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ベルニナ急行の世界遺産へ申請の動き

ベルニナ急行がポスキアボ付近を通過するには、ループをいくつか登りつめなければならない。 Rhaetian Railway

スイスの三大急行といえば氷河急行、パノラマ急行そしてベルニナ急行である。標高2,253メートルまで上がるベルニナ急行をユネスコの世界遺産に登録することが検討されている。登録されれば世界で第3番目の鉄道の世界遺産となる。

ベルニナ急行はアルプス山脈を南北に横切って通っており、高度の技術を使った石造りの鉄道橋や曲がりくねったカーブやトンネルなどで観光客は目を見張るような風景を楽しむことができる。

ベルニナ急行はスイス東部のクールから発し、イタリアの国境を越え、ティラノが終着駅である。およそ145キロの行程だが、4時間かかるのは標高584メートルのクールからオスピチオベルニナの2,253メートルまで登るため。歴史建築物の技術に関して執筆のあるトム・P・ペーターズ氏によると「難しい地形に路線が敷かれており、上り下りが激しく、カーブが多い路線だ。鉄橋は石造りでこれも珍しい」という。同路線は標高差が大きいことから、20世紀の鉄道建築技術の奇跡とも言われてきた。

一部だけの登録では不十分

 当初、ユネスコの世界遺産への登録が申請されるのは、ベルニナ急行の全路線の中でアルブラ渓谷の一部のみとされていた。しかしこれに対して、登録にもれることになるポスキアボ渓谷の住民は抗議した。その一人であるカシアノ・ルミナティ氏は、「ベルニナ急行は地域住民にとって重要な意味があるのに、登録されないのは不当だ。ベルニナ急行を運営するレーティシュ鉄道は住民に相談もなく独自で決定したので、傲慢である」と不満の声を上げた。

 ポスキアボ渓谷の住民にとって、ベルニナ急行は年中走行している唯一の交通手段である。また、この鉄道を利用しポスキアボを訪れる人の数は年間35万人で、鉄道なしにポスキアボの生活は考えられない。ルミナティ氏は「世界遺産の指定を受ければ訪れる人も増えるであろうし、僻地の経済の活性化にもつながるかもしれない」と世界遺産に指定されることのメリットを挙げ、ベルニナ急行の終着駅があるイタリアのヴァレンティナ地方と協力しスイス政府に申請の内容変更を求めたのである。

 ベルニナ急行を運行するレーティシュ鉄道のエルンスト・バハマン副社長も「当初は鉄道の一部を申請するつもりだったが、サンモリッツからポスキアボを経由してティラノまでの区間も素晴らしいのでベルニナ急行全線を申請するつもりである」と応じた。

経費は増額

 バハマン副社長は当初、一部のみを申請しようとした理由として、「世界遺産に指定される条件がはっきりしないため、鉄道の維持費や改築費など経費面での不安があった」という。しかし、政府と経費の面で負担増にならないよう確認し合い、全線登録することのメリットなどを検討した結果、全線の登録がもっとも適切だと判断されたという。

 一方、前出の歴史建築物の専門家、ペーターズ氏によると、登録されればメンテナンスに経費がかさむほか、一部の改築を迫られることも考えられ、「現在の鉄道に手を加えるためには、手がける建築家のデザイン感覚と建築史の知識が必要となろう」と経費面では問題が残るだろうという。 

 いずれにせよ、ベルニナ特急の最大魅力は、トンネルや高い鉄橋などで景色が壮観なアルブラ渓谷である。また、ポスキアボ峠からイタリアまでの下り坂になる前のベルニナ峠、オスピチオベルニナ付近も素晴らしい。峠は鉄道が通る欧州最高の標高2,253メートルを誇る。急傾斜をいくつものループトンネルで登りつめるので、特に観光客の呼び物となっている。

スイス国際放送 デール・ベヒテル (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

ベルニナ急行
出発点 クール(標高584m)
石造りの鉄道橋や多くのカーブとトンネルを通り、アルブラ渓谷付近は壮観。
サンモリッツ、サメダン、ベルニナ峠(同2,253m)を登りきって、ポスキアボまで。
その後イタリアの国境を越え、ティラノ(同429m)に至る。

ベルニナ急行をユネスコの世界遺産に登録申請することが検討されている。現在のところ世界遺産の指定を受けている鉄道は、オーストリアのアルプスを通るセメリング鉄道とダージリング・ヒマラヤ鉄道のみ。

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