ビクトリノックス、唯一のスイス・アーミーナイフ生産メーカーに
スイス・アーミーナイフの代名詞、ビクトリノックスがライバル社ウェンガー社を買収した。
スイス・アーミーナイフの製造は、スイスではこの2社の独占だったが、外国資本にウェンガー社が買収される前に、ビクトリノックスが乗り出した。これでスイス・アーミーナイフは、スイス人の手からしっかり離れないというわけだ。
スイス・アーミーナイフの握り手部分に特徴的な十字架。これはスイスの国旗と同じ図柄だ。「このスイスの十字架が外国人の手に渡るなんてとんでもありません」とビクトリノックスのカール・エルゼナー部長は、外国企業との競争を振り返る。スイス・アーミーナイフを生産する企業は、長年ビクトリノックスとウェンガーの2社が独占状態を保っていた。しかしこの安定したビジネスも、2001年9月11日に米国で起きたハイジャック・テロ事件のあおりを受け、売り上げが大きく落ち込んだ。免税店で観光客がアーミーナイフを買っても、安全上の理由で機内に持ち込むことができないのだ。空港のX線機械でナイフや包丁、鋭利のものは何でも引っかかり、没収か留め置きの憂き目にあう。スイス・アーミーナイフももちろん例外ではない。
失業者はなし
スイス特産のアーミーナイフを家族経営で生産し続けてきた2社は、4月26日、共同声明を出して協力関係を発表した。この発表によると、ウェンガー社は現在資金難に陥っており、ビクトリノックスの資金協力を受ける。これによってリストラを図り、2006年には再び利益を出すことを目指している。
今回のリストラ計画の中には、工場の移転や人員削減などは含まれていない。「ウェンガー社の150人の社員と地元ジュラ州の人々は、この発表を聞いてさぞかしほっとした事でしょう」と同社の役員、ジャン・ジャック・グンツィンガー氏は語る。「今回の決定はウェンガー社にとって最良の解決策でした」
ビクトリノックスの昨年の売上高は1億6,900万フラン(約148億円)、ウェンガーは同2,300万フラン(約20億円)であった。純利益や株価は両社とも公表していない。
2,570万個ものアーミーナイフを毎年輸出
スイス・アーミーナイフを使っている本家本元、スイス軍も一時期に比べて兵士数が減少しており、両社へのナイフ発注数も落ちた。このため、両社はビジネス活路を海外に見出しており、両社合わせて年間2,570万個のアーミーナイフを150カ国に輸出している。
今回の合併でビクトリノックスグループは、従業員が1,500人以上となり、取引高は今後4億フラン(約350億円)を見込んでいる。
ウェンガー社が本社を構えているジュラ州の州政府は今回の発表について「胸をなでおろした」とコメントした。
swissinfo 外電 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
スイス軍が2社に発注しているスイス・アーミーナイフはそのスイス国旗がついた握り手が特徴的。
ビクトリノックスとウェンガーは2社でスイス軍全体からの発注を請け負っている。スイス・アーミーナイフの製造許可はこの2社にのみ認められている。
ビクトリノックスは欧州でも最大手のナイフ製造メーカーで、スイス・アーミーナイフでは7割のシェアを占めている。ウェンガーは3割。
ビクトリノックスの創設は1884年。ウェンガーはその9年後に創設。
2001年9月11日の飛行機ハイジャック・テロ以降、両社とも免税店での売上高が15%〜20%も減少した。
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