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自民大敗、日欧安保、伊藤詩織さん…スイスのメディアが報じた日本のニュース

「勝訴」の札を掲げる伊藤詩織さん
2019年12月、有罪判決を勝ち取った伊藤詩織さんの姿は大きく報じられた。だが告発当初はメディアに無視されたという AP Photo/Jae C. Hong

スイスの主要報道機関が先週(10月28日〜11月3日)伝えた日本関連のニュースから、①自民党大敗で日本は変わる?②日欧が安保・防衛協力③伊藤詩織さんの映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」、の3件を要約して紹介します。

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自民党大敗で日本は変わる?

与党が歴史的大敗を喫した10月27日の衆院選の後、スイス・ドイツ語圏では敗因を分析する2つの解説記事が掲載されました。

スイスの経済紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフトは、東京在住ジャーナリストのウルス・シェトリ氏の解説を掲載しました。タイトルは「Abfuhr für Japans Dinosaurier(日本の恐竜に対する拒絶)」。1955年の結成以来ほぼ一貫して与党の座にあった自民党は「現実的に権力を追い求め、その強さは羨むべき長期の政治的安定を日本にもたらした」といいます。

しかし衆院選後は、誰が政権をとっても羨ましい状況ではない、と続けます。最大の課題は米国との関係です。中国・ロシア・北朝鮮の「敵対的な野望から守る」ため、故・安倍晋三氏が進めた外交・安保政策の拡大を維持していかなければならず、そのために「日本政府は、軍事的にも経済的にもこれまで以上に存在感を示していかねばならない」。人口減・高齢化への対処がますます緊急性を増していることも指摘しました。

ドイツ語圏の「ブント」など総合メディアグループTamedia系の地域紙には、東京在住のトーマス・ハーン記者の解説が掲載されました。自民・公明党が過半数を割り、立憲民主党が大躍進したことは「議会審議の文化に好影響を与える可能性が高い」と位置付けました。「自民党の惨敗は、高齢化や少子化、気候保護など慢性的な問題に対処するために国を立て直す好機にもなる」

しかし「誤った希望を抱くな」と続けます。「日本では、全く違う考え方をする人たちの意見に耳を傾ける文化が浸透していない」。中道より左寄りの政党は「委縮」しており、共産党が8議席に減らしたこと、環境保護を全面に掲げる「緑の党」は存在しないことを例に挙げました。

自民党が大敗を喫したのは事実ながら、他の党も「自民党とあまり違わないようにするのが選挙戦略の一環だったようにみえる」。それゆえに石破茂首相が政権を維持し「自民党に似通った野党案について折り合いをつけられる」余地があるといいます。それは自民党にとっては良いことですが、日本にとっては良くないことだと指摘しました。「古い問題に対する新しい解決策を期待する人は、おそらく失望するだろう」(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト外部リンクブント外部リンク/ドイツ語)

日欧が安全保障・防衛協力

岩屋毅外相が1日、ジョセップ・ボレル欧州連合(EU)外交安全保障上級代表と都内で会談し、「日EU安全保障・防衛パートナーシップ」に合意しました。スイスの無料紙20min.がこれを報じましたが、言語によってわずかに報じ方が異なりました。

ドイツ語版では「増大する競争、戦争の脅威、そして気候変動に対する解毒剤はただ一つしかない。それは友人間のパートナーシップだ」と位置づけ、EUとインド太平洋地域の国との間で結ばれる初の協定だと紹介しました。

フランス語版は仏AFP通信の記事を転載。ボレル氏が「私たちは非常に危険な世界に住んでいる」と述べる一方、日本のように中国を名指しすることはなかったと伝えています。また日本は何十年も軍装備を米国に依存してきましたが、「EU加盟国のイタリアや英国と新型戦闘機の共同開発も進めている」と報じました。(出典:20min./ドイツ語外部リンク&フランス語外部リンク

伊藤詩織さん監督「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」

伊藤詩織さんが自身の性被害を暴露するドキュメンタリー映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」が10月上旬のチューリヒ国際映画祭の2部門で最優秀賞を受賞。10月末からスイスの映画館で公開されています。ドイツ語圏の大手紙NZZは映画での台詞などをもとに、伊藤さんが映画に込めた想いや日本の性犯罪をとりまく現状を綴りました。

「伊藤氏によれば、日本では性犯罪はほとんど報道されず、ましてや起訴されることなどない」。NZZは映画の台詞を借り、法律における「強姦」の定義が狭すぎること、日本社会に埋め込まれた恥の意識により、女性が通報しにくくなっていることを理由に挙げました。

被害を公表してもメディアから無視される、女性からも伊藤さんに批判的なメールが届く…記事は「日本では、伊藤氏は今も多くの人から嫌われているか、少なくとも懐疑的な目で見られている」とします。しかしながら「闘う人であり、国際的に評価の高い作家兼映画監督としての伊藤氏の評判は、日本でも確立している」と評しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスを縦断するツルが過去最多」(記事/日本語)でした。他に「スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く」(記事/日本語)、「犯罪者3人をウクライナに強制送還」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は11月11日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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