「日本ブーム」到来 旅行先としての日本の魅力とは
観光客の数が増加の一途を辿る日本だが、スイスからの観光客も例外ではない。近年、日本へ旅をするスイス人が増えている理由とは?そして、伸び悩むスイスの観光産業が日本から学べることとは?
日本政府観光局の統計によると、スイスからの訪日者数は2003~16年の13年間で155%増加している。スイスの観光業者の間でも、とりわけここ2年間は一種の「日本ブーム」が訪れているという共通の認識がみられる。
16年の訪日客数の中で最多だった中国人の約637万人に対して、スイス人の約4万4千人は一見僅かに見えるが、両国の人口に占める割合で見ると、スイスにおける日本の人気は高いと言える。中国の場合、人口の0.47%が同年に日本を訪問しているのに対し、スイスは0.53%。欧州で訪日者が最多だった英国の0.45%より多い。
欧州旅行手配大手クオニイ・グローバル・トラベルサービス外部リンク(クオニイGTS、スイス・チューリヒ)の広報責任者マルセル・シュラッターさんは、「グローバルランキングでトップに名を連ねるまでの人気はまだない。だが、アジア地域に限定すれば、ここ数年で日本は人気旅先ランキング・アジア編で下位から4、5位に順位を上げた」と話す。同社から日本へ送り出した旅行者の数は過去2年間で倍増した。
日本を旅するスイス人が増えた第一の要因は、治安の良さ、フラン高・円安、そして日本行きの航空券の価格が以前に比べて下がったことだ。治安については、とりわけテロの影響で、欧州諸国に比べて日本は安全な旅先に位置付けられている。
また、言語の壁が低くなったことも、日本を旅するスイス人が増えた大きな要因の一つだ。シュラッターさんは、以前はとりわけ50歳以上の中高年による団体旅行が多かったが、「ほぼ全ての観光地で、英語で案内が書かれるようになってから旅がしやすくなり、個人旅行をする人が増えた」と話す。
この点について、日本専門家でガイドブック「In Japan外部リンク」の著者ヤン・クヌーゼル外部リンクさんはテクノロジーの発展を強調。
「日本は便利なモノやサービスで溢(あふ)れているが、日本語が理解できない外国人にとって、日本での滞在は非常に複雑。それが、オンラインマップサービスや翻訳アプリなどのお陰で、日本語が分からなくても一人旅がしやすくなった。テクノロジーが言語の壁を乗り越えるのに強く貢献している」。また、数年前から日本の観光業も英語のアプリ開発に力を入れており、随分便利になったと話す。
一方でクオニイGTS社のアジア地域専門部署Asia365外部リンクのルート・ランドルト部長は、それでも言語の問題はまだ残るという。その意味において、日本はまだ上級者向けの旅先だ。
これに同調するのは、30年以上日本を中心にアジア地域の旅行のツアーを企画するハリー・コルプ旅行代理店外部リンクのコルプ代表。「日本を旅するのは、行動様式が似ているイタリアやスペインに行くのとは訳が違う」。その意味で一定の「障害」は残る。「距離も遠く、簡単にいける国ではない」
若者を惹き付けるソフトパワー
こうした障害にも関わらず、スイス人を惹き付けるものは何なのか?
「日本は強力なソフトパワーを持っている」と言うのはクヌーゼルさんだ。チューリヒではここ数年、ラーメンや居酒屋風の和食のレストランが次々と開店している。その傾向を例に挙げ、スイス全体でも日本の文化に対する関心が高まっていると言う。
「日本の漫画やアニメで育った世代が今大人になり、実際に日本を旅してみたいと考える人が増えている。彼らは漫画の世界で日本の日常に触れ、日本を身近に感じている」(クヌーゼルさん)
彼と同じ見解に立つAsia265のランドルトさんだが、だからこそ日本旅行の人気がこの先も続くかどうかは分からないとランドルトさんは懸念する。特に人気が若者の間で広まっていることを考慮すると、彼らの関心が他の国に移ってしまえば、旅行者の数は下がるとみている。
人気の持続性が課題
この点について、「一過性のブームに終わってしまわないように、日本には長期的戦略が必要だ」と話すクヌーゼル氏は、マーケティングの仕方次第で、より幅広い層のスイス人に関心を持ってもらえると確信する。
「スイスのメディアで日本ほど観光マーケティングを行っている国はない。だが、残念ながら、ほとんどが東京や京都、芸者や相撲など、外国人がイメージする典型的な日本に焦点を当てている。しかし、実際は他の外国人観光客が訪れないような、隠れ家的な秘密スポットのツアーを要望する顧客が増えている」
コルプさんの旅行代理店でも、やはり上記の都市や富士などは相変わらず人気だ。しかし、通常では行けないような場所や、予約が取りにくい旅館のプランを求める顧客は日本通がほとんどだという。
しかし、クヌーゼル氏は、多様で豊富な日本の自然にフォーカスを当てることで、自然を好むスイス人の幅広い層にアプローチできると語る。
例えば北海道。自国もスキー大国でありながら、わざわざ北海道までスキーに出かけるスイス人が増えているというのは興味深い。訪れたスイス人からは「スイスの重い雪に比べて、北海道の雪はふわふわしている」との声が寄せられているそうだ。
「日本人はよく『北海道はスイスと似ているからあまり訪れる意味はないと思う』と言うが、そういうアドバイスはやめたほうがいい(笑い)。自然から食べ物までスイスとは全く違う文化がそこにはある」(クヌーゼル氏)
スイスが日本から学べること
日本へのスイス人旅行客が増加の一途を辿る一方で、スイスの観光産業は近年伸び悩んでいる。とりわけ欧州諸国からの客数が減少しているが、日本人も例外ではない。スイス政府観光局によると、2012~16年の間で日本人の延べ宿泊数は63%(約61万人泊)も落ち込んだ。
日本はもともとスイスのような観光大国ではない。だが、日本人観光客を取り戻すために、スイスの観光産業が日本から学べることがあるとしたら、それは何だろうか?
「日本の観光産業はマーケティング、とくにソーシャルメディアを最大限に活用できている。まだ注目されていない地域やモノを発見し、開拓する力にも長けている。そして、そこにストーリー性を加えればウケることをよく知っている」とクヌーゼル氏は語る。
反面、「スイスの観光産業はまだ伝統的な手法から脱け出せていない。もっと日本のようにストーリーテリングを活用すべきだ」と締めくくる。
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