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クラウス・フーバー氏 ザルツブルク音楽賞に輝く

ヨーロッパ以外の国の音楽もインスピレーションの源、クラウス・フーバー氏 Keystone

3月29日、スイス人作曲家クラウス・フーバー氏はこれまでの音楽活動を認められ、前回に引き続き再びノミネートされたザルツブルク音楽賞を受賞した。今年のエルンスト・フォン・ジーメンス賞に続く、2つ目の大きな賞だ。

個性的な頭の形から、フーバー氏はいつもトールキンの 『 ロード・オブ・ザ・リング ( 指輪物語 ) 』 に登場するガンダルフにそっくりだと言われるという。 『 ロード・オブ・ザ・リング 』 同様、フーバー氏は神秘的でスケールが大きく、彼の生み出す音楽もまさに同じだ。

妥協しない音楽家

 「クラウス・フーバー氏は世界的に定評があり、最も有名な同時代の現代音楽作曲家の1人です」
 と、ベルン音楽学校の元校長ヴェルナー・シュミット氏は語る。シュミット氏は1970年から今日までに作られた音楽を指して「同時代」と言い、さらに
「現在のところ、フーバー氏は国際的に評価されている唯一の現役スイス人作曲家です」 と、付け加える。また、フーバー氏のことを「芸術的にも政治的にも妥協しないため、理解者だけでなく敵までも作ってしまった気難しい同時代人」と評したのは、スイス人音楽評論家のマックス・ニフェラー氏だ。

 フーバー氏の作品の質に疑問を持つ人はなく、明確なビジョンを持った彼の考えは反論を引き起こすこともあるだろうが、高く評価されているという。
「それなのに、そろそろ85歳になろうという彼の作品はスイスではほとんど注目されていない」
 とニフェラー氏は書いている。これにはシュミット氏も同じ意見だ。
「スイスのラジオ局が彼の作品を流すことはほとんどありません」
 しかし、ドイツやフランスでは違うという。
「ただ、ドイツやフランスのラジオ局は予算に余裕がありますから」
 とシュミット氏は言う。

衝撃的な受賞

 また、イギリスの作曲家ブライアン・ファーニホウ氏はフーバー氏について
「彼の音楽は二重の意味で人間的だ。まず、音楽に携わる者は音楽をよく知っているべきだという伝統的な考え方に忠実だという意味で。次に、納得いくまで音楽に取り組む姿勢において。この場合、彼にとっての音楽とは、高尚な倫理的探求を体現してくれる究極の手段だ」
 と述べている。

 尊敬されると同時に、冷遇されることもあるフーバー氏は、自分の音楽について壮大な話を始める前に、同じ年に非常に大きな音楽賞を2つも受賞したことに圧倒され、衝撃すら受けていると話した。作曲家としての功績を讃えたこの2つの賞は、本来、音楽家の晩年に贈られるものだが
「遅すぎる受賞よりはいい」
 と、フーバー氏は笑って言う。

幅広い音楽世界

 フーバー氏の音楽は実際にスケールが大きい。まず、ポリフォニー的思考が特徴だ。キリスト教的神秘主義に対する強い関心だけでなく、スーフィズム ( イスラム教の神秘主義 ) や禅にも彼の関心は及ぶ。

 ヨーロッパの音楽のほかに、アジアやラテンアメリカの音楽とも無縁ではない。新約聖書の「山上の垂訓」に曲をつけたかと思えば、マルクスとエンゲルスによる 『 共産党宣言 』 にも曲を書く。ヨーロッパ以外の国の現代作家の文章から曲を作る一方で、南米の民主主義と社会主義を基本とした「解放主義神学者」の文章からもインスピレーションを得る。同様に、中世ドイツの修道院院長ヒルデガート・フォン・ビンゲンに、20世紀のドイツ人作家ハインリッヒ・ベルという具合だ。

 また、フーバー氏はアラブ音楽からも大きな影響を受けている。
「十字軍の遠征によりヨーロッパが滅ぼした高度な文化です。その音楽もまた葬られてしまいました」
 とフーバー氏は言う。例として、アルバニア北部に伝わる弦楽器「カヌン」を挙げる。オリエントの世界では、カヌンはすでに10世紀には広く知られ、ムーア人によってヨーロッパに伝えられた経緯を語り
「イスラム教を悪と考える風潮にわたしは反対です。今日のヨーロッパ音楽はアラブ人なくして存在しないでしょう」
 と語る。

「超越」を信じて

 フーバー氏のように作曲し、演奏する音楽家や、サウンドの向上に取り組む音楽家は、大衆受けする音楽を作らない。メインストリーム音楽のリスナーや素人にとって、フーバー氏の作品は控えめに言って、慣れが必要だ。そのことは作曲家自身も承知している。
「わたしの音楽が好みでないと言う人がいるなら、それは正直で正当な意見だと思います」
 しかし、こうした意見を聞く度にフーバー氏は
「頭が音楽を理解する必要はなく、心が音楽に共鳴しなければいけない」
 と答えるという。そして、心で音楽を感じることを許された人たちの多くの心が、彼の音楽に共鳴する様子を何度も感じるという。

 今回のザルツブルクでも聞かれたように、世界を代表する宗教的音楽家と言われ、フーバー氏自身はどう思っているのだろう。フーバー氏は誰もが聞こえるように声を張り上げ
「先験的、超域的でない音楽をわたしは信じません。また、超域的でない人間性もまた信じません」
 と語った。

swissinfo、ウルス・マウラー 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

1924年11月30日ベルンに生まれる。
チューリヒのヴィリー・ブルクハート氏、ベルリンのボリス・ブラハー氏に師事。
1959年、ローマで開かれた国際現代音楽協会 ( IGNM ) 主催の国際音楽祭で「魂へ語りかける天使 ( Des Engles Anredung an die Seele ) 」を演奏し、国際的なデビューを果たす。
1969年、スイスのボスヴィル ( Boswil ) にて国際作曲家セミナーを開始。
1970年、ドイツのボンよりベートーヴェン賞を受賞。
1984年、客員教授としての国際的な活動を開始。
2009年、エルンスト・フォン・ジーメンス賞 ( 賞金20万ユーロ ) とザルツブルク音楽賞受賞。
バイエルン芸術アカデミー、ベルリン美術アカデミー、マンハイム美術アカデミーの会員、IGNMの名誉会員、フランスのストラスブール大学の名誉博士。現在、ドイツのブレーメンとイタリアのパニカーレ ( Panicale ) に暮らす。
作曲数は約120作品に上る ( 1952~2009年 ) 。
ザルツブルク音楽賞授与の際に「緊張 ( Tempora ) 」 ( 1970年 ) と「インタルシ ( Intarsi ) 」 ( 1994年 ) が演奏された。 

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