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隣の国際機関は何する者ぞ? ジュネーブで市民交流イベント

国際機関の紹介カウンター
swissinfo/Dorian Burkhalter

ジュネーブに拠点を置く国際機関が、地元住民に活動への理解を深めてもらおうと、ショッピングセンターでイベントを開催した。普段ほとんど接点のない地元住民と交流する異例の試みだ。果たしてその効果は?

4月中旬の水曜日の午後、スイス・フランス語圏最大のショッピングモール「バレクセール」の通路にはポップミュージックが流れ、食器の音が響いている。外はどんよりとして冬のようだ。屋内では、子連れの母親や高齢者が、店舗が立ち並ぶ通路を歩いている。一方、吹き抜けの大広場の様子はいつもとは違う。青色のバッジをつけた国際機関の職員約20人が、2列に並んだスタンドの間を忙しそうに動き回っている。会場の中央には、193カ国の国旗が印刷された風船が光る。

4月16~20日にバレクセールで初めて開催されたイベント「国際都市ジュネーブと出会う外部リンク」では、普段ほとんど接点のない2つの「世界」が一堂に会した。欧州合同原子核研究機関(CERN)や国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)など16の国際機関に代表される「国際都市ジュネーブ」と、地元の買い物客たちだ。

このイベントの目的は、ジュネーブに拠点を置く国際機関の活動について地元住民に理解を深めてもらうことだ。

ショッピングセンターのホール
スイスのフランス語圏最大のショッピングモールの中心で、普段はほとんど接点のないジュネーブ拠点の国際機関と地元住民が交流した swissinfo/Dorian Burkhalter

説明は難しい

国連世界食糧計画(WFP)やIFRCといった人道支援機関のスタンドでは、職員が市民の好意的な反応や機関に関する知識の豊富さに驚き、喜んでいる。

だが、中には市民への啓発活動が難しい機関もある。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)のスタンドでは、ロシア出身の若手職員ダリアさんが、国連が世界中の人々の基本的人権を守るためにどのような活動をしているのかを説明する。

「簡単ではない」とダリアさんは流暢なフランス語で話す。「国連に不信感を持つ人もいるだろうと予想していた。今の状況では当然だ。私自身も、実際何をしているのかと聞かれることが多い」という。

国連安全保障理事会は常任理事国5カ国(米ロ中英仏)の拒否権のせいで、パレスチナ自治区ガザやウクライナ、シリアでの戦争を防ぐことも、終息させることもできずにいる。安保理の機能不全は、ジュネーブ拠点の技術系機関も含め、国連全体のイメージを損なっている。

だが、ダリアさんは前向きだ。隣国フランスから来た高校生のジェムさん(18)に、数十カ国に展開するOHCHRの活動を具体的に説明する。「私たちは地域社会の若者に人権を教えるプロジェクトを行っていく。自分たちの権利とその守り方を知ってもらうためだ」と熱心に語る。

映画のチケットを持ち、アメリカンブランドのセーターを肩に掛けたジェムさんは、偶然このイベントに出くわしたかのように見えた。だが、そうではない。チケットは隣のスタンドでクイズに正解して得た賞品だ。実は国際協力の担い手に会うために来た。

「子どもの頃から国際機関に関する本をたくさん読んできた」と話すジェムさんは、来年からオランダのマーストリヒト大学でEU(欧州連合)法を学ぶ予定だ。では、クラスメートはどうだろうか。国連は役に立っていると思っているだろうか。ジェムさんは笑ってこう答える。「役に立っていないと言う人が多い。世界には、国連が介入しようとしても実質的な行動にはつながらない大きな問題がたくさんあるからだ」

「だが、私の意見は違う」とジェムさんは続ける。国連が夢を与え続けている証拠に、人脈を広げ、将来の仕事につなげようと来場したと話す人が何人もいた。

2つの異なる世界

少し離れたところにある、国際的な議員交流団体の列国議会同盟(IPU)のスタンドでは、豪州出身でスイス在住歴3年のケイトさんが地元住民を歓迎する。

「地元住民に会うのはこれが初めてか2回目だ、と同僚に話していたところだ。私には地元の人と話す絶好の機会だ」と満面の笑みを浮かべる。

これら国際機関の建物は遠くからでもよく見え、市内には多くの駐在員が暮らすが、一般市民がその世界に近づくことはほとんどない。お互いによく知らないのだ。

イタリア出身の年金生活者セルジョさん(83)は、「国際都市ジュネーブは孤立したままだが、それはある程度意図的なものかもしれない。必ずしも優劣をつけず、距離を保ちたい。それが外交団の短所だ」と苦笑する。セルジョさんもかつてこの外国人社会で暮らしていた。今ではフランス語を習得しなかったことを後悔していると話す。在ジュネーブ伊領事館に勤務していた頃、フランス語はほとんど使わなかった。

ちなみに、多くのスタンドでは英語が話されているが、大半の来場者にとって特に問題はないようだ。

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有益なアプローチ?

swissinfo.chが出会った地元住民のほとんどはこのイベントを目的に来ていた。だが、そうでない人もいる。ハナーヌさんと4人の子どもたちは買い物をしに来たところ、偶然イベントを知り、CERNのスタンドに立ち寄った。

ハナーヌさんは、「私には全く未知の世界だ。もちろん、いくつかの国際機関について耳にすることはあるが、どの機関が何をしているのかは知らない」と話す。「それでも、子どもたちにとって面白い発見があったのはうれしい驚きだ」

実際には、イベントに関心をみせるものの、通り過ぎる人が大半だ。そういう人たちがどう思っているかはわからない。だが、イベントに参加した国際機関は、継続開催を検討する程度には成功したと考えているようだ。

国連社会開発研究所(UNRISD)の中国出身のインターン、ユーユーさんはこう話す。「来場者のほとんどが、ネットワーキングや協力の可能性を探る団体や企業、非政府組織(NGO)だとしても、これは良いやり方だと思う。一般市民はこれまで躊躇ちゅうちょしていた」

編集:Imogen Foulkes/vm、仏語からの翻訳:江藤真理、校正:ムートゥ朋子

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