遺伝子解析で植物の生態解明に迫る
植物や動物がどうやって病気を克服していくのか。遺伝子レベルでこれを解明していくために必要なソフトウエアを、スイスのフリブール大学が開発した。
近年、マイクロアレイの開発で、今まで骨の折れる手作業だった遺伝子の解析プロセスを手早く、しかも正確に実施できるようになった。しかし、実際この莫大な遺伝子情報の中から必要な情報を取り出すのがまた一苦労。
どの遺伝子が暑さや寒さ、病気などに対して、どのような働きをしているのか。今までだったら、こんな疑問は考えるだけ無駄というものだった。
新兵器
植物の遺伝子は2万2000個もあり、そのほんの一部でも解明しようと思ったら、何年もの歳月が必要だった。しかし、近年マイクロアレイ技術が考案されたことによって、一度に何千もの遺伝子を解析できるようになった。これを使えば、遺伝子の性格を分析することなど数週間でできてしまう。
しかしこの技術は膨大な量のデータを生産するので、これをふるいにかけて重要なものだけ取りだすことが必要になってくる。フリブール大学が開発したFiReと呼ばれるソフトウエアを使えば、マイクロアレイが遺伝子を解析して集めた情報を、短時間で比較・分析したり、画像化したりすることが可能になる。多様な実験からデータを集めることも可能だ。この結果、今まで知られていなかった植物の生態を遺伝子レベルで解明できるのだ。
フリブール大学の植物生物学部、ジャン・ピエール・メトロ学部長は「このソフトの開発は、遺伝子の解析への非常に大きなステップです」と胸を張る。
「マイクロアレイは素晴らしい発明ですが、ここから出てくる膨大なデータを分析するのは一苦労です。FiReは非常に早い速度で多くの情報を処理します。これを使えば、研究者は長い間待たなくても、自分の実験の方向性を見つけやすくなるのです」
手作業では間違いのリスクも
メトロ学部長は「この新しいソフトを使えば、どの遺伝子が活性化されているか、またどの遺伝子が抑制されているか、手早く解明することができるのです」と説明する。
「これは具体的にどういうことかと言うと、植物がストレスや気温の変化、病気などにどう反応するかを知る手がかりになるのです。または、植物が成長していく過程でどのようなことが起こるか、花が咲くときに遺伝子はどんな働きをしているか、などということも分かるようになります」
フリブール大学によると、今までのようにマイクロアレイから得たデータから、このように具体的な目的のために必要な情報を手作業で得るのは、間違いのリスクも高かかった。
加速する科学の進歩
科学雑誌 『 植物科学トレンド ( Trends in Plant Science ) 』 の6月号でこの新しいソフトウエアの開発が紹介されて以来、多くの反響を得ている。
「これまで、植物の遺伝子を取りだしたい時には博士課程の学生に頼んでいましたが、これを成し遂げる頃には、その学生はもう博士課程を修了してしまっていたりするほど長い時間がかかっていました。しかも遺伝子の数も4個がいい所でしょう」とメトロ学部長は振り返る。
swissinfo、アダム・ボーモン 遊佐弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳
マイクロアレイとは、遺伝子がどのように機能するか解析するコンピュータシステム。1990年半ばに考案された。
– FiReは、フリブール大学の数学科と生物学科が共同で、3年間かけて製作したコンピュータソフト。
-FiReはマイクロソフトのエクセルで誰でも使える。
-7月初旬にサービスが開始されてから、7月末までに400人の人がダウンロードした。
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