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「性的暴力は力の問題」

チューリヒのゼーバッハ地区: ここで13歳の少女は学校に通っていた Keystone

11月にチューリヒで起きた「ゼーバッハ事件」で、最初に検挙された容疑者13人のうち2人が度重なる婦女暴行の疑いで起訴された。しかし、この事件にかかわったとされる容疑者の大半が不起訴だからといって、何も起きなかったわけではないと、心理療法士のレグラ・シュヴァーガー氏は言う。

「カスターニャ相談所」で働くシュヴァーガー氏など心理学者や心理療法士にとって、性犯罪は決して見逃すことのできない問題だ。

 不起訴となった11人のうち4人に対しては、ポルノ行為、わいせつ行為、児童への性的虐待を理由に、少年法に従った措置が命じられた。一方、残りの少年7人に対する訴訟手続きは取り消された。

 ダニエル・クロイバー検察官によれば、13歳の少女に対する複数のグループによる犯行だという。犯行時直前に18歳になったばかりの青年は、児童に対する性的行為は認めているが、そのほかの容疑は否認しているという。ポルノ行為に関しては、性的行為の一部が携帯電話で撮影されていたため、罪に問われている。

 先日、未成年少女との性交渉が発覚したサッカーチーム「FCトゥーン」の事件では、被害者にも非があったと事件が発覚するとすぐにささやかれた。

 チューリヒにあるカスターニャ相談所に勤めるレグラ・シュヴァーガー氏は、ゼーバッハ事件やトゥーン事件を担当しているわけではないが、職業柄、このような性犯罪にかかわっている。

swissinfo : 未成年者による性的暴力を裁く手段が司法当局には無いのですか?

シュヴァーガー : 多くの場合、起訴までいきません。だからといって、何も起きなかったというわけではありません。証拠がほとんど無かったり、証言内容に食い違いがあるからです。

本来ならば、「何も起きなかった」ということを、容疑者が証明しなければいけないのですが、残念ながら、これは性的暴力では今も昔も変わらず、被害者が「何かが起きた」ということを証明しなければいけないのです。

しかし、多くの場合、被害者は加害者に対して非常に従属的な関係にあります。被害者は弁明することも、異議を唱えることもできません。被害者が法廷に立つと、恥じる気持ちから、はっきりとした供述をしにくかったり、または、まったく供述できないことがよくあります。

swissinfo : 今回のゼーバッハ事件でも、先日のトゥーン事件でも、容疑者は被害者の少女も同意していたと主張しています。

シュヴァーガー : 「相手も同意していた。相手がそそのかした」というのは、犯人の決まり文句です。しかし、2人の間に従属関係がある場合、双方合意の上での性行為というのはありえません。しかし、たとえ被害者が3歳や4歳であっても、犯人はそのように主張します。

swissinfo : 起訴が成立しない場合、または、容疑者に有罪判決が下されない場合、世間はすぐさま、少女が自分で事件を引き起こしたと思うでしょう。

シュヴァーガー : それを許してしまうのは恐ろしいことだと思います。しかし、社会の構成員である私たちは、無意識のうちに自分にとって都合の良いものを選び取っています。ですから、力の弱い者よりも、むしろ力のある者と自己を同一視するのだと思います。

まず第1に、性的暴力は力の問題です。暴力をふるう側は自分の力を誇示します。逆に、被害者の立場から見ると、「無力感」が性的暴力、そして、あらゆる身体的暴力を説明する要素の1つになります。この無力感は大きなトラウマとなります。加害者が無実を主張するというのは、起きてしまった動かしがたい事実に対する無意識的な抵抗の現れです。

トゥーンの事件の場合、15歳の少女がサッカー選手の熱狂的ファンになることは罪ではありません。ゼーバッハの事件についても、iPodのケーブルを返してもらいに少年を訪ねた13歳の少女に罪はありません。責任を負うべきは、力のある者の方です。

swissinfo : 未成年者が加害者であっても、同様のことが言えますか?

シュヴァーガー : 成人であれ未成年者であれ、加害者はどんな時も、あらゆることにおいて、唯一の責任者です。未成年者が力を行使する背景には、被害者との年齢差、自分自身の身体的強さ、所属するグループへの影響力など、ほかにも多くの要因があります。

ただし、加害者が10歳以下の子どもの場合は、別問題です。

swissinfo : 同じ被害者が、ある時は事件に対して反応を示さないのに、ある時は激しい動揺を見せることがありますが、これは矛盾していますか?

シュヴァーガー : いいえ。これはトラウマとなった記憶に対する防御のメカニズムです。

これは、私が担当したある女性の話ですが、彼女は性的暴力を受けている最中に殺されそうになったのですが、私にはほほ笑みながらすべてを打ち明けました。

swissinfo : ギリシャ神話に「シシュポスの岩」という話があります。山頂まであと少しというところで、シシュポスの押し上げた岩は転がり落ち、また始めから同じことを繰り返すという話でした。あなたは、ご自分でもシシュポスのような仕事をしていると思うことはありますか?

シュヴァーガー : 性的虐待を無くすことができると考えるのは楽観的でしょう。ただ、被害者に再び希望の光をもたらし、彼らの生活を取り戻してあげることはできます。そのように考えれば、性犯罪との戦いは結局は無駄にはなりません。

また、社会が被害者に対して偏見を持たないようになってほしいと思います。それから、子どもたちが背負っている非常に大きな苦しみも見過ごされてはいけません。性的暴力の被害者のうち、80%から90%は黙って耐えている子どもたちなのです。

swissinfo、聞き手 アリアンヌ・ギゴン 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

2006年11月16日、チューリヒ州警察は未成年者12人と18歳の成人1人を逮捕。チューリヒのゼーバッハ地区で2晩にわたり、13歳の少女にわいせつ行為をした疑いがかけられた。

被害者に対する事情聴取で、少女は「死んだほうがよかった」と語った。2007年11月にこの聴取内容の一部が公開されたが、報道陣からの大きな反応は無かった。

しかし、その後、事件の犯人とおぼしき者が外国人だったことが判明したため、センセーションを巻き起こした。この事件の数週間前には、シュテフィスブルク ( Steffisburg ) でも事件が起こっている。この事件でも、犯人のほとんどが外国人の若者で、14歳の少女に対して集団暴行が行われた。

2007年7月、ベルナーオーバーラント裁判所は被告人8人のうち5人に無罪を言い渡した。2人は婦女暴行の罪で条件つきの有罪判決を下された。最後の1人についてはまだ審議中だ。

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