スイスの彫刻家アルベルト・ジャコメッティの作品は、一目見ればすぐにそれが彼のものだと分かる。20世紀を代表する芸術家の中でも、ここまで作品の認知度が高い芸術家は少ないだろう。ロンドンにある近現代美術館、テート・モダンで開催中の大規模な回顧展では、世界的に有名な塑像の作品群が1956年以来、初めて一挙に展示されている。
このコンテンツが公開されたのは、
アルベルト・ジャコメッティの立像シリーズ「ヴェネツィアの女」は1956年、国際建築展覧会であるヴェネツィア建築ビエンナーレを機に制作された。今回、テート・モダン外部リンクの回顧展では、60年来初めてその作品群を一挙に鑑賞できる。また、ジャコメッティが同年にクンストハレ・ベルン外部リンク美術館で発表した彫刻作品2点も同時に展示されている。
このテート・モダンでの回顧展に際して展示作品は、パリのアルベルト&アネット・ジャコメッティ財団外部リンクにより特別に修復され、組み立て直された。同回顧展は、デリケートで重要な作品群をジャコメッティが当初に意図した姿で鑑賞できる、またとないチャンスだ。
ジャコメッティといえば、有名な細長いブロンズ像を思い浮かべる人が多いだろう。確かに、これらの作品をきっかけに彼は世界的に有名になった。だが同回顧展は、ジャコメッティを「石膏、粘土、絵の具といった素材にも興味を示していた多才な芸術家」として紹介しているのが特徴だ。
「ヴェネツィアの女」の制作では、作品1体毎に3週間かけて粘土で大まかな像を作った後、石膏で型を取って鋳造し、最後にナイフで仕上げを行っている。
また、作品に影響を与えた彼の人間関係にスポットを当てている点も、テート・モダンの回顧展は他の展覧会と異なっている。最も重要な人物には、ジャコメッティの妻アネット、弟ディエゴ、そして晩年に愛人関係にあったカロリーヌが挙げられる。ジャコメッティは友人や家族をモデルにした作品を数多く残している。同回顧展ではディエゴとアネットの肖像のみが並べられた展示室もあり、ジャコメッティがいかに正確に人間の表情と肉体を観察していたかが伺える。
同展覧会は9月10日まで開催されている。
著作権(全作品): © Alberto Giacometti Estate, ACS/DACS、2017年。
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
(独語からの翻訳・シュミット一恵)
続きを読む
おすすめの記事
画家ジャコメッティの隠された壁画
このコンテンツが公開されたのは、
スイス人画家アウグスト・ジャコメッティが描いたチューリヒの旧証券取引所の歴史的な壁画が、長年にわたりプロジェクタースクリーンやカーテンの後ろに隠されたままの状態だった。このようなおざなりの保存方法に対し、専門家や市民らから批判の声が上がっている。
もっと読む 画家ジャコメッティの隠された壁画
おすすめの記事
写真家カルティエ・ブレッソンの見たジャコメッティ
このコンテンツが公開されたのは、
フランスの写真家アンリ・カルティエ・ブレッソンは、スイスの彫刻家アルベルト・ジャコメッティを「友人」と呼んだ。1930年代に、パリのとあるカフェから始まった彼らの友情は、25年以上続いた。2016年1月11日は、ジャコメッティの没後50年にあたる。
カルティエ・ブレッソンは友人として、ジャコメッティのよりプライベートな世界を知る数少ない一人だった。ジャコメッティのポートレートはパリのアトリエで撮影された。プライベートな写真は、彼がグラウビュンデン州の村スタンパにあるジャコメッティの実家で、ジャコメッティとその母親と共に休暇を過ごした際に撮影したものだ。大変親しい仲にあったにも関わらず、カルティエ・ブレッソンのジャコメッティに対する尊敬の念が薄れることはなかった。彼はジャコメッティを「私が知っている人間の中で、最も聡明(そうめい)で洞察力に優れている」と評価している。
もっと読む 写真家カルティエ・ブレッソンの見たジャコメッティ
おすすめの記事
ジャコメッティ
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブで開催中の「アルベルト・ジャコメッティ展」は、生涯の作品を網羅する回顧展でありながら、典型的な針金のような人物を制作する以前の、ジュネーブで過ごした「創作の危機の時代 ( 1942年から45年 ) 」に焦点を当…
もっと読む ジャコメッティ
おすすめの記事
ジャコメッティ 親指大の彫刻を通過して
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブで開催中の「アルベルト・ジャコメッティ展」は、生涯の作品を網羅する回顧展でありながら、典型的な針金のような人物を制作する以前の、ジュネーブで過ごした「創作の危機の時代 ( 1942年から45年 ) 」に焦点を当…
もっと読む ジャコメッティ 親指大の彫刻を通過して
おすすめの記事
トレンディなジャコメッティ
このコンテンツが公開されたのは、
昨年も、別の作品「よろめく男 ( L’homme qui chavire ) 」がやはりスイス芸術作品としては最高の1850万ドル ( 約19億円 ) で落札されている。 才能と人気 クリスティーズの広報担当者は、「ス…
もっと読む トレンディなジャコメッティ
おすすめの記事
古代エジプトに魅せられたジャコメッティ
このコンテンツが公開されたのは、
100フラン紙幣の裏に印刷されているジャコメッティ作の「歩く男」が、古代エジプト彫刻に影響されていることを明かす展覧会「ジャコメティ、エジプト人展 ( Giacometti, der Ägypter ) 」が、現在チュー…
もっと読む 古代エジプトに魅せられたジャコメッティ
おすすめの記事
アルベルト・ジャコメッティ、その彫刻作品とアトリエ
このコンテンツが公開されたのは、
これらの写真は、写真集『Spuren einer Freundschaft(友好の軌跡)』第2版に掲載されることになった。撮影場所は、ジャコメッティが暮らし、作品を制作していたスイスのブレガリア谷と仏パリ。彼のプライベー…
もっと読む アルベルト・ジャコメッティ、その彫刻作品とアトリエ
おすすめの記事
ジョヴァンニ・ジャコメッティ
このコンテンツが公開されたのは、
ベルン美術館 ( The Museum of Fine Arts ) が画家ジョヴァンニ・ジャコメッテイ ( 1868-1933 ) の大回顧展を開催中。ジョヴァンニは彫刻家アルベルト・ジャコメッティ ( 1901-19…
もっと読む ジョヴァンニ・ジャコメッティ
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。