スイスの女性力士
8月にはスイス連邦相撲大会が行われたが、これは男性に限られたものだった。9月23日は女性選手による大会がチューリヒ州のヴィンタートゥール( Winterthur ) で開催される。
スイス相撲を当地ではシュヴィンゲン ( Schwingen ) という。元来男性のスポーツで、女性がすると嘲笑 ( ちょうしょう ) されるのが常だが、ウルスラ・ルフさん ( 31歳 ) は気にしない。
ルフさんがシュヴィンゲンを始めたのは5年前。これまで3回優勝し、授賞式ではカウベルと子牛とブタに囲まれ祝福された。ルフさんはエメンタールのクライフタル村 ( Krauchthal ) に生まれ育ち、現在、両親から引き継いだ農業に携わっている。
怖い女性たち
親戚にシュヴィンゲンの選手はいない。女性もシュヴィンゲンをすると聞きおよび、26歳の時シュヴィンゲン大会を見に行った。大会が終わって3日後には日本の相撲の「まわし」にあたる半ズボンのツゥヴィルヒホーゼ ( Zwilchhose ) をはいていたという。そして現在、歴史は浅いものの連邦女性シュヴィンゲン協会 ( EFSV ) の会長を2006年から勤める。ルフさんの住む村では、女性のシュヴィンゲン選手は彼女1人だ。中央スイス ( Innerschweiz ) は「怖い女性」のメッカ。つまり良い選手がたくさんいる。
男性のシュヴィンゲン選手ががっしりとした体格の持ち主であるように、女性選手も恰幅が良い。「どちらかというと女性でも力強そうな体格の持ち主ですね。シュヴィンゲンを始める女の子もがっしりしています。荒々しいスポーツですし、力が試されるのですから」とルフさん。これがまた男性選手の癇 ( かん ) に障る。男性選手の中には、女性の体格がシュヴィンゲンには向いていないと思っているのだ。
「常に嘲笑されてきましたが、それもだんだんと無くなってきています。男性選手もわたしたちが女性のシュヴィンゲンを組織化し、この10年間でずいぶん進歩を遂げたことを認めています」と言う。男性から何かを奪うつもりはないと言うルフさんは、伝統を理由に女性が嘲笑されることが理解できない。
技が重要
「女性は弾力性もなければ瞬発力も劣ります。男性選手によればスローモーションでシュヴィンゲンしているのだそうです」とルフさんは女性の体格が男性より不利であることは否定しない。しかし、力だけでシュヴィンゲンをするわけではない。技や動きでするものだ。シュヴィンゲンは戦うだけではなく同朋意識や友好的な力試しでもあるのだ。「勝った人が負けた人の背中に付いたおがくずを落とすしぐさは聖なるものです。相手に対する尊敬の念を象徴しています」と語る。
ルフさんはシュヴィンゲンだけではなく、ヨーデルも歌えば、スイス式の綱引きもし、スイスの伝統を趣味としている。スイスの伝統を重んじスイスの民俗音楽や旗振りを愛し、年寄り田舎に住んでいるのがルフさんにとっては、典型的なシュヴィンゲン選手だ。
伝統スポーツではあるものの、以前と違ってチーズ職人や羊飼いは少なくなり、趣味としてする役人や警察官などが多くなった、という記者のコメントにルフさんは即「それとウエートレス、花屋、主婦も」と続けた。伝統を重んじるシュヴィンゲンの選手には政治的に右派が多いのではないかという質問にルフさんは「シュヴィンゲンはスポーツ。政治とは関係ない」と反論した。
男性選手から学ぶこと
しかし、女性のシュヴィンゲンはいまだに男性の力を必要としている。連邦女性シュヴィンゲン協会の役員には、審判やコーチとして男性メンバーがいる。徐々にではあるが、男女の交流も始まり、共同練習なども行われるようになった。しかし、女性は男性から独立していたいという意向で、両協会の合併はありえないという。
一方で、子ども選手の場合は男女混合試合がある。7~9歳の子ども選手は今回の女性シュヴィンゲン大会で一緒に戦う機会が与えられている。来年からは男性のシュヴィンゲン大会に女の子の選手が参加できるようになるという。
しかし、男性と女性の戦いはいまだにタブーだ。「あまり意味がありません。体格的に女性は男性より劣りますから」男性のシュヴィンゲン選手は身長2メートルを越し、100キログラム以上の大男が珍しくないのである。
swissinfo、ガビ・オクセンバイン 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 意訳
1980年に初めての女性シュヴィンゲン大会開催。80人以上が参加する。
1992年、連邦女性シュヴィンゲン協会 ( EFSV ) が全国7カ所に創設される。創設者は男性だった。
現在、会員は130人で半数は女の子。全国に7つの女性シュヴィンゲンクラブがあり、毎年大会がある。
スイス特有の格闘技で、本来羊飼いがアルプスでしたもの。100種類以上の技がある。試合は数分で終わるのが普通。
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