「地球の限界」を超えない経済活動案、大差で否決 スイス国民投票
![煙突から出る煙と山](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2025/01/608183770_highres.jpg?ver=0e10490e)
9日の国民投票で、スイス有権者は「地球の限界」を越えない経済活動を求める案を圧倒的多数で否決した。
![ニュースレター登録](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2024/11/newsletter_teaser_press_review_p.jpg?ver=adea315d)
おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
不支持率は事前の予測をさらに上回る結果となった。自然の回復力を超えない経済活動の義務付けを求める国民発議「地球の限界を越えない責任ある経済のために(通称:環境責任イニシアチブ)」は、有権者の反対69.8%、26州全ての反対で否決された。投票率は38%で、平均の45%を大きく下回った。
世論調査会社gfs.bernの政治学者ルーカス・ゴルダー氏は9日、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に対し、同案を支持したのはおそらく左派と環境保護団体に限られていたと語った。多くの有権者にとって、気候変動や環境問題は依然として重要な問題ではあるものの、こうした「過激な」提案に対する支持は低かったと分析した。
左派の緑の党(GPS/Les Verts)青年部が提起した環境責任イニシアチブは、スイスの経済活動を「地球の限界」、つまり自然の回復能力の限界に収めるよう義務付ける内容の条文を、連邦憲法に追加することを求めていた。
地球の限界を越えずに経済活動を行うには、スイスは地球の限界の範囲を判断する項目のうち、特に「気候変動」、「生物圏の健全さ(生物多様性・生態系のバランス損失)」、「淡水利用」で消費を削減する必要がある。環境保護団体「グリーンピース・スイス」は、スイスは1人当たりのCO₂排出量を9割以上削減しなければならなくなると推定していた。
国民発議(イニシアチブ)発起人委員会は具体策を提示していなかったため、可決された場合は議会がそれを担い、「社会的に受け入れられる」方法で10年以内に目標を達成すべきだとしていた。
![地球の模型](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2024/12/467184953_highres.jpg?ver=a859d102)
おすすめの記事
「地球の限界」を守れ スイスで国民投票
緑の党青年部は9日、今回の投票結果に対する不満をあらわにし、科学的根拠に基づく環境危機への警告を無視した「現状維持派」が勝利したと語った。声明では、反対派は「不安を煽る」戦術を使い、有権者の関心を環境保護から経済不安にすり替えたと述べた。
左派の社会民主党(SP/ PS)のリンダ・デ・ヴェントゥーラ氏はSRFに対し、青年部の提案は常に国民投票で苦戦を強いられることから、結果は予想通りだったと語った。ただ、投票結果は決して「環境保護への反対を意味しているわけではない」と言う。過去に国民投票にかけられた気候保護法(2023年)や電力法施行(2024年)が可決されたのはスイス有権者が進展を望んでいるからで、今回の提案が受け入れられなかっただけだと述べた。
反対派では、中道右派の中央党(Die Mitte/Le Centre)のマキシム・モワ氏もこれに同意している。同氏はフランス語圏のスイス公共放送RTSに対し、有権者は環境問題に関心を寄せていると語った。しかし、有権者は「現実的な」環境保護政策を望んでおり、生活の質を著しく悪化させたり、「非現実的な」期限の中で取り組みたいわけではないと指摘した。
連邦政府・議会やビジネス界は、環境責任イニシアチブはスイスの財政に破壊的な影響を与えると主張し、反対を表明していた。政府は、企業が国外に移転する可能性や消費者が直面するであろう物価上昇を指摘し、「スイスの現在の生活水準を支えるものの多くを放棄しなければならなくなる」としていた。
反対派からは、必要な改革の規模が大きければ、スイスは発展途上国になってしまうと危惧する声も上がった。右派の国民党(SVP/UDC)のニコラス・コリー議員は投票キャンペーンで、「(可決されれば)スイスの繁栄は失われ、アフガニスタンやハイチ、マダガスカルのような国々と同様の経済レベルに逆戻りしてしまうだろう」と訴えていた。
![象徴的な町を持ち上げる男](https://www.swissinfo.ch/content/wp-content/uploads/sites/13/2015/01/aad69f5cd7b247c82cfceaf95267235c-popular-initiative-jpg-data.jpg?ver=1ce21224)
おすすめの記事
イニシアチブとは?
低い関心
結果は明らかだという印象を有権者に与えてしまったことも、社会的関心の高まりに欠けた一因だったようだ。ベルン大学の研究グループ「アネー・ポリティーク・スイス」によると、今回の国民投票に関するメディアの報道は平均を大きく下回った。そのほか、投票キャンペーンの予算(両陣営とも)が低かったことや、先月発表されたヴィオラ・アムヘルト国防相の辞任など、「競合するメディアイベント」も要因となった。
環境責任イニシアチブが今後の世論に影響を与えるかどうかは、まだ不明だ。スイスの直接民主制では、ベーシックインカム(最低生活保障)案や軍隊廃止案、そして今回国民投票にかけられた地球に優しい経済活動を求める案など、たとえ否決されたイニシアチブでも、世論に新しい風を吹かせることができれば、それは時には成功と言える。
▼環境責任イニシアチブ否決 賛成派・反対派の反応
編集:Reto Gysi von Wartburg/ts、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:上原亜紀子
出典:Keystone-SDA/SRF/RTS
![JTI基準に準拠](https://www.swissinfo.ch/jpn/wp-content/themes/swissinfo-theme/assets/jti-certification.png)
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。