プライバシー保護は過去のもの?
プライバシー。それは、テクノロジーの進歩とともに忘れ去られてしまうコンセプトなのかもしれない。
チューリッヒで開催された「プライバシーとセキュリティーに関するシンポジウム」で、急進する技術は現行の個人情報保護法規制ではすぐに管理不能になると、出席した500人の専門家らは事態の理解と迅速な対応を呼び掛けた。
シンポジウムに出席した連邦工科大学(ETH)チューリッヒのフリードマン・マッターン教授は、「コンピューターの小型化はどんどん進み、価格も手ごろになっている。今や、コンピューターはあらゆる物に装着可能となった。この状況では、プライバシーは如何様にも侵害され得る。問題なのは、社会が何が起きているか、そして技術的に何がどこまで可能になっているかという事に気付くのに時間がかかることだ。」と発言した。
例えば防犯カメラ。これなども十分プライバシー侵害と受け止められる要素はあるが、皆必要なものとして受容している。が、マッターン教授によると、未来の技術では、監視装置がより人目につかない形でどこにでも存在するようになるという。防犯カメラくらいならよろしい。が、個々の家電製品などに超小型コンピューターがインストールされるようになったら、どうなるか?どこへ行って来たかデータを記録する旅行カバン、摂取カロリーをモニターする冷蔵庫、保険会社の審査のため運転技術に関する情報を自動登録する車など、あらゆる個人情報が公にされてしまうことになる。このような世界で生きて行くのはいかがなものか?「先進諸国では2010年までにプライバシーは意味のない概念となるとされている。私は個人的にはそう思っていない。人はプライバシーを保ち続けたいと思うはずだから。が、我々は今、技術的に何が可能かという事を迅速に理解し対処するべきだ。」とマッターン教授はいう。
シンポジウムでは、テクノロジーがプライバシー保護に役立つことも強調された。マイクロソフトのジェイソン・ガーム氏は、同社が過去の批判から「信頼できるコンピューター」に焦点を絞っていることを強調した。「我々はただ顧客に『信頼して下さい』と嘆願して回るわけにはいかない。信頼は時間をかけて勝ち取るもの。が、我々はこれまで成し遂げた事、これからして行く事を示し、顧客に我々の進歩を判断する材料を提供する。」とガーム氏は語った。
また、アリアンツ・スイスのウォルフガング・サイラー氏は、暗号ソフトの処理機能が十分精巧でないポケットコンピューター、電話、パルムトップなどでは、セキュリティーがモビリティーの犠牲になっていると指摘した。さらにサイラー氏は、シンポジウムは空港、カフェ、企業、一般家庭などにインストールされているワイヤレス・ホットスポットのセキュリティーに関しても対応しなければならないと、警鐘を鳴らした。ラップトップをケーブルや固定電話回線なしで使用できたら便利だが、ラジオ周波経由の通話やデータ送信は通常アンテナで誰にでも容易に傍受できるとサイラー氏はいう。サイラー氏は、アリアンツが実施した電話によるアンケート調査で46%の人が進んでパスワードを明かしたとスピーチを締めくくった。
プライバシーの貴重さは増すばかりだが、プライバシー保護のための措置は未だほとんど講じられていない。
「プライバシーと情報セキュリティー財団」主宰のシンポジウムがチューリッヒで開催。
第1回シンポジウムは93年。
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