スイスの視点を10言語で

「金銭目的」で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決

手
Keystone-SDA

スイス南部ティチーノ州ルガーノの州刑事裁判所は23日、利己的な動機で他人の自殺を手助けしたとして、自殺教唆・ほう助の罪に問われた同州の元看護師の女(67)に条件付き罰金刑を言い渡した。

裁判所は元看護師を150日分の条件付き罰金刑(日額40フラン=約7000円)とした。またこれとは別に500フランの罰金を命じた。

起訴状によると、被告は2016年10月末から2017年2月初めの4カ月で、隣国イタリアからスイスに来た7人の自殺ほう助に同行。裁判所は、イタリアの法律は制限がより厳しく、被告はこれに乗じて「経済的機会」を利用したと指摘した。被告は自営業の看護師兼マッサージ師として、既に月に約1万フランという十分な収入があった。

裁判所は検察側の「利己的な動機があった」という主張は認めたものの、検察側の条件付き禁固6カ月ではなく罰金刑にとどめた。その理由について、被告が既に退職していることに加え、被告が患っている精神疾患が、医師の診断書が示唆するよりも重度であるとした。

「経費を賄うため」

被告人質問で、裁判長は被告が自殺ほう助支援を目的に設立した「カルペ・ディエム協会」の下、極めて短期間の間に複数のほう助自殺に同行したことを強調した。

裁判所によると、被告は自死を手助けした7人とは別の3人から自殺ほう助について相談を受けた際、直接会ってもいない段階でそれぞれ1000フランを請求した。公判でその理由を問われると、被告は既に処方された致死薬の購入費などの経費に充てたと説明した。

「不謹慎な行為」

裁判所はまた、被告が自死を手助けした7人にはそれぞれ異なる料金を請求していた点を指摘。起訴状によると、報酬金額は2500〜8300フランと差があった。ただ別の8人には無償で自殺ほう助に同行したという。

検察側は、被告の行為は「不謹慎」で、利己的な行動の動機は満たされていると主張。被告には十分な収入があり、自殺ほう助を無償で行うこともできたはずだと訴えた。スイスは刑法115条で、利己的な理由で自殺を手助けした場合は罪に問われる。

一方弁護側は、イグジットやディグニタスといったスイスの主要な自殺ほう助団体は、自殺1件につき7000〜1万1000フランを請求していると指摘。このうち純粋な「収益」として計上される分は不明だが、この点において、被告が請求した金額は他の団体と同程度だと反論していた。

英語からの翻訳・追記:宇田薫、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

草原のツルの群れ

おすすめの記事

スイスを横断するツルが過去最多

このコンテンツが公開されたのは、 スイス鳥類研究所によると、スイスでは今季、はやくも過去最多のツルが観察されている。なかには約800羽の大規模な群れもみられた。

もっと読む スイスを横断するツルが過去最多
眼の診察

おすすめの記事

スイス、外来診療の新料金体系で合意 定額制を一部導入

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの医療機関団体は22日、外来患者向けの新料金体系を承認したと発表した。エリザベット・ボーム・シュナイダー内務相は積年の議論に決着がついたことを歓迎した。

もっと読む スイス、外来診療の新料金体系で合意 定額制を一部導入
戦車

おすすめの記事

スイス製武器の再輸出解禁案まとまる 主要政党の賛否まとまらず

このコンテンツが公開されたのは、 スイス国民議会(下院)安全保障委員会は、スイス製武器の再輸出の解禁案をまとめた。武器の輸出から5年経過を条件に、ウクライナなど紛争中の第三国への再輸出を認める内容だ。ただ主要政党の間では賛否が割れている。

もっと読む スイス製武器の再輸出解禁案まとまる 主要政党の賛否まとまらず
新聞を読む男性

おすすめの記事

スイスで「ニュース離れ」さらに深刻に メディア品質年鑑

このコンテンツが公開されたのは、 チューリヒ大学公共・社会研究センターが毎年まとめる「スイスメディア品質年鑑」2024年度版で、スイスでニュースを平均以下の量しか消費しない人の割合は46%と、過去最高を更新したことがわかった。スイスメディア全体の質は引き続き「良好」と評価された。

もっと読む スイスで「ニュース離れ」さらに深刻に メディア品質年鑑
スイスのアイスホッケー代表

おすすめの記事

アイスホッケーのスイス代表、国旗の白十字使用認められず

このコンテンツが公開されたのは、 アイスホッケーのスイス代表チームは、ユニフォームにスイスの国旗である白十字の紋章を付けることができなくなった。スイスアイスホッケー連盟(SIHF)が連邦行政裁判所に提出した申請が遅すぎたのが原因だ。

もっと読む アイスホッケーのスイス代表、国旗の白十字使用認められず
机に座るスーツ姿の男性

おすすめの記事

スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は16日、ウクライナに侵攻するロシアへの追加制裁を発表した。ロシアの産業・軍事・技術に必要な製品の輸出規制が強化されるほか、政党、NGO団体、報道機関がロシア政府からの寄付を受け取ることが禁止される。

もっと読む スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化
パン屋の陳列棚

おすすめの記事

チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か

このコンテンツが公開されたのは、 高級ブランドが立ち並ぶチューリヒのバーンホフ通りにパン屋が開業し、大きな話題を呼んでいる。通りを象徴する百貨店の撤退や再開と合わせ、街の大きな転機になるとの指摘もある。

もっと読む チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か
カメラ目線で微笑む女性の顔

おすすめの記事

チューリヒ映画祭、最優秀賞にルンガーノ・ニョニ監督 伊藤詩織監督作品は2部門受賞

このコンテンツが公開されたのは、 第20回チューリヒ映画祭(ZFF)が10月3日~13日開かれ、ルンガーノ・ニョニ監督のコメディ映画「On Becoming a Guinea Fowl」が最優秀作品賞を受賞した。2位には伊藤詩織さんが監督したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」が選ばれた。

もっと読む チューリヒ映画祭、最優秀賞にルンガーノ・ニョニ監督 伊藤詩織監督作品は2部門受賞
ETHの校舎

おすすめの記事

世界大学ランキング 連邦工科大学チューリヒ校は欧州1位

このコンテンツが公開されたのは、 英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が9日発表した世界大学ランキング(25年度)で、スイス連邦工科大学チューリッヒ校が前回に続き11位にランクインし、欧州内では1位の評価を獲得した。

もっと読む 世界大学ランキング 連邦工科大学チューリヒ校は欧州1位

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部