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物乞いの子どもたちは人身売買の「犠牲者」

ジュネーブの物乞い Keystone

スイスにも物乞いや窃盗をするロマの子どもたちがいる。しか彼らは犯罪者ではなく人身売買の犠牲者であり、保護を必要としていると訴える報告書が発表された。

この報告書に挙げられた提案を実践するために、ベルン市では物乞いをする子どもたちを保護し、路上から一掃した。そしてスイスのほかの都市もこれにならう意向だ。

不十分

 路上の物乞いにいら立つ人もいれば、同情を寄せる人もいる。しかし組織化された物乞いの場合、このような反応は両方とも見当違いだとベルン市の治安担当官者レト・ナウゼ氏は語る。

 「物乞いの背後には冷酷な犯罪組織が存在する。恐らく物乞いをする子どもたちは人身売買の犠牲者であり、保護しなければならない。これは非常に深刻な問題だ」

 そのため都市警察署長会議(Conference of City Police Directors)が開かれ、スイス都市協会(Association of Swiss Cities)、ベルン市、人身売買・移民密輸対策スイス統合チーム(KSMM)の3者が関係当局に向けて一連の対策と提案を記した報告書を作成した。

 この報告書は、物乞いと軽犯罪に対するベルン市の先駆的な取り組み「アゴラ計画(Agora Project)」に基づいている。

 「これまで、外国からやって来た物乞いの子どもや未成年者に対する取り組みは不十分だった」とスイス都市協会の副会長マルタン・チレン氏は認める。そうした上で、彼らを通りから追い払うだけでは何の問題解決にもならないと付け加えた。

新たな視点

 報告書の主要課題の一つは、全関係当局の視点を変えることにある。未成年の物乞いや泥棒はほとんどがルーマニアやブルガリアからやって来たロマで、まず彼らを犯罪者ではなく被害者としてみなすべきだと報告書は主張する。

 2001年6月1日、ヨーロッパ連合(EU)とスイスの間に結ばれた人の往来の自由に関する協定が改定され、ルーマニア人とブルガリア人もビザや滞在許可証なしでスイスに3カ月間滞在できるようになった。その結果、一時的に滞在する物乞いが増え、摘発と逮捕が難しくなった。

 また、物乞いをする子どもたちは捕えられても、未成年であるため罰則を科されることなくすぐに釈放される。

 さらに、スイスでは州によって規制が異なる。ベルン州では物乞いは違法行為ではない。外国人は何らかの合法的な生活手段を入国時に持っていることが義務付けられているため、物乞いには罰金が科せられるだけだ。一方、チューリヒやバーゼルなど物乞いを全面禁止している都市もある。

 ジュネーブでは、2009年に少数の警察官が物乞いをしていたロマを捕え、彼らのパスポートに「物乞い」と記入するという事件があった。市当局はこれを「完全に違法であり、全く容認できない」と発言し、こうした不祥事はなくなった。

 人身売買・移民密輸対策スイス統合チームの責任者ボリス・ミサリック氏は、「新たな視点」の必要性について語った。

 「我々はこれまでの問題を、いわゆる物乞いや窃盗の犯罪と見なしてきた。しかし今後は彼らを犯罪者としてではなく、人権侵害の犠牲者として見るという新たな視点が必要だ。彼らは人身売買の被害者として、援助を受ける権利がある」

再融合

 物乞いをする未成年者は自分の意思でスイスにやって来たのではなく、金儲けのために人身売買を行う犯罪組織に連れて来られたケースが多い。子どもたちは犯罪組織の「管理者」によって親元から買い取られ、物乞いや窃盗の訓練を受けた後に外国に送り込まれる。

 儲けの多い日は、子ども1人でも1晩で最高600フラン(約5万3000円)近くも稼ぐことがある。しかし、管理者が稼ぎのほぼ全額を取りあげてしまう。「十分な稼ぎがない子どもたちは、叩く、閉じ込める、食事を与えないなどの罰を受ける」とミサリック氏は言う。

 報告書によると、理想的な解決法は、子どもたちが自発的に帰国し、祖国の社会に再融合されることだ。

 アゴラ計画の一環として、ベルン市は専門家のいるケアホームに物乞いの子どもたちのための場所を設けた。当局が帰国手続きを整えるまで、子どもたちはそこで教育を受けることができる。親が子どもたちを引き取ることができない場合、子どもたちは後見人に預けられる。

準備せよ

 ミサリック氏によると、物乞いはベルンからはいなくなったが、ジュネーブ、ローザンヌ、ザンクトガレン、バーゼル、ルツェルン各市で再び問題になっている。

 しかし、同氏は、スペイン、イタリアのような西ヨーロッパ諸国、そして「フランスやドイツでさえ」同じ問題を抱えていると指摘し、スイスが受けている影響はそれらの国々より大きいとも小さいとも言えないと説明する。

 「スイスが(ブルガリアやルーマニアからの物乞いの)主な標的になっているとは言わないが、将来何らかの変化が生じて、もっとやって来る可能性に備えなければならない。そのためには現在の状況を観察し、対策を研究することが重要だ」

 そしてこう強調する。「スイスの全関係当局にとって最大の挑戦は、この問題を人身売買の問題として見ることだ」

近年、子どもや障害者を含む多数の物乞いがスイス国外から流入したため、ベルン市警察の外国人担当課は、物乞いを組織する犯罪集団を取り締まる実験的なプロジェクト、アゴラ計画を2009年4月に実施した。

 ベルン市警察の外国人担当課によると、スイスに新たに流入した物乞いの4分の3はルーマニアやブルガリアから、残り4分の1はポーランドやスロバキアから入国した。

 ベルン市警察の外国人担当課は、誰がどのように物乞いを行い、さらに背後で物乞いを操っているのは誰かを調べるために物乞いをする人々を監視し、アゴラ計画の関係当局および国外の関係当局と協力体制を組んだ。

 犯罪組織の構成員は携帯電話を持ち、物乞いに適した場所を調べ、地図に印をつける。整った身なりの監視係が子どもや障害のある物乞いを見張る。

 また、物乞いに使うコップに小銭が半分ほどたまるや否や、集金人が小銭を集め、札に取り換えに行く。

  一日の終わりに物乞いは、町はずれの集合場所に行き、迎えを待つ。

 アゴラ計画の実施期間中に、警察は合計638人の外国人の物乞いに事情徴収を行った。そのうち子どもを同伴していなかったのはわずか69人だった。

(英語からの翻訳、笠原浩美)

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