ダーリンは日本人
小栗左多里著『ダーリンは外国人』が出版されたのは4年前のこと。その頃は、日本女性が結婚相手に特にヨーロッパ人の男性を求めるというブームも起こった。
しかも「以前のような英語の先生ではなく、日本に駐在するビジネスマンがお目当て」( 作家・林真理子 )。高収入で素敵な「旦那様」が売れ筋とか。まさにスイス人男性は日本人女性の憧れの的ではないか。一方、スイスでの離婚率はおよそ4割。特に若くして結婚した人の離婚が多い ( 連邦統計局発行統計年鑑2005年刊 ) 。しかも、外国人男性とスイス女性の夫婦の離婚率は7割以上に達する。
在ベルン日本大使館によると、スイスに住む日本人は昨年10月1日現在で6887人。過去5年間でおよそ1000人増加した。そのうち永住を目的とした女性は2512人、男性は1121人となっている。永住すると答えた人の大半がスイス人との結婚のためではないかと領事班のキュンク順子さんは見る。
馴初め
日本人を配偶者とするスイス人4人に、それぞれの結婚生活について語ってもらった。フランス語圏に住む男性Aさん ( 45歳、結婚暦14年 ) と女性Bさん ( 45歳、結婚暦16年 )。ドイツ語圏に住む男性Cさん ( 45歳、結婚暦18年 ) と女性Dさん ( 43歳、結婚暦19年 ) である。
スイス人の多くが、若いうちに語学留学をする。そのためだろうか、2人が出会ったのはスイス国外の語学学校という人が多い。このほど取材した4人の中でも例外はCさんだけで他の3人は、オーストリアの語学学校やデンマークの国際学校で出会った、日本政府の奨学金を受けて日本に滞在していた時に出会ったと、勉学が2人を結びつけている。
相手のどこにひかれたかという質問に、Aさんの夫人は「他の生徒たちが楽しく勉強ができるように気配りをしたりして、優しかった」という。またBさんも「彼は優しく親切。病気の猫を心から看病した姿を見て、良いお父さんになれる人だと思った」と相手の優しさにひかれたようだ。
Dさんは、夫の魅力について問われると「もう昔のことでちょっと忘れたけれど」と少し考えた。恋の始めと結婚生活での相手の魅力は違うというのだ。もちろん彼の性格は、以前も今も変わっていないという。結局考えた末「彼は創造的でゆったりしたところが魅力。特に物事に肯定的」と答えた。
喧嘩の種は?
一方、相手の性格で困ったと思うこととしてBさんとCさんは、日本人のルーズさを指摘する。スイス人は特に、きれい好きで家事熱心である。生活の習慣の違いから来る喧嘩が多いようで、Bさんは「彼は、レモンが冷蔵庫に6個もあるのにまた買おうとしたり、好きなものをすぐ欲しくなって買ってしまう。まるで、子供のようで、計画性がないこと」と言う。Cさんは「家に帰って玄関に入った途端、日本人と結婚したと実感する。家族の靴が散らばっているから」だそうだ。
Aさんは「日本人は批判されることを嫌うし、彼女もそうだ」と言う。「日本人は批判されると、相手になじられていると受け取るが、それは違う。スイス人はほとんど娯楽に近い感覚でする討論が好きなのに、彼女とはそういかない」とのこと。
ヨーロッパ風の討論や議論に馴染めない日本人は多い。スイス人は議論のための議論をし、言いたい事ばかり言って人の言うことは聞かないと思う日本人が多いことも確かだ。
離婚などありえない
Aさんは離婚について「考えたことなどない」と一言でばっさり。Dさんは「結婚でお互いの信頼関係が生まれた。彼は外国へ出張することが多いが、詮索する必要もない。別れるとしたら、子供に対して暴力を振るわれたとき。共通の興味がなくなったとき。1回ならともかく、繰り返し浮気をされたら」と3つの条件を挙げたが、これまでそんなことは一度もなかったと断言した。
Cさんも、お互いに対する興味がなくなり結婚生活が面白くなくなったときには離婚するかもしれないと答えたが「彼女の裏切りは理由にならない。アバンチュールだけで彼女の人生は満たされないと分かっている。結婚生活はそれ以上のものを与えてくれているはず」と自信たっぷり。
4人の中で唯一、離婚を考えたが思い止まったというBさんは「彼と別れてもまた同じタイプの人と一緒になるかもしれない。古いものを捨てるようにパートナーを変える今の風潮は良くない」と思ったからという。
国際結婚した人の離婚率が高いことについてDさんは「男性が日本人の場合、難しい。日本人の男性は家長としての役割を果たさなければならないという意識があり、面子を気にする。スイスで仕事を見つけるのは難しいので、よほどの成功者か、男性の役割に対する固定観念がなければうまく行くだろう」と指摘した。
言葉はなるべく母語で
彼らはいずれも意識して、多くの言語を操る子供を育てようとている。4家族とも、日本人のパートナーは子供たちと日本語で話し、スイス人はドイツ語やフランス語などそれぞれの母語で話すようにしているという。Dさんは、子供たちをバイリンガルに育てることで、家庭内で2つの文化を平等に扱いたいと思っているからという。
ただ夫婦同士は、日本語を大学で学び日本語学科の助手までしたというBさん以外、簡単な意思疎通程度にしか日本語ができないので ( Aさん )、ドイツ語かフランス語になるという。お互いの母語では相手の能力が不十分なので、知り合ったときの言葉である英語で話すという人もいた。この家庭では、3つの言語が入り混じって食卓を囲むことになるという。
日常生活で重要なのはやはり食事。4家族とも和食もスイスの家庭料理も同様に作ると答えたが「和食は高くつくので洋食が多い」という人もいた。料理をする役は夫か妻かは決まっていないが、整理整頓がされていないためキッチンには入らないと決めたCさんは例外。
社交的で寛容だと得!
自分たち夫婦の誇れる点としてCさんは「2人とも社交的だということ」、Aさんは「他人を尊重し共存しようとすることや、家族や夫婦関係を大切にするところ」だと言う。Bさんはすでに離婚した夫婦の例を挙げ「家に人を招待することが仕事の一部であり大切なことだったが、日本人のパートナーは言葉が上手ではなく、家に人を招待をしたがらなかった」と社交性の大切さを指摘する。
将来スイス人と結婚を考えている日本人へのアドバイスとしてAさんは「結婚を映画のように考えると破綻する」と言う。ロマンスたっぷりに出会うが、醒めてしまうと簡単に別れられると考えるのは、間違っているというのだ。Dさんからは「お互いの理解を高めること。それには日本とスイスの両方に数年住むのが一番だ」と具体的なアドバイスがあった。Cさんは「相手を変えようとするのではなく、自分を変えようと努力すること。お互いに寛容であることが大切だ」と言う。そしてBさんは「他の文化に適応できるかどうかがポイント。言葉の問題もある。とにかく、国際結婚は難しい」とのことだった。
離婚率がヨーロッパの中でも高いスイスで、日本人のパートナーと結婚生活を長年続けている「キャリア」の4人。記者の手前、建前も十分あったとは思うが、言葉の端々に本音もたっぷり聞くことができたインタビューだった。「信頼」「共通の興味」といった夫婦関係をうまく保つ条件のほかに、「寛容」「社交性」「異文化への適応」「語学能力」などが、スイス人と日本人の夫婦にとってのキーワードのようである。
swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) チューリヒ、里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) ジュネーブ
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