一貫性が求められるスイスの開発援助
スイスは外国への開発援助資金の増資と援助の一貫性を求められている。
経済協力開発機構 ( OECD ) は11月初旬行った業績報告で、経済危機ではあるが、開発援助に充てる資金を国民総所得 ( GNI ) の0.5%に上げるようスイスに対し勧告している。
スイスの開発援助を評価
OECD援助委員会の エックハルト・ドイチャー氏は、ベルンで提示した報告書の中で、6つの肯定的なポイントと6つの改良すべき否定的なポイントを挙げた。
ドイチャー氏は、特に貧困削減への努力、開発援助を行う政府との密接な協力、開発相手国の政府関係者の隠し資産返還などに的を絞ったスイスの開発援助は賞賛に値すると述べ、さらに
「スイスの国際的開発協力には、長い伝統があり、人道的援助、多くの個人の寄付者の存在など、学ぶべき点が多くある」
と高く評価した。
しかし、OECDの業績報告書はスイスの開発援助の弱点を、裾野が広がり過ぎており、多国の、しかもあまりに多くのセクターに援助を行っていると指摘する。また、開発援助資金を国民総所得 ( GNI )の0.7%にするよう示唆する国連 ( UN ) の数字を念頭に入れた上で、スイスにこの値を0.5%に上げるよう勧告している。
スイスは、2008年度に22億フラン ( 約1900億円 ) を開発援助に投資しているが、これは国民総所得 ( GNI ) の0.42%にあたり、2009年はこの数字をさらに上回るように設定している。
外務省、経済省の協力関係
OECDは、さらにスイス政府が外務省と経済省の協力関係を高め、開発援助の政策を改善すること、また国民に対する報告も怠るべきではないと指摘し
「納税者は、自分たちの税金が何に使われているのかを知る権利がある」
と言う。
開発援助におけるほかのヨーロッパ諸国との比較では
「スイスは10点中8点を取るほど、多くのヨーロッパ諸国より積極的に行動しているが、まだ多少向上させる余地はあるはずだ。非常に優れた援助を行っているスカンジナビアの国々は、特に一貫したコンセプトと援助方法を行っている」
とドイチャー氏は説明する。
援助は安全、貿易、金融、農業、環境とも関係
一方、連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)局長マルティン・ダヒンデン氏はこれを受け、OECDの業績報告を評価基準として大切なものと捉えており、いくつかの指摘はすでに実行に移していると語りながら
「開発協力局は2012年までに12カ国に焦点を当て、6つの特別プログラムを実施しようとしている。ただ改革には時間がかかる」
と解説した。
また、スイスの最近の外交報告書においても開発援助は中心的な役割を演じており、さらに
「開発援助は外交の一手段としてではなく、安全、貿易、金融、農業、環境などの分野の問題としても捉えていくべきだ」
と述べた。
開発援助資金に関しても「権威あるOECD業績報告が、他国に対してもスイスを高く評価してくれたことは非常にうれしく思う。またこうしたレポートの勧告であればスイス政府も援助資金を国民総所得 ( GNI ) の0.5%に上げる方向に動くだろう」
と語り、報告には援助資金が援助相手国の援助金として確かに使用されている事実も記載されていると強調した。
一方、カトリック系の開発援助団体「カリタス ( Caritas ) 」のヒューゴ・ファーゼル氏は
「OECD業績報告はスイスに対しもっと厳しい評価を下すと思っていた。またスイスの銀行秘密主義や租税政策にも光をあてるべきではなかったかと思う」
と話した。
ウルス・ガイザー、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、里信邦子 )
OECD加盟国は、4年ごとに開発援助に関し、ほかの加盟国から調査を受け、その結果がOECD業績報告書として発表される。
今回はオランダとベルギーがスイスの開発援助政策の調査を行った。調査チームはスイスのアルバニアとニカラグアにおけるプロジェクトを中心に調査した。
第1回のスイスに対する報告書は1960年に出された。
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