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スパイ天国、スイス

シルトホルン展望台を歩くジョージ・レーゼンビー
2019年6月、スイスが舞台となった「女王陛下の007」の公開50周年を記念してシルトホルンを歩く2代目ジェームズ・ボンドのジョージ・レーゼンビーさん。映画のなかだけでなく、スイスは「スパイの国」とされる Keystone / Urs Flueeler

中国、米国、ロシア、トルコ、イラン…スイスは世界中からスパイが送り込まれてくる場所とされる。スイスのスパイ事情に詳しいジャーナリストに話を聞いた。

スイスはスパイ天国とは。世界中の諜報員がこの国に潜入する理由はさまざまだ。製薬業界、国際機関、資源商社など、ターゲットには事欠かない。だが、スイスではスパイが国外追放処分になることは珍しい。

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スイス人ジャーナリストのトーマス・クネルヴォルフ氏は、外国の諜報機関やスパイにとって、スイスはスパイ活動にもってこいだと言う。同氏は10年に渡る調査をもとに最新作「Enttarnt – die grössten Spionagefälle der Schweiz(仮訳:暴かれた正体~スイス最大のスパイ事件)」を執筆した。

まだ記憶に新しいのは、ベルナー・オーバーラント地方で2023年に発覚した事件だ。スイス中部のマイリンゲンにある「ホテル・レスリ」は、中国人経営者が購入したとされていたが、クネルヴォルフ氏は、これは中国の諜報機関による大規模な秘密工作の一端だったと話す。

彼らの狙いは、スイス軍が所有する米最新鋭戦闘機F35だ。中国は何年もこの戦闘機に関する情報収集を試みてきた。軍用滑走路に隣接するホテル・レスリほど、この戦闘機に近づける場所はない。ホテル購入は基地の監視が目的だったとの疑いで、既にこの中国人はスイス捜査当局から国外退去を命じられた。

中国だけでなく、ロシア、米国、トルコ、イランといった国々のスパイもスイスで活動している。クネルヴォルフ氏は「スイスの捜査網など、外国の諜報員にしてみれば朝飯前」と話す。スイスにはスパイ捜査の専門家が約50人いるが、その一部は非常勤だ。一方、外交官になりすましベルンやジュネーブ、チューリヒに潜入している諜報員は、ロシアだけでもその数を上回る。

スイスの連邦諜報局(NDB)も最新の報告書の中でこの問題を認め、次のように述べている。

「ジュネーブとベルンのロシア代表機関で公認されている220人のうち、少なくとも3分の1は依然としてロシア諜報機関とつながっている可能性が高い」

独ミュンヘンの現代史研究所で講師を務める専門家、アドリアン・ヘニー氏は、今年5月にドイツ語圏スイス公共放送(SRG)の政治討論番組「10vor10」に出演し、ロシアは最近、スイスでのスパイ活動をこれまで以上に活発化していると語った。

スパイと言えばジェームズ・ボンド

クネルヴォルフ氏によると、スイスにおけるスパイの歴史は男性が中心だ。著書に登場するスパイも、男性が数十人であるのに対し、女性は2、3人。女性の方が目立ちにくいのも理由の1つだという。

スパイと言えば誰もがジェームズ・ボンドを思い浮かべ、男性を想像する。女性をイメージすることはまれだ。同氏が察するに、女性の方が上手く誰かになりすませるようだ。

スイスがスパイ活動の拠点として好まれる理由について、クネルヴォルフ氏はこの国の中立性を挙げた。「国際機関が誰を派遣してくるのか、スイス側は選べないと連邦政府は発言している。誰が来ても受け入れざるを得ない」。だがこの方針は大いに賛否が分かれている。

連邦議会の両院は現在、スイスで摘発されたスパイを直ちに国外追放するよう、政府に圧力をかけている。連邦諜報局の報告書には、他の欧州諸国は既に対策に乗り出したとある。

「外交官を装ったロシア情報部員が、欧州から多数追放された。一方、スイスではその数に変化はない」

危険にさらされるマイノリティ

マイノリティに属する人たちは特に注意が必要だとクネルヴォルフ氏は話す。例えばチベット人やウイグル人などの少数民族や、トルコの野党メンバーなどは危険だという。スイスでは、トルコ人ビジネスパーソンの誘拐未遂事件などがしばしば起きている。常日頃から警戒心を持ち、「この問題を本当に深刻に受け止めるべきだ」とした。

※本投稿はドイツ語圏スイス公共放送(SRF)の記事外部リンクを転載したものです。

独語からの翻訳:シュミット一恵、校正:ムートゥ朋子

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