VRで溶けゆくスイス氷河を体感
気候学者はアルプスの氷河が2100年までに消失すると予測する。仮想現実(VR)はその未来を目に見える形でわかりやすく人々に伝える。
スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)などの研究チームは最近、2017~50年の間にアルプスの氷河の50%が消失すると推計した。温暖化対策がどれだけ進んでもそれだけ溶ける。その後は気候がどう変化するか次第だ。
気候変動が自然や景観に及ぼす影響を説明すべく、巡回展「Expedition 2 Grad(仮訳:2度の探究)外部リンク」がスイス各地で開かれている。観覧者がVR用メガネを装着すると、ベルナーオーバーラント地方にあるアレッチ氷河外部リンクを巡る時間と空間の旅が始まる。VRではアレッチ地域が何百年も前からどう変化してきたか、今後どんな風景になっていくのかをリアルに体感できる。
科学誌「氷雪圏外部リンク」に掲載された同研究論文は、現在の「温室効果ガスの排出量が多いケース」が今後数十年にわたって急速な温暖化をもたらすと指摘する。
論文の共同執筆者の1人、ETHZのマティアス・フス氏は「この悲観シナリオでは、2100年にはアルプス山脈にほぼ氷がなくなり、現在の氷の体積の5%程度の氷の塊が点々と散見される程度になる」と話す。地球全体の実際の排出量は、このシナリオが前提とする量をわずかに上回っている。
スイスの氷河は既にかなり溶けている。過去170年間で、氷の総体積は130立方メートルから52立方メートルに減った。
VRのアルプス
巡回展は、人々が温度の2℃上昇が実際にどんな意味を持つかを感覚的に理解するのを助ける。2015年に締結されたパリ協定は、産業革命前からの地球の気温上昇を2度以内に抑える目標を掲げている。
8月22日までスイス南東部にあるツェルネッツ国立公園で、9月10日から来年1月23日まではヴァレー(ヴァリス)州のナーテルス世界自然フォーラムで展示予定。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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