新通貨制度ソブリンマネー否決、新賭博法は可決 スイスの国民投票で
スイスで10日、通貨制度の抜本的改革案「ソブリンマネー・イニシアチブ」と、オンライン賭博の規制を厳格化した「新賭博法(連邦法)」の2件が国民投票に掛けられた。「ソブリンマネー・イニシアチブ」は反対が75.7%で賛成の24.3%を大幅に上回り、否決。新賭博法は賛成72.9%、反対27.1%で可決された。他に州レベルで行われた住民投票では、2026年冬季五輪招致に予算を投入するヴァレー(ヴァリス)州の財政プランが否決された。
実現すれば世界初だった「ソブリンマネー・イニシアチブ」は否決
イニシアチブ「危機に耐えうる通貨を:通貨創造は唯一、国立銀行で!外部リンク」は、金融政策の権限を定めた連邦憲法第99条を改正し、民間銀行の信用創造を禁止してスイス国立銀行(スイス中銀/SNB)だけに通貨創造を認めるよう求めていた。またスイス中銀に権限を集中させる一方、独立性を維持し、今後も国全体の利益に寄与する通貨・金融政策の遂行任務を負わせるとした。
イニシアチブは2008年の金融危機を機に、経済学者や金融専門家、企業が発案。貸付を繰り返すことで預金通貨を増やす民間の信用創造機能はお金が手元になくても融資できるため、これが最終的に投機バブルを膨らませ、銀行を支払い不能に追い込み、金融危機を招いたという考えが根底にあった。
通貨の創造機能をスイス中銀に限定すれば、銀行はもはや「無から」お金を創り出すことができなくなり、スイスフランは世界で最も安全かつ確実な通貨となって、今後の金融危機からスイスを守れる。さらにリスクを伴う投資が減って金融業が安定するほか、預金や決済がスイス中銀のお金で100%カバーされることから透明性や安全性が高まり、顧客にとってもメリットが大きいと賛成派は訴えた。
一方反対派は、通貨制度を根底から変えるリスクは大きく、莫大なコストがかかるほか、どこの国にもない制度を採用することで、スイスの金融政策への信頼が揺らぐと警告。金融業界が被る損害は予見できず、競争にも不利になり、多くの銀行や雇用の将来が危ぶまれると主張した。加えて銀行の業務能力を著しく制限するものだと訴えた。
スイス中銀、スイス連邦議会はいずれも反対を表明。スイス中銀のトーマス・ジョルダン総裁は、他国と全く異なる制度を試験もせずに導入すれば混乱をきたしかねないと警戒感を露わにした。連邦議会でイニシアチブを支持した政党はゼロだった。
5月の世論調査では反対が54%、賛成が34%、不明が12%だった。
インターネットの検閲行為と批判された「新賭博法」は可決
今回可決された新賭博法外部リンクで大きく変わるのは、スイス国内でオンラインカジノの運営が可能になること。ただスイスに法人を置く企業に限られ、それ以外のギャンブルサイトは全て接続遮断(サイトブロッキング)の対象となる。
また、ギャンブルの賞金に対する課税の不均衡が是正される。これまでは宝くじやスポーツ賭博だけが課税対象だったが、宝くじやスポーツ賭博、国内外のカジノの賞金に対する課税対象額が100万フラン(約1億1500万円)以上となる。
スイスのカジノは免許制で、ギャンブル依存症対策など運営に厳しい規制が課せられている。一方、国外を中心としたオンラインカジノは一定の利用者がいるにも関わらず法規制の枠外だったため、政府が対策を急いでいた。新賭博法は昨年9月、スイスの連邦議会で賛成多数を得て可決されたが、4大政党(国民党、急進民主党、自由緑の党、緑の党)の青年部がこれに反対。国民投票に必要な署名5万件を集めレファレンダムを提起し、国民投票へ持ち込んだ。
青年部は、新賭博法で外国企業を締め出せば、国内カジノ企業の独占を許すことになると主張。またサイトブロッキングを「政府によるインターネットの検閲」と非難し、規制を強化することで利用者が闇市場に流れると訴えたが支持は広がらなかった。
ただサイトブロッキングに関しては、多くの有権者が問題視した。シモネッタ・ソマルーガ司法相は国民投票前、既に欧州17カ国がサイトブロッキングを導入済みだとして正当性を強調したが、「これを前例にして、カジノ以外に検閲が広がるおそれがある」という懸念は根強く残った。
直近の世論調査では賛成58%、反対37%、不明5%だった。
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