どうなる3月3日のスイス国民投票 年金改革がテーマ
スイス有権者は3日の国民投票で、2件の年金改革案の是非を決める。66歳への定年引き上げは可決されそうにないが、年金の年間受給額を1カ月分増やす案は当日まで読めない展開だ。
老齢・遺族年金(AHV/AVS、日本の国民年金に相当)の年間受給額を1カ月分増やすというイニシアチブ(国民発議)は、着実に支持を失っている。
このイニシアチブは、高齢者の購買力を強化する目的で労働組合が提起したもの。2月上・中旬にスイス公共放送協会(SRG SSR)が実施した世論調査では、依然53%が「賛成」と答えた。
賛成がわずかに優位だが、可決と決め込むのはまだ早い。
というのも、このイニシアチブ「より良い老後生活のために(13カ月目の年金イニシアチブ)」が可決されるには、有権者の過半数だけでなく、州の過半数の賛成というハードルもクリアしなければならないからだ。
つまり可決には23州票のうち12州票の賛成が必要だ。世論調査によると5州の動向が不明で、最終的に賛否がどちらに転ぶかはまだ分からない。
困窮する年金受給者を支援
イニシアチブを支持する左派と労働組合は、年金受給者はインフレと生活費の高騰により生活苦にあり支援が必要だと主張する。投票キャンペーンの中で、多くの年金受給者が自ら経済的困難を世に訴えている。
このような状況を改善するため、イニシアチブは現在の12カ月分の年間受給額に加え、13カ月目、つまり1カ月分の追加支給を要求している。
AHV/AVSの年間支給額は、独居で2450フラン増の最高3万1850フラン(約540万円)、夫婦で3675フラン増の4万7775フラン(約810万円)になる。
「ばらまき型」と批判
提案に反対するのは右派・中道右派の政党と主要な国内経済団体だ。
追加年金の財源は社会保険料・税金の引き上げにつながり、そのしわ寄せは現役世代に行くと訴える。
さらに支給対象は高所得者も含む「ばらまき」型であり、真の経済苦にある人々だけを助ける策ではないとも指摘する。
在外スイス人への「中傷キャンペーン」
スイス国民党(SVP/UDC)は投票キャンペーンで、老後に国外移住するスイス人を激しく非難した。安い生活費という恩恵を受けている、というのがその理由だ。
国民党のマルティナ・ビルヒャー国民議会(下院)議員は報道陣に対し、「13カ月目の年金の恩恵を受けるのは主に外国人と在外スイス人だ。だがこれらの人々には、追加財源となる付加価値税(VAT、日本の消費税)の支払いや賃金負担がない」などと述べた。
この批判を受け、在外スイス人側はフェイスブックのグループを作り、自分たちに対する「中傷キャンペーン」を批判した。
在外スイス人協会(ASO/OSE)のアリアーネ・ルスティシェリ代表は、国外に住む80万人のスイス人について「スイス人がそそのかされて同胞を誹謗中傷するような事態を、非常に憂いている」とswissinfo.chに語った。
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66歳定年制は否決か
2件目の提案の運命は決まったも同然だ。急進民主党(FDP/PLR)青年部が立ち上げたイニシアチブで、第一段階として2033年までに年金受給開始年齢を段階的に66歳に引き上げることを求めている。
その後は平均余命の延びに合わせて自動的に引き上げる仕組みとする。
このイニシアチブ「安心で永続的な老後保障のために」の目的は、年金財政の立て直しにある。
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スイス社会保険局(BSV/FSIO)の試算によると、イニシアチブが可決されれば2030年までに約20億フランが節約でき、少なくとも2033年までの年金財源を確保できる。
右派・中道右派政党は同案を支持するが、有権者の過半数を納得させるにはほど遠いようだ。
反対は着実に増えている。SRG SSRの世論調査によれば、63%が反対票を投じると回答した。
左派・中道の反対派は、このイニシアチブを「反社会的、技術万能主義的、非民主的」「年金制度改革にはふさわしくない」と批判する。
また反対派は労働市場における高齢者の現実を無視していると訴える。55歳以上の人が失業した場合、新しい仕事を見つけるのはすでに困難だという。
スイスではわずか1年前、女性の年金受給開始年齢を64歳から男性と同じ65歳に引き上げる案が国民投票で可決されたばかり。こうした背景からも、今回のイニシアチブが可決される見込みは低い。
編集:Pauline Turuban、独語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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