スイスの経済政策の評価は? ノーベル賞経済学者に聞く
外需頼りの景気回復、医療保険の負担増、産業界の談合——。先行きが暗くなるようなトーンでスイス経済をめぐるニュースが連日伝えられるなか、異論を唱える人が1人いる。「スイスの経済政策は心配するほど問題はない」と話すノーベル賞受賞の米経済学者ジョン・ナッシュ氏に、通貨を始め、スイスの経済政策をどう考えているのか聞いた。
——「スイスの経済政策はうまくいっている」とは、どういう意味ですか?
具体的には、スイス当局の為替政策のことだ。スイスの経済は強いフランで恩恵を得ていると思う。スイスの保険業や銀行業が強いのは、強いフランのおかげだ。金融がスイス経済の要となっているのも偶然ではない。
政府の為替政策でフラン安を唱える人もいるだろう。スイス製品の国際的競争力が高まり、輸出が増え、企業業績が拡大するとの考えからで、それは一理ある。だが、スイス通貨に対する評価に悪影響を与えるというマイナス点を見逃している。
アルゼンチンやブラジルは通貨を切り下げたが、政策としてうまくいかなかったのもその一例だ。
——スイス以外に、経済政策の舵取りをうまくやっている国はどこですか?
日本。日本は、間違った政策をとっていると外国からやり玉に上げられることが多いが、アジアであれだけ高い生活水準を維持している国は他にない。それなりに高い生活水準を維持しているのであれば、経済がうまく回っているという証拠だと理解している。
——スイスは欧州連合(EU)に加盟していません。経済的にどんな影響がありますか?
EUの枠の外に居続けるのはいろいろと難しいと思う。だが、スイスはそれなりに独立性を維持してここまでやってきているように見えるから、経済的にどんな影響を受けているのか、正直なところわからない。
ユーロに限定して言えば、単一通貨の導入にはそれなりに利点がある。単一通貨を導入すれば、通貨政策の自由まで失われてしまうと考えるべきではない。単一通貨の導入と、単一の通貨政策の受け入れは別個の話で、分けて考えた方がいい。
ユーロ導入について、いろいろ議論があるようだが、イギリスとデンマーク、スウェーデンが導入を決めるまでスイスは静観しているのではないかと思う。
スイス国際放送 クリス・ルイス 安達聡子(あだちさとこ)意訳
ジョン・ナッシュ氏の履歴:
1928年、米ウェスト・バージニア州に生まれる。
22歳で数学の博士号を取得、経済学でのゲーム理論の論文を書き上げる。
30歳から精神分裂症にかかり、約25年間闘病生活を送る。
1994年、他の2人のゲーム理論家と共にノーベル経済学賞を受賞。
ナッシュ氏の生涯を描いた本『ビューティフル・マインド』は2001年に映画化されている。
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