助成金はロマンシュ語を救えるか?

スイス人口の0,46%、約3万5千人が使用している国語の一つであるロマンシュ語。使用人口は減少の一方を辿る中、政府はこれに歯止めをかけるため、助成金や州の法律改正などに四苦八苦している。
2006年秋の国会はベルンの連邦議会議事堂が修復工事を行うため、臨時でグラウビュンデン州のフルムスで行うことを9月末、国民議会が採択。これは、少数派ロマンシュ語地方の人々を「忘れていない」ことを示す政治的な配慮である。
ロマンシュ語の難しさ
もし、シーザーの時代のローマ人に遭遇したら、最も言葉が通じるのがロマンシュ語をしゃべるスイス人と言われている。つまり、ロマンシュ語はレト・ロマンス言語群に属し、ローマ帝国崩壊時に庶民が話していたラテン語の名残である。
現在、話されているロマンシュ語には20種以上もの方言があり、書き言葉も5種類ある。このため中央政府との連絡の簡略化のため1982年には標準化を図ったものの、標準ロマンシュ語を受け入れてもらう難しさがあり、少数派言語保護をさらに困難にしている。
欧州評議会の勧告
欧州評議会(Council of Europe)ではヨーロッパの歴史的な地域言語や少数言語の保護を目的とする法令「欧州地方及び少数言語憲章」がある。加盟国であるスイスも1998年4月に同法を発効した。しかし、今年の9月27日、欧州評議会はスイスに対し、行政機関や裁判所などでのロマンシュ語使用を拡大するように勧告を出した。
チューリヒ大学のロマンシュ文学担当のクラ・リアッチ教授は「役所の翻訳文書を増やすより、政府が足踏みしている少数言語保護に関する法改正などを行った方が役に立つ」と話す。また、同氏は「政治的に上から押し付けるのでなく、人々の本当に必要としていることは何かを考えるべきだ」という。ロマンシュ語が母語の人はドイツ語とバイリンガルな人がほとんどなので例えば、軍規の翻訳など必要ないという意味だ。
もっとロマンシュ語を
2004年のグラウビュンデン州(ドイツ語、イタリア語とロマンシュ語を話す)の少数言語保護の助成金は700万フラン(約6億円)。うち、70%がロマンシュ語、30%がイタリア語に分割される予定だ。ロマンシュ同盟のジェオン・アデロンクス事務局長も「高尚なものよりも普段身近に使用する学校やメディアなどに助成金を使うべき」と話す。現在、グラウビュンデン州にある205の自治体のうち、80の学校は最初の3年はロマンシュ語のみで教育を行っている。同氏は「学校教育でのロマンシュ語のプログラムを増やすことや、ロマンシュ語の作家助成、ロマンシュ語通信社(ANR)支援などが一番必要だ」と話す。
前出のリアッチ教授も「テレビ(1963年から)やラジオ(1926年から)などメディアの果たす役割は大きい」と力説する。「昔はエンガディンの方言は渓谷を越えたスルセルヴァンに住む人々には分からなかったのにテレビの普及で標準ロマンシュ語が広まり、ロマンシュ語としての地域間の統一は強くなってきている」と分析する。
それでも、2004年から4つの方言の地方紙が標準ロマンシュ語で統一して一紙となった日刊紙ラ・コティディーアは地域によってはなかなか受け入れられないという。ロマンシュ語の戦いはこれからも続きそうだ。
スイス国際放送 屋山明乃(ややまあけの)
<ロマンシュ語の現在>
– 多言語国家スイスで話されている言語はドイツ語(人口の63,7%)、フランス語(20,4%)とイタリア語(6,5%)にロマンシュ語(0,46%)だ。
– 国語の一つであるロマンシュ語は主に南東部のグラウビュンデン州やアルプス北部の渓谷などで話されている。
– 2000年の統計局の国勢調査では3万5000人が母語とし、10年間で5千人近く減った。
– グラウビュンデン州の人口の17%がロマンシュ語、11%がイタリア語を話す。2004年の少数派言語保護のための助成金700万フラン(約6億円)の70%はロマンシュ語にいき、イタリア語には残り30%が使用される。
– ロマンシュ語と親類関係にあるレト・ロマンス語群に属する言語に北イタリアのドロミテ渓谷で話されているラディン語とイタリア北東部のフリウリ語がある。
– ロマンシュ語にはスルセルヴァン、ストセルヴァン、スルミラン、プテールとヴァラテールと5種類あり渓谷ごとに分かれている。

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。