お国変われば、流儀もいろいろ〜スイスのスーパーマーケット
スイスに移住するまで、スーパーマーケットは商品こそ違っても、どこでも似たようなものだと思っていました。しかし実際に生活者として通っていると、思いがけない発見や出来事に出会います。今回は私がふだん買い物をするスイス、そしてイタリアのスーパーについてご紹介したいと思います。
スイスに暮らす人々も、毎日の買い物は日本と同じく、スーパーマーケットが中心です。長く地域で愛されている個人商店や、青空マーケットなども日本に比べると身近ですが、1カ所でいろんな食材や生活用品が買えるスーパーはやっぱり便利です。
生活を始めた当初、どうしても信じられなかったのは、本やインターネットの情報通り、スーパーが18時や19時には閉まってしまい、日・祝日はお休みだということです。(わりと最近まで、近所のスーパーはランチタイムも閉まっていました)
日本では夕方は売上を伸ばすチャンス、タイムセールの時間であり、日曜日や祝日はかきいれ時です。今時すべてのお店がそんなのんきな時間帯で動いているはずはない、と当時は本気で思っていました。
どこかには(日本人的に)ふつうに開いているお店があるはずと、街の中心のスーパーに行ってみたり、大型店に足を運んでみたり。真っ暗な入口でがっかりすることを何度か経験して、スイスはこういう国なのだと納得しました。
いざ買い物を始めても、不思議な違和感を感じます。スーパーの中をあっちに行ったり、こっちに戻ったりと、無駄な動きが多いのです。
そして気づいたのが、商品の陳列にはその国ごとのやり方があるということです。例えば日本ならば、砂糖と塩はたいてい「調味料」として同じ場所に置いてあります。
ところがスイスでは、砂糖はジャムや製菓材料などとまとめて置いてあり(同じ甘味だから?)、塩はスパイスコーナーにあります(肉料理などで一緒に使うから?)。これがお隣の国、イタリアのスーパーになると、塩はパスタ売り場に置いてあります(パスタを茹でるときに使うから?)。
日本のスーパーに慣れた私には、何がどこに置いてあるのか見当がつきません。大きくて重いカートを押しながらスーパーの中を行ったり来たり、買い物が終わるときにはクタクタでした。
代金を払っていない商品をその場で開けてむしゃむしゃ、なんていう光景も、かなりカルチャーショックです。
ある時いつものように買い物をしていると、妙齢の女性がやってきて、陳列してあるジュースを開けてその場で飲み始めました。あっけにとられて眺めていましたが、彼女は涼しい顔で買い物を続けています。スイスの万引きはずいぶん大胆だなぁ、なんてびっくりしました。
しかしその後も何度も同じことを目撃するので、さすがにおかしいと思って観察していると、開いたお菓子の箱や、食べかけのパンの袋をレジで出している人がいます。レジ係の人もそれらを当然のように会計していて、そこで初めて、最後に清算すれば買う前に食べてもよいのだと気がつきました。
でも、みんながきちんと申告するのかちょっと不思議でもあり、ずいぶんおおらかだなぁと思います。
いつも同じ商品が並んでいるのも、スイスのスーパーの特徴です。日本は袋菓子ひとつとっても、同じような価格でいろんな商品が売られていますが、それに比べるとスイスの品揃えはとてもシンプル。季節ごとに新商品がずらっと登場ということもなく、いつでも同じものが並んでいます。
これは、スイスは味に保守的な人が多いことも関係しているかもしれません。私の知る範囲ではありますが、「変わらない」「ずっと同じ」ということをたいせつにする人が本当に多いと感じます。
友人の旦那さんは、子どものころからずっと同じメーカーの同じ商品を食べ続けていて、奥さんがたまには変えようと提案しても、嫌がるのだそう。美味しいから選んでいるというよりは、変えないことが重要なんてことを言う人もいて、商品の変化が少ないのもお国柄なのかなと思います。
私はイタリアとの国境近くに住んでいるため、物価の安いイタリアへ(ものによっては価格が半分以下!)買い物に行くこともよくあります。
イタリアのスーパーでは、ちょっとぼんやりしていると「シニョーラ、いいきのこの見分け方はね…」なんて、うっかり30分近く講釈を聞くことになったりしますが、スイスではまず声をかけられることはありません。
まごまごしているときなども、イタリアではあっちからもこっちからも声がかかり、そのうち私そっちのけでおしゃべりが始まったりしますが、スイスの人はさっと手助けしてさっと去っていきます。
賑やかで混沌としたイタリアのスーパーや、呼び込みの声やお店のテーマソングが流れる日本のスーパーに比べて、スイスのスーパーは静かでどこかのんびりとしていて、快適に買い物ができます。
とはいえ、よく見ていると商品の扱いはちょっと雑。ぽんぽん投げたり、ぎゅうぎゅう押し込んだりしている店員さんやお客を見かけます。卵が割れていたり、袋が破れていたりという確率は日本よりずっと高いので、スイスのスーパーで買い物をするときは、上に下にと充分にチェックしてください。
奥山久美子
神奈川県生まれ、福岡県育ち。都内の大学を卒業後、料理や栄養学を扱う出版社に就職。雑誌、書籍の編集業務に携わる。夫の転職に伴い、2012年からイタリア語圏ティチーノ州に住む。日本人の夫、思春期の息子2人の4人家族(+日本から連れてきた猫1匹)。趣味は旅行、読書、美味しいものを見つけること。
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