学術・科学技術評議会が医師不足を警告
医師の需要が高まっている。しかし、今年の大学医学部の定員はスイスの全大学を合わせても1000人に満たない。
将来の医師不足を予測する学術・科学技術評議会は定員の2割増加を要求。
同評議会はまた、外国人医師を大量に採用しない限り、スイスの医療システムを維持することは不可能だと言う。スイス学術・科学技術評議会は10月29日、「医師の人口統計と医師教育の改革」に関する報告書を発表し、「医師の教育制度に改革要」と結論づけた。学術政策、研究政策、そして革新政策に関する連邦政府顧問機関である同評議会は、まずスイスの大学の定員を1200人に増加、さらに医師教育の見直しを要求している。「スイスは国が必要としている医師を育てていない」というのがその理由だ。
定員制限の見直し
学術・科学技術評議会の報告によると、今年医学部入学を目指す学生は全国で2000人以上に上る。しかし、定員は984人だ。そのため現在のスイスは需要と供給が折り合わず、医療関係者は国外で募集せざるを得ない状況だ。欧州連合 ( EU ) 出身の一般医師は2000年以来倍増し、現在は4割近くに達している。
1998年から、大学の医学部では適性の少ない人を振り落とす「ヌメルス・クラウスス ( Numerus Clausus ) 」と呼ばれる入学制限が実施されている。今やほかの国で教育を受けた人々を募集しなければならないというのに、これからもまだこのような制限を続ける必要があるのだろうか。「今日のスイスの医療制度は移民に頼っており、医療関係者が不足している国々の頭脳流出を促進している」というのが同評議会の見方だ。
医師の需要が高まっている原因は、勤務時間の減少とパート勤務希望者の増加にあるという。さらに、病院はますます特殊化し、社会の高齢化もそれに追い討ちをかけている。
少なすぎる家庭医
開業できる家庭医をもっと増やすことも火急の課題だ。専門医ではなく一般医学を目指す医師は全体のわずか1割。これでは少なすぎるため、同評議会は家庭医療や一般開業医を対象とした講義および施設の増設を訴えている。
そして、さらに医師教育の根本的な見直しも必要だという。スイスで開業するには専門医の資格が必要であり、それを取得するための教育プログラムは現在44を数える。だが、欧州連合 ( EU ) で認められている資格はそのうちの14にとどまっている。
医師協会を排除
「専門教育の改革は、『スイス医師協会』の枠内では行い切れない」と言うのは、学術・科学技術評議会会長のスザンネ・ズーター氏だ。「職業政策と教育は分けて考えるべきです。医学部には指導的役割を引き受けてもらい、教育のための施設は新しく創設するのがよいのでは」
このような医師教育の改革を行うとなると、教育に長い時間がかかるため早急に実行に移さなければならない。開業医の間に具体的な影響が現れるのは12年後、早くても2020年頃だと同評議会は予測する。
一方のスイス医師協会はこのような改革に反対だ。同協会が現在行っている教育は連邦内務省 ( EDI/DFE ) の承認も得ており、新しい施設は無駄なだけ。学術・科学技術評議会の要求はスイス医師協会がすでに「簡潔な構造で」実現済みと反論している。
swissinfo、外電
- 2006年の登録医師数は2万9000人。2000年に比べて11%の伸び。
- うち半数以上は独立した開業医。
- 女性医師は全体の3分の1。2000年は29%。
- 2000年から2006年までの間に、外国人一般医師の数は1620人から3100人に倍増。
- 病院医師の数は6690人から5572人に減少。
2002年7月、ルート・ドライフース内務相 ( 当時 ) は、爆発的に増加した医療費の非常対策として新しい開業医の認可を停止した。
この対策の目的は、特に欧州連合 ( EU ) からの医師の大量流入を封じ込めることにあった。2国間協定で定められている人の移動の自由化を通じ、EU諸国出身の医師が開設する医院がスイスで急増する恐れがあったからだ。
医療費減少に適した対策がなかったため、禁令は3年後、さらに3年間延長されて2008年7月3日まで有効。
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