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プライベート・バンクは今も絶好調

「プライベート・バンクは今でも金融界で主要な役割を担っています」と語るピエール・ダリエ氏 Keystone

富裕層をターゲットにした小規模の銀行、プライベート・バンクはスイスのお家芸の一つだ。一家族の財産のみを扱うところもあり、顧客の要望に応じて柔軟で迅速な対応をしてくれる。

しかし近年、クレディ・スイスなど大手銀行も同じようなサービスを行い始め、昔ながらのプライベート・バンクは危機に瀕しているのではないか、との風評も立ち始めた。

 しかしプライベート・バンク側はこのような風評に強く反論している。「確かに現在、次々に施行される法律や規制に手を焼いているが、2006年は従来通り、ビジネスに集中できる年になる」、と言う。

我々は最後のパンダじゃない

 1月12日にベルンで行われた記者会見で、スイス・プライベート・バンカー協会会長、ピエール・ダリエ氏はプライベート・バンクの未来に自信を示した。「実際のところ、我々はこれまでになく力を持ってきているのです。確かにプライベート・バンクの数は減りました。しかしビジネスは拡大しており、我々は引き続き、成長基調に乗っています」

 「顧客の皆様には、我々のきめ細かいサービスと、資産マネージメントにご満足頂いています。そして、お客様が資産を代々受け継いでいって頂けるよう、我々は最善の努力をしています」

 しかし、UBSやクレディ・スイスのような大手の銀行も、最近になって富裕層獲得に力を注ぎ始めた。「プライベート・バンク危うし」、ではないか。ダリエ氏はスイスインフォとのインタビューでこのような風評を笑い飛ばした。「皆さんがまるで私たちを、絶滅寸前の最後のパンダのように噂しているのは、まったくお笑い草です」
 
 プライベート・バンクの定義は広いが、ここでプライベート・バンカーと呼ばれるには、最低でも一行のプライベート・バンクのパートナー(取締役)であることが条件となる。自らプライベート・バンクの資本に参加し、無制限の責任を持つ。つまり顧客とは一心同体であるわけだ。顧客に大損させることは、直接自分自身の生活にも影響する。

 「だからこそ、私たちは大きなリスクを回避し、利益を出し続けることに全力を注いでいるのです」

恐れるものは何もありません

 しかし、メガバンクの資金力は豊富で、ITを駆使して世界中から運用資金や投資商品を顧客の前に広げて見せることができる。

 ダリエ氏はそんなメガバンクは鼻にもかけない様子だ。「自分の財産内で資金を運用し、リスクの高いキャピタル・マーケットには手を出さないというのが我々のモットーです。何か買いたい投資商品があるからといって、マーケットでお金をかき集めるというようなことはしません」

 近年、プライベート・バンカー協会から脱退するプライベート・バンクも増えてきた。しかし、ダリエ氏はそんなことは大きな問題ではないという。「別にプライベート・バンクが結束していなければいけないというわけでもありませんし。我々が『賢い』ビジネスを行い、次の世代にしっかりした商品やサービスを提供できる限り、恐れるものは何もありません」

古典的プライベート・バンク・サービス

 また別のプライベート・バンカーにも話を聞いた。クリスティアン・ラーン氏は、チューリヒのプライベート・バンク、ラーン&ボドマー (Rahn&Bodmer)のパートナーだ。
 
 「確かに現在、金融市場は転換期を迎えています」。巨大な資金が国際株式市場を駆け巡り、一夜にして大金持ちになったり一文無しになったりする時代だ。「けれども、このような時流に流されず、プロフェッショナルで独立したサービスを行うプライベート・バンクを信用してお金を預ける、という人々もまだ多くいるのです」

 「名前の通った銀行が巨大になればなるほど、隙間産業の重要性はより大きくなります」。ラーン氏は、銀行業界では巨大プレーヤーと中小規模のプレーヤーの両方が必要だと言う。小売業でも、巨大スーパーの隣に個人商店が並んでいるのと同じなのだそうだ。

 「今日のプライベート・バンクの成功は、個人的で中立的な金融サービスがまだ必要とされているという証明になっています」

 スイス・バンカー協会の広報、ジェームズ・ネイソン氏は胸を張る。「プライベート・バンクは、規模は小さいかもしれませんが、今まで我々が行ってきたことに誇りを持って仕事をしています。つまり、スイスが各国の皆様に提供する『古典的プライベート・バンク・サービス』は今だに健在、ということですね」

 「日々莫大なお金が飛び交う金融マーケットの時流が一段落した時、スイスはプライベート・バンク業界で世界のリーダーとして残っているでしょう。大体、その金額は個人的に投資されるお金の3分の1にものぼるのではないかと予想されています」

swissinfo、ロバート・ブルックス 遊佐弘美(意訳)

スイス・プライベート・バンカー協会はスイス銀行法に従って1934年に設立。
スイスの資産マネージメントに関する法律へのロビー活動も活発に行っている。
会員になっているのは世界中で14行。計5000人が働いている。

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