スイス社会が求める熟年パワー
昔だったら隠居生活に入っていたような年代でも、今はまだ充分活動的で、環境の変化にも柔軟に対応できる。定年の時期を過ぎても彼らに期待する職場も多くなっているようだ。
804社を対象にした調査によると、70%の企業は熟年パワーに期待していると回答した。また、同調査では、2020年には50歳以上の従業員の割合は現在の4分の1から3分の1に増えると予測している。
経済シンクタンク、アヴニール・スイスとチューリヒ州立銀行が共催で、職場における年齢層を分析するフォーラムをチューリヒで開いた。
スイスは先進国の中でも最も熟年労働者層が多い
調査を行ったバーゼル大学のジョルジュ・シェルドン教授は「熟年層の多くは、職場で上に立つ役目に限定され過ぎています」とスイスインフォの取材に答えた。「それよりも、彼らが就きたい仕事に就けるような努力をすべきです」
シェルドン教授は、熟年労働者が若者よりも高い技術を持っているとは限らず、そのような場合は技術指導を行ったり、職業訓練を受けさせたりするべきだと言う。「調査によると、現代の熟年労働者層は、昔よりずっと健康であるだけでなく、環境に対してこれまでになく身軽で柔軟に対応できる世代です」
また、同教授は「従業員の年齢に関わらず、彼らが何年働いたかということを見るべきです。仕事を始めてから42年間働いたら定年、という制度が良いと思っています」
経済開発協力機構(OECD)の中でもスイスは最も熟年労働者層の割合が多い国だ。55歳から64歳までの年齢層が、従業員全体の70%を占める。一方、バーゼル大学の調査によると、60歳以上になるとこの割合が大幅に減少する。
懸念される社会構造問題
スイスも他の欧州諸国の例に漏れず、少子化によって労働人口が減少し、これから20年以内に年金を充分に受け取れないなどの社会構造問題が深刻化すると懸念されている。
経済が停滞していた1990年代には、早期退職制度が導入され今でもこの傾向は続いているが、専門家は将来を懸念して、ビジネス界や政府に再考を求めている。特に熟年労働者層をより効果的に使うことが重要らしい。
アヴニール・スイスが804社を対象に行った調査によると、半分の企業が定年後も職場に残れるよう、パートタイム制を導入していた。また同じ目的で67%が「長い休暇を与えることを考慮している」と答えており、さらに42%は「特定のポストを続けてもらうためには、仕事内容を変更することも辞さない」とした。
2006年1月の新聞調査では、ABBなどのスイスの大企業は65歳定年自体にこだわっていない。
何歳を定年にするか
シェルドン教授と一緒に調査報告書を執筆したチューリヒ大学のフランシス・ヘプリンゲル教授も、「魔法の境界線」といわれている65歳定年を撤廃するべきだしている。
2005年10月に行われた政府の経済諮問委員会は、65歳からの年金支給を撤廃するべきだと提言した。一方、スイス従業員協会は66歳、パスカル・クシュパン内務相はさらに67歳まで定年を引き上げることに積極的な姿勢を見せている。一方、労働組合は定年を62歳に引き下げ、代わりに個人の状況に合わせた柔軟な定年制度を導入することを提唱している。
swissinfo、マシュー・アレン 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
2003年の統計によると、スイスはOECD諸国中、最も熟年労働者(55歳から64歳)の割合が多い。
OECDは経済開発機構の略で、先進国30カ国が加盟
-OECD諸国中、スイスは熟年労働者の割合が70%だが、次に多いのは日本(63%)、米国(55%)。少ないのはベルギーで27%。
-スイスの定年は現在、女性が64歳、男性が65歳。
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