸田文雄首相が二国間関係を深めていくことが米国政府にとっての「再保険」となり、「次期米大統領の同盟国に対する関心は現職のそれより低くなる」と予言して結びました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

海自護衛艦が中国領海に侵入

フィリピンとの防衛協定から3日後、海上自衛隊の護衛艦が中国浙江省沖の中国領海に一時的に侵入していたことが明らかになりました。NZZのツォル記者は「太平洋の状況がきな臭い」として、事情を解説しました。

事件は日本の護衛艦「すずつき」が、公海上で実施中だった中国の演習を監視している最中に発生しました。ツォル記者が取材した米NPO「横須賀カウンシル・アジア太平洋研究所(YCAPS)」のジョン・ブラッドフォード所長は、「海軍が他国の演習を観察するのは日常茶飯事」と語りました。他の海軍の戦術や運用する編隊、使用する兵器システムなど多くを知ることができると言います。

観察する際は演習の邪魔にならないよう、ほとんどレーダーなど電子的手段で情報を取得します。かつて米海軍の駆逐艦に乗務していたブラッドフォード氏は、「私は日本の海上自衛隊とほぼ30年間一緒に働いてきたが、彼らは非常にプロフェッショナルだ」と話し、「すずつき」は演習のために中国が閉鎖したゾーンを尊重していたはずだとの見方を示しました。侵入は「手続き上のミスだった」とする日本政府の説明についても「艦長もミスをするものだ」と話しました。

記事は、中国側が他国の軍艦は中国領海に入るには事前許可が必要だという国内法を盾に日本の行動は違法だと主張していると続けます。しかしこの国内法は、国連海洋法条約で全ての船舶に認められる「無害通航の権利」に抵触するとバッサリ。逆に中国海警局は日本の領海である尖閣諸島周辺に「意図的に侵入」しており、中国船舶は「無害通航」に適用される規則を故意に破っていると指摘しました。

また現在、2年に1度の環太平洋合同演習(RIMPAC)が開催中であることも紹介。同時に中国も独自の演習を実施していますが、その船舶・航空機数を中国が明らかにすることはなく、演習規模の把握は台湾や日本による観察に依存していることを強調しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

槇文彦の遺作 独ラインハルト・エルンスト美術館

世界的建築家の槇文彦氏が6月、95歳で逝去しました。その約2週間後に開館し同氏の遺作となったラインハルト・エルンスト美術館外部リンク(独ヘッセン州ヴィースバーデン)を、NZZは「槙文彦の繊細な建築の特質を全て表象している」と紹介しました。

記事によるとラインハルト・エルンスト氏は精密減速機で一財を成したドイツの起業家で、長野県安曇野市に建設した自社施設TRIAD外部リンクの建築で槙氏と縁ができました。2012年には東日本大震災で被災した宮城県名取市に多目的ホール「希望の家」を寄贈し、その設計も槙氏が担いました。なお槙氏はスイスではバーゼルにある製薬会社ノバルティス敷地(ノバルティス・キャンパス)にあるオフィスビルの1つを設計しています。

記事は「希望の家」こそ日本との繋がりを強く意識し木材や温かみが強調されましたが、エルンスト美術館で槙氏は「自身を世界的名声に導いたデザインの王道に戻った」と評します。ガラス製芸術作品が玄関ホールに印象的な色彩をもたらし、中庭には美しいイロハモミジの木が植えられています。テラスの一部に千本格子を採用し、ファサードにエレガントな光を落とします。

美術館は日本語の「奥」をコンセプトに設計されたと言います。「プライベート」「親密な」の他に「崇高な」「神聖な」「奥深い」という意味を含むこの言葉を礎に、来館者は中庭を起点に9つの展示室を巡ります。そこではエルンストが収集した日米欧の抽象芸術品約1000点が展示されています。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は7月22日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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