複雑な問題を抱えるナイジェリアの移民
移民申請を却下された外国人をスイス政府は、早急に国外退去させようとしている。その標的となっているのがナイジェリア人だ。
難民援助団体は、彼らが抱えている複雑な問題を挙げ、短時間で申請を処理することは危険で、違法にもなりかねないと警鐘を鳴らす。
問題提起
連邦司法警察省移民局 ( BFM/ODM ) のアラール・ドゥ・ボア・レモン新局長はドイツ語圏の日曜新聞「NZZアム・ゾンターク( NNZ am Sonntag )」4月11日付の紙上で「難民ではなく犯罪を犯しにスイスに来る」とナイジェリア人を名指しで指摘し、注目を浴びた。
「 ( 彼らの ) 大半が犯罪の世界をさまようか、麻薬取引に手を染めている。悲しいかな事実だ」
とドゥ・ボア・レモン氏は語った。移民局は政府の代表者を交えた勉強会を作り、夏までに対策を提案することになっているという。目標は難民申請期間の短縮と、申請が却下された場合は早期に国外退去させることにある。
国民党、徹底した措置を要求
「徹底した措置が必要」と国民党 ( SVP/UDC ) の国民議会議員のハンス・フェー氏は主張する。国民党は長年にわたり、犯罪者の外国人に対して厳しい措置を要求してきた。
「( 難民として受け入れを申請している人に対しては ) その身分を証明する書類を揃えることが重要。今こそ、これを実行に移さなければならない」
と訴える。
これに対しスイス難民援助機関 ( SFH/OSAR ) は、ことは簡単ではないと反論する。ベアト・マイナー会長は
「歴代の局長も、問題解決に尽力した。スイス以外の諸国も、同じ問題を抱えている。ドゥ・ボア・レモン氏がこの問題を解決したなら、彼はほかの組織から引く手あまたになるだろう」
と言う。厳しい措置は「時と場合によっては重要で正しいが、個々のケースを判断するためには時間がかかる」と指摘するのは、社会民主党 ( SP/PS ) のアンディ・チュンペリン氏だ。
犯罪者は即刻国外へ
個々のケースを検討する時間を短くすることこそがドゥ・ボア・レモン氏が目指すことだ。
「一部のナイジェリア人が、スイスのナイーブさを嘲笑い、監査の甘さを利用していることは事実だ。わたしは、スイスは難民受け入れ国としてあまりにも魅力がありすぎると思う。決定まで時間がかかるため、国内で ( 麻薬の ) 違法取引をする時間が十分与えられる」
と言う。
スイス難民援助機関のマイナー氏も
「保護される理由もなく、積極的に犯罪行為に至る者は即急に国外へ出るべきだ。もし、スイスの制度が悪用され、悪用する人に対して寛大な態度を取るなら、スイスの難民制度そのものに悪い影響が出る」
と言う。もっとも「受け入れ審査は、法治国家として遵法精神に基づき行われ、間違った判断は法的に是正されなければならない」とも語った。
さらに、マイナー氏は
「ナイジェリア人が難民となる理由はある」と言う。「ナイジェリアの人権保護レベルは非常に低く、貧困も深刻」。人口約1億5000万人は約400の部族に分かれている。拷問、武装グループの対立、逃亡と追及などは日常茶飯事だ。2009年にスイスに難民として受け入れられたナイジェリア人は6人だけで、残りの約1800人は拒否された。
自分を語らないナイジェリア人
その理由は「多くのナイジェリア人は難民申請で、短く信頼できない定番の物語を語り、自分のことは話さないため」だという。
「このような状態では、受け入れを拒否するのは正当だろう。難民援助に携わる者でさえ、そのように考える」
とマイナー氏は言う。個人的なことを語りたがらない詳しい理由は分からない。「ただ、ヨーロッパに来るまでに大金を用意しなければならないことは確かだ」
彼らの中には宗教的に誓いを立てなければならず、魔術も関連しているのではないかとも考えられる人もいるという。
「わたしたちには理解できないが、彼は話をすると悪いことが起こると信じ、怖がっているという可能性もある」
とマイナー氏は想像する。さらに、彼らは身分を証明する書類が無い場合、スイスでは申請審査が複雑になるのも問題だ。身分が証明されない限り、申告が拒否され国外退去となっても、行き先がないという問題がある。拒否された場合は彼らの出身国が受け入れ先となるためだ。
アンドレアス・カイザー 、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳、佐藤夕美 )
2009年は1万6005人がスイスへ難民申請を行った。前年より3.6%減少した。このうちナイジェリア人は1786人で、前年より80.8%増加した。増加の理由は、スイスが世界的金融危機の影響が少なかったことから、従来の難民先だったイタリアやスペインからスイスに流れ込んできているためだと分析される。
スイスのナイジェリア人に対する難民審査は他国と異なっている。2009年に審査されたナイジェリア人1808人のうち、1701人の申請は認められなかった。70人は審査が拒否され、36人は申請が取り止めとなっている。
2010年初、49歳で連邦保健局の監査局長から連邦司法警察省移民局 ( BFM/ODM ) の局長に就任。1999年から2004年まで障害者協会「プロ・インフィルミス ( Pro Infirmis ) の会長を務めた
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