温暖化する地球、最先端計測と人工知能で監視
![人工衛星](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/Copernicus_Carbon_Dioxide_Monitoring_mission.jpg?ver=24aa6b95)
温室効果ガスの排出・吸収量を高い精度と解像度で計測・可視化する欧州連合(EU)地球観測衛星ミッションが進行中だ。スイスの研究者も携わるこのプロジェクトは、地球温暖化に関する政治的判断に資するリアルタイム全地球モニタリングを目指している。
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パリ協定(気候変動に関する国際枠組み)の取り決めにより、締約国は温室効果ガス排出・吸収量を定期的に報告する義務がある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の国際的合意に基づくガイドラインの規定に従い、輸送、産業、暖房、エネルギー生産などの活動データから算出されるが、算定・報告プロセスには膨大な時間と労力がかかる上、不確実な要素が多い。
スイス連邦材料試験研究所(Empa外部リンク)のゲリット・クールマン研究員は、この温室効果ガス排出・吸収量の評価作業の問題には人工衛星を使った地球観測と人工知能(AI)の活用が有効だと話す。
「AIには温室効果ガスの排出量、発生場所、気候変動への影響に関する大量データを処理し、新たな解釈を導き出せる能力がある」
クールマン氏らは「コペルニクス計画」と呼ばれる欧州連合(EU)プロジェクトに関わっている。温室効果ガス計測技術を活用した地球観測プログラムで、欧州委員会(EC)が運営する。目的は、全地球の二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、二酸化窒素(NO2)の詳細な排出量マップを政府や意思決定者に提供することだ。正確な国・地域毎の排出量をほぼリアルタイムに表示するマップは、政策の妥当性検証や調整に役立ち、石油・ガス関連施設や発電所など特に排出量の多いホットスポットに焦点を当てることもできる。
加熱する開発競争
近年、地球観測衛星は飛躍的に高性能化が進んでいる。2013年には200基ほどだったが2023年には1200基まで急増外部リンクし、現在地球を周回する人工衛星の約2割を占める。米スペースX、米ブルーオリジン、米プラネット・ラブズ、米マクサー・テクノロジーズなどの宇宙開発・衛星技術企業が競合し、小型の人工衛星群による高品質な地球モニタリングで限界突破を目指している。
![ロケットの打ち上げ](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/642683935_highres.jpg?ver=141fe225)
世界経済フォーラム(WEF)の昨年の報告書によれば、地球観測分野の世界経済効果は2030年までに7000億ドル(約108兆5千億円)を超え、年間20億トンの温室効果ガス削減効果が見込まれる。
WEFと米マサチューセッツ工科大学(MIT)は昨年9月に共同発表した白書外部リンクで、こうした地球観測衛星から得られる膨大かつ複雑なデータ外部リンクを統合・解析し活用するには、急成長する機械学習やAI技術が有効だとしている。これらの技術を使えば、これまでにないスピードで生データから実用的な情報や知識を導き出せる。
世界の様々なシステム
現在、世界中で地球観測技術を活用し気候変動を監視する様々なシステムが開発されている。例えば米航空宇宙局(NASA)の炭素観測システム(CMS外部リンク)やEUのコペルニクス大気監視サービス(CAMS)がある。CAMSはコペルニクス計画の1つで、開発・運用は欧州中期予報センター(ECMWF)が担っている。
地球全体の温室効果ガスの監視は、世界気象機関(WMO)主導の全球温室効果ガス監視(G3W外部リンク)計画(2024年開始)が運用する。メタン監視を行う国連環境計画(UNEP)国際メタン排出観測所(IMEO外部リンク)もある。
メタンに関しては、米国・日本で既に数年前から観測機器や人工衛星を使った監視が実施され、石油・ガス施設、炭鉱、埋立地などから排出されるメタンのモニタリングと可視化に成功している。
![モニタリング画像](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/2711.avif?ver=2dbbbba8)
クールマン氏は「こうしたシステムの構築に関する非常に多くの研究やイノベーションが欧州だけでなく世界中で進んでいる。私たちのチームも深く関わっているが、世界中でおそらく何百人もの研究者がこの課題に取り組んでいる」と話す。
人工衛星による大気中CO2濃度変化の観測は既に10年以上前に実現されているが、全地球を網羅するには至っていない。これまでは自然に起こる炭素循環の変動に焦点が当てられてきた。
例えばNASAジェット推進研究所(JPL)は OCO-2(2014年打上げ、太陽同期軌道)、OCO-3(2019年打上げ、国際宇宙ステーションISS設置)の2基の炭素観測衛星で高精度CO2観測を推進してきた。
だが人為的な温室効果ガスの発生源を特定し、全地球を監視・可視化するシステムはまだ存在しない。
この現状を打破するかもしれないのが、コペルニクス計画の地球観測衛星群ミッションCO2M外部リンクと温室効果ガス監視システムだ。
最先端の観測機器・センサー技術を搭載した2基のCO2M衛星の巡回により、全地球の高解像度イメージングを可能にする。第1基の打上げは2026年に予定されている。
CO2M衛星にはCO2とNO2の同時観測が可能な「CO2・NO2イメージング分光器(CO2I /NO2I)」が搭載される。大気中のCO2、メタン、NO2濃度をこれまでで最高の精度と空間分解能(距離的な細かさ)で測定し、人為的に排出されたCO2とメタンをほぼリアルタイムに検出できる。
人為的な炭素源を特定
CO2M衛星から得られる観測データは、地上観測データと合わせてコペルニクス大気監視サービスで解析とモデリングを行う。これにより、人為的に排出された、つまり森林、植物、動物などから自然に発生したものではないCO2とメタンを特定する。
クールマン氏らEmpaの研究者はCO2M衛星に搭載する観測機器に関して欧州宇宙機関(ESA)に様々な提案を行った。CO2とNO2を同時観測する分光器もその1つだ。NO2は石炭、石油、ガスなどの化石燃料の燃焼でCO2と同時に発生する。
![高解像度シミュレーション画像](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/CO2M_Auto0.jpeg?ver=9502255d)
クールマン氏は「NO2とCO2の濃度が両方とも高ければ、このCO2は人為的な発生源からのもの、つまり基本的に化石燃料由来だとわかる」と説明する。
NO2は生物圏の自然な「呼吸」からは発生しないため、CO2M衛星でCO2 と同時にNO2が観測された場合、そのCO2は人為的に発生したものと特定できるわけだ。
さらに人工衛星からは樹木の葉数など地球上の植生の状況や緑の濃さを観測できる。「これらのデータから、地球の大気からどれだけのCO2が吸収されるかを推算できる」とクールマン氏は話す。
スイスの研究者はEU研究開発支援プログラム「ホライズン2020」(2014〜20年)および「ホライズン・ヨーロッパ」(2021〜27年)を通じてCO2Mミッションに関わっている。スイスはEU非加盟だがESAメンバーではある。
だがスイスにはコペルニクス計画への正式な参加資格はないため、本格的な参入はまだ先になりそうだ。スイス連邦議会は2023年に同計画への正式参加に賛成したが、連邦政府は昨年5月、厳しい財政状況を理由に見送りを決定した。
▼2021年の全地球のCO2排出変動の動画。欧州中期予報センターが主導するEU研究開発プロジェクトCoCO2の成果の1つ。
編集: Veronica De Vore/gb、英語からの翻訳:佐藤寛子、校正:大野瑠衣子
![封筒のグラフィック](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2024/04/newsletter_teaser_generic.jpg?ver=77c1784c)
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