金融危機で年金が飛ぶ ?
金融危機によりスイスの企業年金は、今年すでに300億フラン ( 約2兆9000億円 ) の損失を出している。しかし、年金運用者は、この損失はいずれ埋め合わされるだろうと楽観している。
複数の専門家たちによると、企業年金の損失は過去1年間で、年金総額の1割に相当する600億フラン ( 約6兆8000億円 ) に跳ね上がったが、証券取引市場が引き続き下落すれば、損失額はさらに膨らむという。
いまだ黒字
スイスの大手企業年金運用会社「スイスカント ( Swisscanto ) 」は、チューリヒの会合で、企業年金はこの8カ月で総額は5%下落したことを認める報告書を発表した。これは2001年、2002年の金融危機に比較される規模だが、企業年金は十分な現金の準備があり、加入者への支払いは滞らないと報告書は断言している。
報告書によると、スイスの企業年金の平均現金準備率 ( 企業年金の成績を示す指標 ) は1月から8月の間に、109%から103%に下がったという。指標が100%以上であれば資産が負債を上回っているわけだ。
「もちろん市場の動きに企業年金も影響されている。しかし、パニックになる必要はない。4月の雪は新しい氷河期を意味しない」
とスイス企業年金協会のハンスペーター・コンラート会長は言う。
将来の見方分かれる
一方、「マーサー投資コンサルティング」の年金専門家ヴィリ・トゥルンヘール氏は、9月末までに企業年金の損失は、特に証券市場が荒れた場合、400億フラン ( 約 3兆9000億円 ) まで膨らむと見ている。
「もし、市場が年末まで下がり続ければ、企業年金は多少なりとも債務超過になる。
その場合、黒字になるように保険料金は上げられるだろう」
トゥルンヘール氏はさらに、企業年金の場合連邦政府の保証があるので、緊急事態になれば国庫からの拠出があると指摘した。また、スイスの企業年金制度が国外のこれに相当する制度と比較してもしっかりしているのは、厳しい法の規制があり十分な資金の貯蓄を義務付けているためだとも言う。
一方、チューリヒ大学の金融専門家マルティン・ヤンセン教授は、スイスの企業年金の将来を黒く塗った。企業年金は過去1年間で600億フラン ( 約5兆8000億円 ) の損失を被っているが、さらに懸念されるのは、その負債額の算出方法だという。ヤンセン氏は、現在計算されている加盟者の寿命より人々は長生きすると見ている。また、企業年金は、資金増加のスピードを過大評価しているという。
「資本対負債の指標は現在のところ良好に見えるが、将来は悪くなるだろう。誰かがその損失をカバーしなければならなくなる。その誰かは現在の ( 年金を支払っている ) 労働者だ」
swissinfo、マシュー・アレン 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳
スイス大手企業年金の「スイスカント ( Swisscanto ) 」がこのほど発表した調査では、スイスにある427件の企業年金、4221億フラン ( 約41兆円 ) 、加盟者234万3807人が対象になった。
調査によると平均現金準備率は2007年末から現在まで7~9%下がったという。しかし、平均で見ると企業年金の資産は債務を上回っている。ファンドマネージャーのポートフォリオは近年変化し、例えば外国の不動産やヘッジファンドに投資が移行している。
企業年金に関する新法が将来施行されることになるが、これにより投資対象金融商品の規制は緩む。企業年金の運用者は規制緩和を歓迎しているが、最低還元率の設定については批判的だ。
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