耐性菌の脅威
スイスでは抗生物質に抵抗性を持つ耐性菌のせいで、毎年少なくとも80人が亡くなっている。
連邦基金 ( Fonds national ) によるプロジェクト「リサーチ49 ( research 49 ) 」が行った調査によると、この現象はますます広がりつつある。研究者たちは「抗生物質に抵抗性を持つ耐性菌センター」の設立を要求している。
「今、対策を立てないと大変なことになります」と語るのは、ベルン大学感染症研究所の教授であり、リサーチ49 の責任者カトリンヌ・ミューレマン氏。このプロジェクトは抗生物質に抵抗性を持つ耐性菌の研究を行い、最近第1回目の研究結果を発表した。
治療法はない
有名な耐性菌としては、「黄色ブドウ菌 ( Staphylococcus aureus ) 」や「大腸菌 ( E.coli ) 」などがある。これらは敗血症や肺炎のような重大な炎症を引き起こし得る。こうした場合、治療は非常に難しい上、時には治療法がない場合があるという。
10年前は院内感染は1年に5件という割合だったのが、今では毎週、耐性菌感染患者が報告されている。
「もう1つの問題は高度に耐性を持つ細菌が病院内から外に漏れ始めていることです」とミューレマン氏。しかしアメリカに比べると、スイスではまだこうした例は稀だという。
リサーチ49の研究者は今行っている耐性菌監視システムである「リサーチ ( RESEARCH ) 」を続行するため「抗生物質に抵抗性を持つ耐性菌センター」創設を訴えている。
これは、耐性菌の状況や抗生物質の消費を監視するだけでなく、情報を提供したり、カウンセリングにも応じる機関となる。
家畜への抗生物質投与
一方、家畜の飼育に関しても、他の諸外国に比べるとスイスの状況はかなり良いという。家禽 ( かきん ) にはまったく高度耐性菌は発見されなかったし、抗生物質に抵抗性を持つ幾つかの耐性菌が他の家畜に最近認められただけである。
しかし、家畜への抗生物質投与をやめさせる努力を続行することは重要だと研究者たちは口をそろえて言う。それには家畜の飼育環境の改善が必須という。
swissinfo、外電 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
スイスでは抗生物質の残留があらゆる場所にみられる。リサーチ49の研究者は地下水脈の中にさえ残留を確認した。
特に残留濃度が高いのは、病院から排出される汚水。この汚水の残留濃度の高さと耐性菌の数の多さの間に関係があることが確認された。
結果として、研究者は病院から排出される汚水を特別処理するよう提言している。この汚水が流れ込む川や湖でも当然、抗生物質の残留がみられる。
家畜に抗生物質を投与することは問題が多い。家畜の持つ細菌が人間に伝染し得るからである。この細菌が耐性菌に変わった場合、人間にとっての危険度は高く、治療が不可能になる可能性が高い。
リサーチ49でテストされた食品中40〜60%に抗生物質に耐性を示す遺伝子を持つ耐性細菌が発見された。この数値は研究者の予想をはるかに超えるものであった。
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