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スイス時計の救世主、ハイエック氏に聞く

「6歳のころの空想力、創造力を忘れないように。それが道を切り開き、会社では推進力になる」とハイエック氏は力説する

今年5月、スウォッチグループジャパンのビル「ニコラス・G・ハイエックセンター」が銀座に誕生した。

スウォッチグループの会長、ニコラス・G・ハイエック氏は壊滅状態にあったスイス時計業界の救世主である。

 80年代の初め、スイス時計業界は日本のクオーツ時計のせいでほとんど壊滅状態にあった。そのとき、安価だが機能、デザイン性にすぐれたスウォッチ時計を発売してスイス時計業界を救ったのが、当時工業コンサルタント業務を行っていたハイエック氏だった。その後、18の時計ブランドを統合し、スウォッチグループを創立したハイエック氏は、同時にダイムラー・ベンツとともにに小型車「スマート ( Smart ) 」を考案するなど、絶えず革新的なアイデアを打ち出し続ける「巨人」である。銀座の新しいビル、今後のグループの戦略、スイス時計業界など、ハイエック氏ならではの哲学を語ってもらった。

swissinfo :  今回の「ニコラス・G・ハイエックセンター」はスウォッチグループの新しい戦略ですか?

ハイエック :  5〜7年前から始まった新しい戦略です。それは世界の大都会で一番の中心地の土地を買い、グループの建物を創ることです。東京は、銀座の一等地が手に入ったのでこの戦略の初めになったのです。

初めは土地代が高すぎて断りましたが、場所が本当に東京の中心地で、土地代はますます上がっていくだろうし、、それに何といっても東京が我々の建物を受け入れてくれたのです。外からの侵入者というより、自分たちの、東京文化の一部として受け入れてくれたことが大きかった。

次は上海。上海も町の中心に、古い有名で、歴史的なホテルを借りられました。中国は現在不動産が買えないので例外ですが、今後パリ、ロンドン、ニューヨークでは東京のように土地を買って続けていきます。

swissinfo :  でも、なぜいつも都会の中心地をターゲットにされるのですか?

ハイエック :  最大限の人に我々のメッセージを伝えたい。ダイナミックなコミュニケーションを行いたいからです。

sswissinfo :  建物そのものがメッセージとなり、目立つ宣伝効果ということですか?

ハイエック :  宣伝とコミュニケーションとは違います。宣伝とは、必ずしも本当でなくても、それをイメージで売ることです。コミュニケーションやメッセージとは「我々はこうなのだ」と真実の姿を多くの人に伝えることです。

東京の建物は表通りから裏に抜けられる構造になっています。レストランももうすぐオープンします。全ての人が気軽に入って店を眺め、メッセージを受け取っていくのです。みんなに開かれているのです。

さらに全建物の25%は庭。土地代のことを考えるとばかげた行為ととられるかもしれませんが。日本文化に対して敬意を表したかったということも大切な要素です。お客を迎え入れる清潔で美しい十分な空間や「誠実さ」などを生み出そうとしました。

swissinfo :  日本人はなぜブランドものが好きだと思われますか?

ハイエック :  日本人は一般にまじめで、ものを作りあげる人たちだからです。ものを作る人は評判を勝ち取るとは何かを知っている。ブランドが存在し続けるには、正直に作り上げ、しかも特別なものをもっていなければならない。そうでなければすぐに死んでしまう。

つまり日本人は「ブランドとは何か」を知っているから好きなのです。先進工業国で、考え方が繊細である国の人たちはみなブランドが好きです。日本人だけではない。スイス人も、そしてヨーロッパ人も大体ブランドが好きです。

swissinfo : やがてスイス、日本の 2国間協定が成立しますが、東京進出はそのせいもあって、アジアマーケットの中心との考えがありましたか?

ハイエック :  いいえ、日本は昔から大切なお客でした。われわれのグループの第2か第3番目の買手です。中国、その他のアジアマーケット、ヨーロッパ、アメリカなどもこれから伸びていくでしょうが、それと日本は関係ない。日本は大切な信頼のおけるお得意先です。日本人は簡単に考えを変えるような国民ではありません。信頼が置けます。

われわれはグループにとって今大切なところにいつも進出するのです。日本はアジアではいつも一番大切なマーケットの1つであったし、これからもそうです。

swissinfo :  ところで、スウォッチグループの時計は全部スイスで作られたられたものですか?

ハイエック :  グループのブレゲ ( Breguet ) などは100%スイスで作られています。スウォッチ ( Swatch )もほとんどそうです。ティソ ( Tissot ) などは一部部品を外国で作っていますが、スイスでは機械式時計は80%、クオーツは60%スイスの部品で、かつスイスで部品を組み立て、コントロールした上で初めてスイスメイドと呼べるという規定があります。我がグループはその規定を十分以上に満たしています。

日本もジャパンメイドを続けるべきだと思います。特に質を維持したい場合は。実は会社の発展は社長の質ではない。社員個々人の質なのです。日本も日本人の個々の労働者の質を維持していくことが大切です。外国でものを作り出すとそれが失われていきます。

swissinfo :  スイス時計が世界で一番であり続けるには何が大切でしょうか。

ハイエック :  まず第1はテクノロジーです。品質の悪い時計だと動かなくなってしまいますから。次が、ハンドメイドの美しさです。見てください。( 美しく細工された時計の裏蓋をみせる ) これは手で作られたものです。

第3がコミュニケーション。第4が販売。最後がデザインの美しさです。とにかく美しいことは大切です。でも自国独自の文化の美しさ、デザイン性を追及することです。他国のコピーはいけません。

swissinfo :  最後に、発明者であり、革新的なアイデアを持ち続けておられますが、スマートに似たような、それでももっとエコロジカルな車を生み出すことを考えておられませんか?

ハイエック :  まさに、そうした車を考えています。非常にエコロジカルですが、きちんと毎日乗れるような車です。我々の小さな地球は危機に瀕しています。救う手立てを考えないと。この車のエンジンはスイスで構想されますが、生産は日本とか、ベルギーとかどこでもいいのです。でもまだ秘密です。3カ月後にはもっと具体的な話ができると思います。そのときは、記者会見にあなたを招待しましょう。

swissinfo、 聞き手 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

ニコラス・G・ハイエック氏
1928年生まれ。80年代の初め、ほとんど壊滅状態にあったスイス時計産業界を救った人物。
2003年にはフランス政府から最も権威あるレジオン・ドヌール勲章を贈られた。
現在はスウォッチグループの会長を務める。

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