ウクライナの地雷除去支援 日本も貢献
ウクライナは2022年のロシアによる侵攻以降、推定で国土の4分の1が地雷に汚染されている。日本は世界の地雷対策をリードする国の1つとして、ウクライナの地雷除去支援に大きく貢献している。
「ウクライナの人々が安心して日常生活に戻れるよう、日本は地雷除去分野での取り組みを強化していく」。今年6月、スイスで開かれたウクライナ平和サミットで、岸田文雄首相は自身の演説の中でこう述べ、来年のウクライナ地雷対策会議(UMAC)を日本が主催すると述べた。今年はスイス・ローザンヌで開かれている。
日本政府は2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、独立行政法人国際協力機構(JICA)外部リンクを通じ、ウクライナ非常事態庁(SESU)に対し地雷除去機材の供与と技術能力開発支援を続けている。JICAは政府開発援助(ODA)を担う機関で、ウクライナにおける地雷除去支援の中心的役割を担う。
日本政府とJICAは今年7月、ウクライナの復旧を支援する総額910億円の無償資金協力の一環として、日建(山梨県南アルプス市)が開発した地雷除去機4台をSESUに引き渡した。世界でも珍しいショベルカータイプで、アームの先端部を交換すれば、がれき除去や樹木の伐採などにも使える。年内に計約20台を届ける予定だ。
また2023年末には、東北大学の佐藤源之名誉教授が開発した最先端の小型地雷探知機「ALIS(エーリス)」を計50台、ウクライナに無償供与した。金属探知機とGPR(地中レーダー)を組み合わせ、対人地雷の形状を電波の反射を利用して画像化する。画像はタブレットに映し出され、地面を掘らなくても地雷の位置を正確に探知できるため作業の効率化につながるのが利点だ。
JICAは機材の提供よりもむしろ相手国の能力開発支援に力点を置く。これまでにSESUのスタッフらを対象にした研修を日本、カンボジア、ポーランドで複数回実施し、のべ50人が地雷探知機や地雷除去機の使い方、メンテナンスの方法を学んだ。
ウクライナ国家地雷対策局(NMAA)によると、ウクライナでは国土の約23%に及ぶ土地(13万9060km2)が地雷、不発弾などの爆発性危険物によって汚染されている可能性がある。610万人がそうした危険物の近くに住み、民間人の死傷者は900人に上る。
ウクライナの戦争は現在も続いており、仮に戦争が終結しても地雷の除去にはさらに長い年月がかかる。
JICA平和構築室の大井綾子室長は「他国のように支援する側が現地に赴いて直接探査・除去を行うのではなく、私たちはウクライナの人たちが今後、自分たちで計画を立てて探査・除去をやっていけるようになることを目指している。そのための能力強化を主眼にしているのが日本の支援の特徴だ」と話す。
カンボジアで25年の経験
日本の地雷除去支援の原点はカンボジアだ。日本は1998年以来、カンボジアに総額160億円以上の無償資金協力を行い、地雷の処理を支援してきた。カンボジアは当時、ベトナム戦争とその後20年続いた内戦により最大の地雷埋設被害国となり、埋設された地雷は推定400〜600万個と言われていた。
対人地雷に関する国際社会の関心が高まったのは1990年代初めに遡る。カンボジア、アフガニスタン、アンゴラ等の紛争地域を中心に埋設された地雷は一般市民に甚大な被害を引き起こし、紛争終結後の復興と開発にとって大きな障害となっていた。
NGOの呼びかけがきっかけで、対人地雷の使用、貯蔵、生産、移譲等を全面的に禁止する対人地雷禁止条約(オタワ条約)が1997年に署名を開始し、1999年に発効した。日本もこれに署名した。
日本は当初、防衛庁(現・防衛省)が日本の海岸線を防衛する手段として対人地雷を重視し条約締結には消極的だったが、小渕恵三外相(当時)の強い説得で署名に漕ぎつけた。日本が保有していた約100万個の地雷は2003年2月に廃棄が完了している。
締約国会議は年1回開かれ、条約の履行状況などを164カ国・地域の締約国、署名国、国際機関などが議論する。2025年の締約国会議議長職は日本が務める。
JICAは1998年から、カンボジアの政府機関であるカンボジア地雷対策センター(CMAC)に地雷除去の効率化を図るための機材の供与、組織運営能力のための後方支援を行い、カンボジアが自力で地雷対策を行える体制づくりに協力してきた。
こうした支援によって、CMACの年間の地雷汚染地解放面積(除去・調査を通じて地雷・不発弾汚染がないことが確認・解放された土地)は1995年〜99年の約10平方km2から2023年には約282平方km2にまで拡大した。
カンボジアは現在では地雷対策に対して最も知見を持つ国に発展した。2010年以降、CMACはJICAと連携し、コロンビアをはじめラオス、アンゴラ、イラクなどの政府関係者500人以上に地雷対策の研修を実施。アフリカの地雷埋設国を対象にしたワークショップも行った。
また日本とカンボジアは新たな地雷対策イニシアチブを立ち上げた。その柱の1つが、カンボジアをハブ拠点として第三国での地雷対策支援を共同で実施するという内容だ。カンボジアで行われたSESU職員向けのALIS研修もその1つで、CMAC の専門家が機材の使い方を教えた。
軍事支援の代わりに
日本は地雷対策における世界最大のドナー国の1つだ。地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)の「ランドマイン・モニター報告書2023外部リンク」によると、2018年から2022年の資金拠出額では日本は常にトップ5に入る。
平和憲法を持つ日本は、武器輸出に関しては厳しい規制がある。日本が人道支援に力を入れるのは、直接的な軍事支援が難しいことも背景の1つにある。
しかし日本もスイスと同様、ウクライナ戦争により武器供与解禁を求める国際社会の圧力にさらされた。日本政府はロシアの侵略が始まった直後の2022年3月、防衛装備移転三原則の運用指針を改定。ウクライナに送る自衛隊装備品を「不用品」扱いとみなすなどの措置をとり、防弾チョッキやヘルメットを提供した。
また政府は23年末、再び防衛装備移転三原則を改定し、自衛隊が保有する地上配備型の迎撃ミサイル「パトリオット」を米国へ輸出する方針を決め、殺傷能力のある武器の完成品の輸出を解禁した。パトリオットはライセンスを持つ企業のある米国から受注する「ライセンス生産品」で、米政府からの要請を受けて決定した。日本からの完成品が米国の在庫を補填することで、米国は国内にあったパトリオットをウクライナに供与しやすくなる。間接的なウクライナへの戦闘支援だという批判も上がっている。
ただ現時点ではスイスも日本も人道・経済復興支援分野が中心だ。
ウクライナの地雷対策会議は、日本が自国のプレゼンスを世界に示すまたとない機会だ。岸田氏は今年6月、主要7カ国首脳会議(G7サミット)のため訪問したイタリアでウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領と会談し、来年の会議を日本で開催する意向を伝えた。ゼレンスキー氏も日本側の意向を歓迎し、最大限協力すると返答している。
日本では最先端の地雷除去機を開発する日建、コマツに加え、IT大手のNECがAIを活用した地雷埋設エリアの予測技術を開発中で、担当者は「終戦後のウクライナでこの技術が貢献できる可能性がある」と話す。ウクライナの地雷対策国際会議は国の取り組みだけではなく、こうした日本の民間企業のイノベーションを世界にアピールできる場としても期待される。
JICA平和構築室の大井綾子室長は「対人地雷廃絶への努力は人間の安全保障、すなわち人々が平和に暮らせる社会を守るために不可欠な要素だ」と語る。「来年日本で行われる会議が、ウクライナにおける地雷対策への各国の取り組みをさらに加速させることを期待している」
編集:Veronica DeVore/ds
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