よみがえる、ル・コルビュジエの代表作
建築界の巨匠、ル・コルビュジエの代表作の1つ、ジュネーブの集合住宅「クラルテ ( Clarté ) 」はその建築的価値にもかかわらず、外装が傷んだまま長く放置されていた。
しかし、今年6月ついに修復工事が始まり、2年後には1932年当時の姿がよみがえる。また近いうちにユネスコの世界文化遺産にも登録されるという。
ル・コルビュジエが、実はスイスのヌーシャテル州ラ・ショー・ド・フォンに生まれだということは意外に知られていない。後に国籍を取得したフランスが主な活躍の場だったからだ。スイスには、両親のための家「ル・ラック」など7つばかりの作品がある。その中でもジュネーブの「クラルテ」は鋼鉄の柱とガラスでできた新しいコンセプトの集合住宅として、全作品中でも画期的な地位を占める代表作の1つである。
ガラスの建物
「クラルテ」は、一言でいえば、第1次大戦後の混乱から抜け出て、都市での新しい生活スタイル、新しい都市計画を模索するル・コルビュジエの実験的作品だという。
「中産階級の個人住宅が次々に垂直に重なり合っていると思えばよく、土地が節約できる上、個人住宅のような快適な住まい空間という、新しいコンセプトの集合住宅」と建築史家ベルナール・ツムトール氏の端的な説明。
その基本構造は、鋼鉄の柱の組み合わせの上に床板や天井が載っている、極限まで単純化を図ったもの。そのため壁、ドアなどの取り外しがきくので住居空間を自由に変えられる。
8階建ての建物の中には、こうして自由に空間を組み合わせた2層メゾネット型のアパート、南北に連なる8部屋からなるアパート、小型の1部屋のアパートなど8つのタイプのアパート、計48戸が混在する。
こうした自由な空間利用は、石などの、壁が基本構造をなすので空間を自由に変えることができない19世紀までの建物とは対照をなすという。
また外装も内部の階段もガラスでできていて、透明感と光があふれる。そのため「ガラスの建物」とも呼ばれた。「クラレテ」という「明るさ、透明さ」を意味する名がつけられた由縁もここにある。
2年後もとの姿に
この軽快な「ガラスの建物」だが、実は傷みが激しく過去2回にわたって解体の危機に見舞われた。ジュネーブ州は建築家たちの支持で1986年にやっと、「州の歴史的建築物」に指定し、保護することにした。
2003年に歴史家、修復専門家などが研究を重ね、ようやく今年6月に工事がスタート。「改装ではなく修復」と工事の責任者、ジャック・ルイ・ド・シャンブリエール氏が強調するように、最大限に1932年建設当時の姿をよみがえらせるという。
主に建物の外装とベランダ、電気、水道など公共部分の修復になる。修復専門家は1974年に塗り替えられたベランダの茶色のペンキを何層も削り取り、1932年のオリジナルの色、「明るい水色」を見つけ出したという。
日よけ用の布製のブラインドも30年代に主に使われていたベージュ色の布を見つけた。「1年後、1932年のオリジナルに修復された部分が半分、修復されていない部分が半分で、両者を比較できるような期間を設定する」とド・シャンブリエール氏。
全てが元の姿に生まれ変わるのは2年後である。
swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
工業部門の事業家、ジュネーブのエドモン・バネール氏の依頼で、ル・コルビュジエと彼のいとこのピエール・ジャヌレ氏によって1932年建設される。
8階建て48戸のアパートからなる集合住宅。鋼鉄の柱とガラスでできており「ガラスの建物」と呼ばれる。
今も、48戸のうち、2〜3戸の弁護士事務所や建築事務所を除くすべてが個人の高級アパートになっている。住人の1人にジャヌレ氏の孫娘がいる。
この革新的な集合住宅構想は、やがて20年後建設のマルセイユの集合住宅「ユニテ・ダビタシオン」にとつながっていく。
行き方 >コルナバン駅 ( Cornavin ) から徒歩15分、または8番のバスでRive下車。住所、2-4, rue Saint Laurent Geneva入り口、階段など公共部分のみ見学できる。
2003年、建築歴史家、修復専門家が修復の研究プロジェクトを開始する。
2007年6月、修復工事がスタートする。
修復はなるべくオリジナルをよみがえらせるよう注意が払われている。例えばベランダは取り外し、使えるところは残して作り直し、後でに取り付ける。色は当時のものを復活させる。
外装のガラス窓は下半分は鉄線の入ったガラスでそのまま残すが、上半分は窓枠はそのままで、透明ガラスだけ騒音防止、保温効果のある2重窓にするなどの工夫がなされる。
総工費は約1420万フラン ( 約14億2000万円 ) 。「クラルテ」のアパートの持ち主たちの出資と州政府、連邦政府の出資からなる。
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