スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。
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ジェラール・ヴェルテメール氏は兄のアラン・ヴェルテメール氏と共に「シャネル」のオーナーを務める。2024年は米欧・中国景気の減速により高級品市場が振るわず、ジェラール・ヴェルテメール氏の推定370億フラン(約6.2兆円)に上る資産も目減りしたとみられるが、それでもスイス首位を保った。
ビランツは、クリエイティブディレクターのヴィルジニー・ヴィアール氏が6月に辞任した後の混乱は、「シャネル(非上場)の800億~900億ドルと推定される時価総額に影響をもたらした」と分析する。ヴェルテメール氏の個人資産もドル安に伴い目減りしたとみる。
番付2位は、製薬大手ロシュ(本社・バーゼル)を経営するホフマン、オエリ、ドゥシュマレ一族で、資産は推定280億~290億フラン。2023年に同一族の懐に入った配当金は約7億5000万フランに上るという。
第3位は、運輸・物流大手キューネ・アンド・ナーゲル(本社・シュヴィーツ州)の筆頭株主、クラウス・ミヒャエル・キューネ氏。資産額は推定270億~280億フラン。
第4位も前年と同じサフラ家。バーゼル拠点のプライベートバンク、J・サフラ・サラシンの頭取で、資産額は昨年から横ばいの220億~230億フランだった。
ブラジル、ロシア、イタリア人も
クルーズ船大手MSC(本社・ジュネーブ)の創業家アポンテ家が5位に、スイス・ブラジル国籍のホルヘ・レマン氏(85)が6位についた。レマン氏は経営難に陥ったクラフト・ハインツの保有株をやむなく手放したが、それでも170億~180億フランの資産と番付の地位を守った。
ビランツは「ビール大手ABインベブやバーガーキング、ティムホートンズの親会社レストラン・ブランズ・インターナショナルなどの株式で得たキャピタルゲインは20億フラン近くに上る。ただそれはあくまでも理論上の話だ」と分析した。
7位はロシア人実業家のアンドレイ・メルニチェンコ氏で、推定資産は170億~180億フラン。だが欧州連合(EU)・スイスによる制裁の対象となった同氏は、不服を唱えながらもスイス南東部グラウビュンデン州の自宅にはもはや足を運ばず、モスクワ・ドバイを行き来している。設立した石炭大手SUEKは、20年間スイスに置いていた事務所を閉鎖した。
8位はベルタレッリ家(150億~160億フラン)。バイオテク企業「セロノ」創業者でかつて番付1位だったイタリア人実業家エルネスト・ベルタレッリ氏は、2006年に同社を売却。2年前にはロンドンに高級住宅を購入したが、その後もグシュタードに暮らし、ネスレのライフサイエンス事業に投資するなどスイスとのつながりを維持している。
9位は化学大手エムスケミー(本社・グラウビュンデン州)のオーナー一家で、資産は150~160億フランに増えた。姉妹3人で同社株式の7割を保有しており、苦境にあった今年も保有額は110億フランを超えた。長男のマルクス・ブロッハー氏が設立した化学企業ドッティコンESも羽振りが良い。
10位は香料メーカーのフィルメニッヒ(本社・ジュネーブ)の創業家で、推定資産額は140億~150億フラン。フィルメニッヒは約3年前に蘭化学大手DSMと合併し、本社はアールガウ州カイザーアウグストとマーストリヒトに移った。フィルメニッヒ家は今もDSMフィルメニッヒ株の34.5%、時価100億フラン強相当を保有する。合併後の業績はまばらだが、不採算事業切り離しへの期待から株価が前年比で約50%上昇したことで、番付10位入りを果たした。
英語からの翻訳・加筆:ムートゥ朋子
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