日米安保、人口減、犬心…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が先週(7月22日〜28日)伝えた日本関連のニュースから、①日米が安全保障協力を強化②記録的人口減と外国人増③伊藤比呂美著「犬心」ドイツ語版書評、の3件を要約して紹介します。
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日米が安全保障協力を強化
日米両政府が28日、東京で外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を開き、在日米軍を再編し「統合軍司令部」を設ける方針を発表しました。スイスではドイツ語・フランス語外部リンク・イタリア語外部リンクの各言語圏で通信社が報じたほか、ドイツ語圏の日刊紙NZZは地政学担当のパトリック・ツォル台北特派員による解説記事を掲載しました。
NZZの記事は、米軍の指揮系統はハワイにあるインド太平洋軍司令部(Indopacom)外部リンクに集中していることを紹介。東京から6000km以上離れ、時差が19時間あります。取材を受けた米シンクタンク・ハドソン研究所の長尾賢外部リンク氏は、「紛争が発生すれば1分1秒を争うことになり、これは問題だ」と指摘。日本とハワイの間の通信が妨害されるリスクもあり、台湾有事への備えを固めていると解説しました。
記事は「日本自身、自衛隊を共同指揮権の下に配置し始めたばかりだ」と続けます。日本に来年新設される統合軍司令部(JJOC)は空・陸・海自に対する一定の指揮権を付与され、在日米軍司令部との連絡窓口も務めると伝えました。
また同日、2プラス2に続いて「拡大抑止」に関する初の閣僚会合が開かれたことにも触れました。「拡大抑止」は紛争発生時に米軍があらゆる手段を用いて日本を支援することを約束するもので、これには核兵器も含まれるといいます。NZZは「この問題は日本において政治的にデリケートな問題となっている」と注記。個々の政治家はこれを検討するかもしれないが、社会にはその準備ができていないという長尾氏の見方を付け加えました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
記録的人口減と外国人増加
総務省は24日、2024年1月1日時点の日本の総人口が外国人を除くと1億2156万1801人と、前年から86万1237人(0.7%)減ったと発表しました。ドイツ語圏のオンラインニュースサイトwatsonは「遅かれ早かれ他の国でも急速な人口減少が始まる」として詳しく伝えました。
同記事は特に地方部で人口減が進んでいることなどを紹介したあと、「出生率が低く移民が少ないため、日本は他の先進国よりも早く高齢化が進んでいる」と総括。各地で空き家や学校閉鎖を招き、労働者・納税者が不足していると説明しました。
岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を提唱し予算を注ぎこんでいますが、「今のところほとんど効果がない」。背景に▽雇用市場の見通しが暗い▽給与の伸びを上回る生活費上昇▽女性・母親に負担を強いるジェンダー差別的な企業文化を挙げました。2070年には人口の4割を65歳以上が占めるとの予測も示し「『人口動態の時限爆弾』がカチカチと音を立てている」と結びました。
一方、フランス語圏の無料紙20min.やラ・リベルテは外国人居住者が332万人と過去最高を記録したことを見出しに取りました。watson同様、岸田首相の「社会機能を維持できるかどうかの瀬戸際」という昨年1月の施政方針演説の言葉を引用し、「政府は外国人労働者の日本への定住をより魅力的なものにするために、国の移民政策を見直した」と説明。コロナ危機後の入国制限の解除や、「政府の職業訓練制度の一環として留学生や労働者の再入国を奨励している」ことが外国人の増加を呼んだと解説しました。(出典:watson.ch外部リンク/ドイツ語、20min.外部リンク/フランス語)
伊藤比呂美著「犬心」ドイツ語版書評
詩人・伊藤比呂美さんが愛犬「タケ」の最期を綴ったエッセイ小説「犬心(いぬごころ)」。その独語訳「Hundeherz外部リンク」が独出版社Matthes & Seitz, Berlinからこのほど出版されました。NZZが掲載した書評は「機知に富んだ小説の中で人間と動物の世界が絡み合う」と題しています。
書評は「日本の『舞踏』を見たことがある人なら誰でも、現代の日本の美学がイライラさせるものであることを知っている」と始まります。西洋のバレエが重力の克服を目指してきたのとは正反対に、1960年代に広島・長崎の影響を受けて生まれた舞踏は重心の低さが特長です。記事は「こうした思い切った身体性が『犬心』にもみられる」と続けました。
「犬心」はカリフォルニアで暮らす著者の愛犬タケ(14歳)の介護生活を綴りながら、タケを日本で暮らす実父とも重ねています。書評は「日本では依然として高齢者の介護は主に妻、娘、義理の娘によって担われている」ために著者が罪の意識に悩まされていると解説。子どもの少ない日本に「Rou-Rou Kaigo(老々介護)」という言葉があることも紹介しました。
書評は「人間の世界と動物の世界が、決して主人公たちのバトンを断つことなく、自然な形で絡み合っている」とまとめます。こうした点を、「大きい」と「小さい」、「美しい」と「醜い」、「善」と「悪」の境界線が崩れている舞踏にたとえ、「最初は腹立たしく嫌悪感につながることも多いが、道徳的厳格さに凍りついた西洋社会にも適した新しい自由の空間を切り開く」と結びました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
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話題になったスイスのニュース
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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は8月5日(月)に掲載予定です。
校閲:大野瑠衣子
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