自然保護と観光業の両立 新しい観光のあり方
スイス観光局はこのほど、更なる自然保護を踏まえた上で自然の中へ観光客を呼び込むプランを発表した。自然保護団体と協力して全国から12ヶ所を選び、純粋なスイスの意味で「ピュア・スイス」と名を打って、今年の秋から売り込む。今後3年間で全国50ヶ所が選出される予定。
大勢の観光客が山中をハイキングすれば、自然が破壊される。雪不足の冬にはスキー客のために人口雪を降らせるなどして、河川が化学薬品で汚染されるなど、とかく観光業と自然保護は相反するものがある。今回、スイス観光局が売り出すプラン「ピュア・スイス」は、個人の観光客を対象に自然を保護しながらハイキングなどができるようにしている。
壮大なアルプスの山々の美しさに感動したり、山の中をハイキングして楽しんだりするのがスイスの観光の醍醐味である。一方で、山奥など自然の中に人が入り込めば自然が破壊されるため、観光業と自然保護は常に対立してきた。しかし、スイスは観光の伝統があり「自然保護団体としては、観光業がスイスにとって重要であることは事実として受け止め、これからは観光業に携わる人たちや政府と協力し合って自然保護ができるようになればよいと思う」とハンス・ヴァイス氏は語る。同氏はスイス観光局の依頼を受けて地域の選抜などで「ピュア・スイス」計画に携わった。
観光客も自然を大切にしたい
観光業を専門とするラッペルスヴィル技術高等学校(HSR)がドイツ語圏の2,000人を対象にしたアンケート調査によると、その3割が自然と接した休暇を取りたいと望んでいる。
スイス観光局は同調査の結果を踏まえ、「自然保護と観光をリンクさせ、高いサービスを提供できる商品ならば、ある程度お金を払ってもよいと思う人で、外国人観光客だけではなく、国内観光客にも受けるであろう」と分析した。
よって、「ピュア・スイス」はこれまでのスタイルの狭間を狙った観光商品ではなく、国内旅行の主流となりうるもので、将来有望な収益源になりうると観光局は期待している。
12ヶ所の魅力
今回「ピュア・スイス」に立候補したのは全国22ヶ所。そのうち12ヶ所が選出された。選出の条件は、自然が破壊されていないことや、ほかに例を見ないようなオリジナリティーがある自然を提供できることなど。
調査で分かったのは、自然の中で休暇を取りたいと望む人の9割がハイキングをしたいと挙げていることである。こうしたニーズを踏まえ、また自然保護の観点から12の地域で同プランは、自然の中を歩いて楽しめるように工夫されている。
たとえば、ボー州のジュラ地方のプランでは、カルスト岩壁(石灰岩)がある地方で、苔の草原や多様な植物を観察しながら、ハイキングを楽しむことができる。化石も発見できるかもしれない。1泊朝食付きで85フラン(約7,600円)。また、スイス唯一の国立自然公園、エンガディン地方のサムナウでは、荷物を持たずに手ぶらでもハイキングするプランがある。7泊朝食付きで503フラン(約4万5,000円)。
宿泊施設の収容人数の関係上、通常のプランは個人客が対象だが、団体も受け入れるのは、グラウビュンデン州のトゥーシスからキャベンナまでを歩きローマ帝国からのスイスの歴史をたどる「ヴィーア・スプルガ」プラン。5泊朝食、お昼のお弁当付きで494フラン(約4万4,500円)。「ピュア・スイス」の観光場所として発表された12ヶ所は、いずれも自然が美しい「秘境」ともいえるスイス観光の穴場である。
今年の観光収支
スイスの観光は、今年の上半期までの統計によると、宿泊総数は前年同期比で+1%とやや増加している。特に夏季に訪れた観光客が多く、国別でみると日本からの観光客が前年同期比で25%増だった。その他、韓国、インド、米国、ロシアからの観光客が増大した。
これまで観光局は夏と冬の観光を促進してきたが、「ピュア・スイス」のほか今年からは、「自然が多様で美しいスイスの秋の観光キャンペーンを始め、ウェルネス、ワインを含めたグルメ志向でスイスを売り出す」と観光局のユルク・シュミット局長は、意気込みを示した。
スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
「ピュア・スイス」12のプラン
−自然の不思議 アレッチ氷河の価値
−トリエント谷と山の真の姿
−珍しい植物に会えるジュラ公園
−スイス中央の湖 ビール湖
−自然に癒される グリースアルプ/キーンタル
−ハイキングと生物圏保護地域散策 エントレブーフ/クナイペン
−水の価値 ゲシェネンのアルプス
−手ぶらでハイキング スイス国立自然公園
−干草の花と渦巻き ザンクト・アンテニエン
−スイスの歴史をたどる ヴィーア・スプルガ
−クリ三昧 アローシオ/マルカントーネ
−野外美術館 ムッジョ谷
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