ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダンのCEOが語る時計作りへの情熱
スイスの高級時計ブランド、ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダンを擁するソーウインドグループ。最高経営責任者(CEO)を務めるパトリック・プルニオ氏は、厳選した一流販売店を通して製品を販売することの重要性を強調する。
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高級品業界の世界的リーダー、フランスのケリング・グループが2022年、傘下のソーウインドグループをプルニオ氏ら経営陣に売却すると発表したことは、大きな驚きを持って受け止められた。通常なら、独立系時計ブランドはスウォッチやリシュモン、LVMH、ケリングといった巨大グループに買収される側だからだ。
ソーウインドグループが率いる何百年もの伝統を持つヌーシャテルの時計ブランド、ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダンがケリングの傘下にあったのは15年足らずだった。
こうした異例の買収はソーウインドの戦略や業績にどう影響したのか。フランス人CEOのプルニオ氏が、ヌーシャテル州ラ・ショー・ド・フォンのオフィスでswissinfo.chのインタビューに応じた。
仏ビジネススクール、HECパリ校でMBAを取得後、モエ・ヘネシー(米国、南米)、タグ・ホイヤー(スイス、LVMHグループ)、アップル(英国、米国)などの、様々な企業、国で要職を歴任。
2018年、ケリング・グループ内でジラール・ぺルゴとユリス・ナルダンの最高経営責任者(CEO)に就任。現在は、ケリングから独立した両ブランドを率いるソーウインドグループのCEOを務める。日本語メディアでは「プルニエ」表記もある。
swissinfo.ch:ケリング・グループからの独立後、ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダンにはどのような変化がありましたか?
パトリック・プルニオ:ケリング・グループ傘下にあった時も、両ブランドはすでに非常に高い主体性を持っていました。ですから、主体性から独立へとシフトしたと言えるでしょう。経営面では、ほとんど何も変わっていません。
独立を手にした今、株式上場の可能性は?
ソーウインドと500人の従業員にとって最も大切なのは、長期的、もっと踏み込んで言えば超長期的なビジョンです。そのビジョンを実現するためには、従来からの持株制度を変えるつもりはありません。つまり、株式上場は選択肢にありません。
ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダン、この2つのブランド間にはどのようなシナジー(相乗作用)がありますか・
両ブランドは、特にチーム、戦略、製品開発、そして何よりも時計の心臓部であるムーブメント製造という点でそれぞれが独立しています。広報、財務など共有するいくつかの部門やマニュファクチュールはありますが、実際には両ブランド間のシナジーはわずかなものです。
両ブランドの顧客層について教えてください。
私たちは高級時計のコレクターや真の愛好家を対象にした時計を作っています。弊社の顧客は、2つのブランドがそれぞれにムーブメントを自社製造しているという点を高く評価しています。
潜在顧客の開拓に最も効果的なマーケティング戦略とは?
私たちの歴史、アイデンティティ、革新性、そして特に、自社製造するムーブメントを前面にアピールする手法を重視しています。そのためにはソーシャルメディアを大いに活用しますし、既存の顧客たちが弊社ブランドの真の広告塔でもあります。
時計見本市については?その将来性は?
時計見本市は、パートナー企業や最終顧客との関係を深める上で非常に重要な役割を担っています。私たちがジュネーブで開催される様々な見本市(ウォッチズ&ワンダーズ、ジュネーブ・ウォッチ・デイズ)や、ドバイや上海の見本市に出展するのはそのためです。
販売網に関してはどうですか?
私たちは、厳選された一流の小売店を通して販売することを戦略にしています。実際に過去5年間に取扱い店を半減させ、優れた販売店だけに絞りました。
「ラ・ショー・ド・フォンに、時計分野以外のエキスパートを引き付けるのに何ら問題はありません」
パトリック・プルニオ、ソーウインドグループCEO
ではどんな基準で販売店を選ぶのですか?
時計製造に対する私たちの情熱を共有し、一流ブランドを取り扱う一等地に店舗を構え、当社製品を積極的に売り込んでくれる小売店を求めています。ブヘラやアワーグラスなどがその例です。
ポルシェのように豊富な製品展開やオプションを提供する企業もあれば、テスラのように逆の戦略をとる企業もあります。ソーウインドは?
当社の時計モデルは、それぞれが極めて異なる革新的な特徴を持っています。そのため、幅広い選択肢を提供する必要性を感じてはいません。
多くのブランドと同じく店舗とオンラインで販売していますが、コストと収益を2つの販売経路に正当に配分する上でどのような難しさがありますか?
オンラインではほとんど販売しない方針なので、この質問はそれほど重要ではありません。
ジラール・ぺルゴがジュネーブ時計グランプリ(GPHG)で「エギュイユ・ドール(金の針)」を受賞するなど、両ブランドはいくつもの賞を受けています。こうした賞の商業的価値は?
賞を受けることは、技術的な面では私たちの専門性が時計業界の専門家に高く評価されていることを意味します。ですが、その商業的な影響を簡単に測ることはできません。
大手の独立系ブランドより大幅に製造数が少ないことのデメリットはありますか?
当社は、年間製造数をジラール・ぺルゴで2万5000本、ユリス・ナルダンで1万5000本に限定しています。その製造には、スイスのマニュファクチュールで300人を雇用しています。つまり、明らかにクリティカルマス(商品やサービスの普及率が一気に跳ね上がる分岐点)を超えた状態であり、超大手ブランドと比べて不利な立場にあるわけではありません。
ヌーシャテルの山中に拠点があることで、例えばデジタル分野の技術者といった時計製造分野以外で優れた人材を集めるのが難しくなるのでは?
第一に、この「時計の谷」に本拠地を構えられることは私たちの心からの誇りです。ここに原点があることこそ、私たちのブランド、考え方、そして技術的専門性を明確に形作るものです。ラ・ショー・ド・フォンに、時計分野以外のエキスパートを引き付けるのに何ら問題はありません。
あなたは過去に、アップルやLVMHといった大企業に勤務した経験がありますが、そこから得たものは?
巨大グループには多くの優れた点があります。例えば、経験に基づく軌道に乗ったプロセス、効率的な体制、客観的な意思決定などです。私はこうした優れた要素をソーウインドに持ち込んだつもりです。そこに、より小規模な企業が持ち合わせる機動性と非上場企業ならではの超長期的ビジョンが加わりました。
ジラール・ぺルゴとユリス・ナルダン、両ブランドの今後の見通しは?
数年前から活発で順調な売り上げを見せています。私は今後もこの好調な傾向が続いていくと確信しています。
編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:由比かおり、校正:ムートゥ朋子
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