未来のエネルギー貯蔵問題 スイスの解決策
再生可能エネルギー量を増やすことと同時に、そのエネルギーを貯蔵できるようにすることが世界規模の課題となっている。スイスはアルプスの水力発電所と革新的プロジェクトにより、効率的で持続可能なエネルギー貯蔵方法を開拓し続けている。
現在、太陽光、風力、水力などの持続可能エネルギー源から生産される電気は世界の発電量の約30%を占める(2000年代は約20%)。国際エネルギー機関(IEA)は50年までに、グリーン電力源から生産されるエネルギーは90%近くに上るだろうと予測する。
既にスイスの消費エネルギーの大部分(75%)は再生可能エネルギーで賄われている。主となるのが水力だ。加えて近年には太陽光発電が大きく成長し、風力発電もかなりの伸びを見せる。太陽光発電設備は国内各地に設置され、珍しい場所にも出現している。高速道路沿いで太陽光発電を行う計画もある。
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だが太陽や風による発電は散発的で、特に夏季には発電量が需要量を超えることもある。そのため、余剰エネルギーを貯蔵し、必要に応じて供給できる貯蔵システムの開発はエネルギー転換の最重要課題の1つだ。
アルプスの「水力電池」
揚水ポンプシステムは最も効果的で経済的な解決策だ。これはエネルギーが過剰な時に揚水ポンプで高所に水をくみ上げておき、需要が上回り電気が不足した時にその水を下方に戻して発電するものだ。
スイスには水力発電用の貯水池が約100カ所あり、そのうちの約15カ所が揚水ポンプシステムを持つ。スイス電力会社連盟(VSE/AES)によれば、スイスの水力発電所の貯水池はオーストリアやドイツ、イタリアなどのアルプス周辺諸国と比較して一般的に大きいため、より長く発電できる。
スイス西部のヴォー州では2022年7月に欧州最大級の新しい揚水・タービン式水力発電所が稼働を開始した。この「水力電池」は太陽光・風力エネルギーの変動を調整し、欧州の安定な電力供給に貢献できる見込みだ。
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もしアルプスの氷河が消失した場合には、スイスの山岳地帯に新しいダムや人工湖を造る機会が生まれる。そうなれば、アルプスに貯蔵できるエネルギー量が増え、欧州のエネルギー貯蔵地としてのスイスの役割はより一層重要になると予想される。
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重力発電
スイス南部ティチーノ州のスタートアップ企業エナジー・ボールトはポンプやタービンの原理を利用し、水ではなくコンクリートブロックを用いる新しい発想の蓄電技術を開発した。これは「レンガブロック」を順々に積み重ねて高さ120メートルの塔を組み上げることで余剰グリーンエネルギーを貯蔵する技術で、電力が必要な時には積み上げたレンガブロックを重力で「落下させ」発電する。
ティチーノに建設された試作機(後掲記事)は、すでに海外での関心を集めている。中国の上海近郊に第1号機が建設され、2024年にはアメリカのダラス近郊で第2号機が稼働する予定だ。
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水素を使った排出ゼロ輸送
余剰電力を液体や気体状態のエネルギー源に変える方法もある。これは、例えば太陽光や風力で発電したエネルギーを使って水素を生産し、続いてメタンを製造する技術で、「パワー・トゥー・エックス」と呼ばれる。水素とメタンはいずれも燃料として使え、長期間保存も可能だ。
スイスは化石燃料の代わりにグリーン水素を使うことで環境汚染物質を排出しない乗物「ゼロエミッション・モビリティ」への道を切り開こうとしている。20年には世界初の水素燃料で動く運送用車両の運行を開始。そして2023年6月、ベルン近郊に全国初の高速道路水素ステーションがオープンした。
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スイスは、革新的で起業家精神に溢れた国だが、再生可能エネルギーを使って製造したグリーン水素の開発に遅れをとっている。スイスは国家的な水素戦略を持っておらず、EUとのエネルギー協定もないため、孤立している。
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未来の電池を求めて
将来には、できるだけ少ない環境負荷で少量のエネルギーを迅速に扱える、高効率で費用対効果の高いエネルギー貯蔵システムも必要となる。スイスも参画する次世代電池の研究推進活動「欧州バッテリー2030+」では、従来よりも耐用年数が長く、エネルギー密度が高く、レアメタル使用量の少ないリチウムイオン電池の開発を目指す。
スイス連邦材料科学技術研究所(Empa)の専門家コルシン・バッタリア氏は「スイスには、材料、セルインテグレーション(構成要素の形や配置などを設計・最適化し電池を組み立てること)、エレクトロニクス、バッテリーマネージメントシステム(充電型電池の安全制御システム)、リサイクル、移動用・固定用電池のどの分野に関しても活躍している企業がたくさんある。世界をリードする企業もある」とスイスの次世代電池開発力と守備範囲の広さに胸を張る。
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(独語からの翻訳・佐藤寛子)
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