行って得する美術・博物館 -4- リートベルク美術館
小鳥のさえずりが聞こえる坂道を登り切ると、太い幹の木が緑の芝生に影を落とすリーター公園(Rieter Park)が広がる。チューリヒ湖畔に近く、重厚な彫刻が施された館が並ぶ住宅街のある一角の風景だ。
公園の真ん中に、19世紀半ばに米国から移住してきたドイツ人オットー・ヴェゼンドンクが建てたヴェーゼンドンク館がある。
この館はその後、チューリヒの実業家の手を経て、東洋、中近東、北南米などの美術を集めたリートベルク美術館(Museum Rietberg)となった。スイスに来てまで非西洋美術を見る価値があるのか。答えはイエス。スイス人が抱く「エキゾチック美術」に対する暖かい愛情に触れることができるのがリートベルク美術館だ。
西洋の中の東洋
リートベルク美術館は民族史学を理解するためのコレクションの展示にとどまらず、ひとつひとつの作品が世界共通の美術作品として耐えうるものだけを所蔵していることで、海外でも評価が高い。その質は、南インドで出土した10世紀の作品「宇宙の舞踏王」に代表される。この像は「天地を創造する象徴としてリートベルク美術館の本尊のようなものです。これだけはどこにも貸し出しはしません」というのは学芸員のカタリナ・エプレヒトさん。
ヴェーゼンドンク家から館を引き継いだリーター家は、芸術に深い理解を示した。音楽家のワーグナーを一時、この館に住まわせたこともある。かつて、ワーグナーのような純西洋音楽が鳴り響いた館で、現在、異国の美術を鑑賞しにファンが集まってくる。チューリヒ市民の西洋外美術に対する理解は深く、寄贈品も多く個人や企業の寄付がふんだんにあるというからうらやましい。
展示品の横にある表示は、あくまでも簡素。洋の東西を問わずに共通する芸術の普遍的な美しさに、まずは触れてほしいという美術館の意図だ。もちろん、エキゾチックな美術を深く理解しようと思う人のために、歴史的、文化的背景の情報が満載されたカタログもショップで購入できる。3人の美術教育者が企画する大人向け、子供向けの講習会、異国の美術を求めての旅行、異文化交流のフェスティバルなどがある。日本から招かれた能楽師が、美術館所蔵の能面を着けて能を上演したこともある。
盗掘、盗難品の扱い
そもそも、その美術作品が生まれた土地から欧州に、美術品を輸入する意味があるのか。高い値段で売れることを狙い中近東や南米、東洋の美術品が盗掘され、遺跡があらされ放題なったり、盗品が市場に出回っているのは明らかに犯罪だ。公立の美術館が知らぬ間に犯罪に加担するリスクは、リートベルク美術館の場合、高い。
日本美術専門のエプレヒトさんは「日本の文化庁のコントロールは厳しいのでわたしは幸運」と言う。盗品や輸出禁止になっている美術品を間違って掴まされることがないと安心できるからだ。「日本の国宝や重要文化財といった超一級品を所有する気はありません。それに近い高い質のもので、それぞれの美術の特徴を伝える作品を持ちたいと思っています」と認める。
モダンなデザインで改築
リートベルク美術館は2007年2月18日に新しく生まれ変わる。ヴェーゼンドンク館から地下で結ばれたガラス張りの新しい建物が、特別展などにこれまでの2倍のスペースを与えてくれるようになる。そこには、本格的な茶室も設けられ、美術館とは独立した茶の湯の空間が生まれるという。日本から茶室作りの専門大工を呼ぶという熱の入れようだ。
新しいリートベルク美術館の皮切りとなる特別展示は「観音」。十一面観音、千手観音など多様な観音の姿を10〜13世紀の仏像と仏画を中心に紹介した展示となる。奈良国立博物館蔵の「十一面観音像」(12世紀)は、国宝。そのほか展示作品の3分の2は重要文化財だ。2001年に開催された「長谷川等伯展」には、小ぶりの会場に毎日1000人以上が訪れた。「『トウハク』といってみんなが話題にした。あの時のように、スイス人にとって『カンノン』が日本を代表する言葉になるように望む」と特別展を企画するエプレヒトさんは期待する。
swissinfo、佐藤夕美(さとうゆうみ)
Gablerstr. 15, 8002 Zürich
電話 +41 44 202 45 28/64
ファクス +41 44 202 52 01
火〜日曜日 10〜17時
チューリヒ中央駅から路面電車7番でリートベルク下車
入場料 常設展 大人5フラン(約450円)
展示作品 アジア、アフリカ、アメリカ、オセアニア。1952年創立。チューリヒ市営軽食付きのガイドが毎木曜日12時15分から、20フラン(約1900円)である。要予約
美術館の近くにはチューリヒ湖があり、その湖畔を散歩するのも楽しい。
街の中心から路面電車で5分。高級ブティックがある駅通り(Bahnhofstrasse)での買い物もできる。
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